森会計事務所

2023年4月から『給与デジタル払い』解禁へ

23.01.10
ビジネス【労働法】
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2023年4月よりスマートフォン決済アプリ口座に給与を送金する『給与デジタル払い』が可能になります。
企業が給与支払いの選択肢にデジタルマネーを加えることには、どのようなメリットや問題点があるのでしょうか。
今回は、給与デジタル払いの概要やメリット、導入時の懸念事項について解説します。
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デジタルマネーが給与支払いの選択肢に

日本政府は、2025年までに、キャッシュレス決済比率を4割程度まで上昇させることを目指しています。
2021年のキャッシュレス決済比率は32.5%を記録し、そのうち電子マネーは2.0%、コード決済は1.8%と、どちらの比率も年々上昇傾向にあります。

キャッシュレス決済の利用が増加するなかで、新たに導入が予定されているのが企業の『給与デジタル払い』です。
労働基準法では、給与支払いについて、「通貨で・直接労働者に・全額を・毎月1回以上・一定の期日を定めて支払うこと」と定めています。
一方で、厚生労働省の労働政策審議会分科会は2022年10月、給与をデジタルマネーで送金する、いわゆる『給与デジタル払い』制度の導入を視野に入れた労働基準法の省令改正案を了承しました。
これにより、2023年4月からは給与のデジタル払いが可能になる見込みです。


企業が給与デジタル払いを導入するメリット

今回の改正により、従来の銀行や証券口座への振り込みのほか、『PayPay』『LINE Pay』『楽天ペイ』といったスマートフォン決済アプリ口座も、給与の入金先に設定できるようになります。

ただし、デジタルマネーによる給与支払いは労働者側の同意が前提であり、かつ国が指定した決済アプリ業者の口座を設定しなければなりません
また、企業は決済アプリ業者を給与支払い先に設定する場合も、銀行や証券口座などの選択肢を併せて労働者に提示する必要があります。

企業が給与デジタル払いを取り入れるメリットには、以下があげられます。
●送金手数料を軽減できる
銀行口座に給与を振り込むよりも、資金移動業者の口座に送金する方が手数料は安くなる可能性があります。
そのため、デジタル給与を採用することで、給与を振り込む際の手数料の負担軽減が期待できます。

●多様な人材の確保につながる
デジタルマネーが給与支払いの選択肢に加わると、銀行口座を持っていない、または開設が難しい労働者も働きやすくなり、外国人労働者や日雇い労働者といった多様な人材の確保につながります。
デジタル給与を希望する労働者を集めやすくなることで、企業の労働力不足の解消も期待できるでしょう。
また、デジタル給与を採用するとリアルタイムでの送金が容易となるため、フリーランスや個人事業主との取引をスムーズに進めやすくなります。

●チャージの手間が省ける
労働者側のメリットとしては、スマートフォン決済アプリ口座で給与を受け取ることで、チャージの手間が省けることがあげられます。
キャッシュレス決済が普及し利用比率が増え続けているなかで、チャージの手間なくデジタルマネーが使えるようになれば、労働者側の利便性向上につながります。


給与規定の見直しなど、必要な準備とは

では、企業が給与デジタル払いを導入するには、どのような準備が必要になるのでしょうか。
まず、給与規定の見直しを行う必要があります。
合わせて、口座振り込みと同様、労使協定の締結が必要です。
その内容は、対象労働者の範囲や対象となる賃金の範囲と金額、対象となる取扱金融機関・証券会社・指定資金移動業者、実施開始時期となります。
さらに、デジタルマネーを支払い方法として追加した場合、今後どのように運用するかについても具体的に決めておかねばなりません。
たとえば、申請書や同意書といった書類と必須記載内容、その手続き方法についてなどです。

また、現在使っている給与システムで対応できるかどうかの確認も大切です。
給与は所定の支払日の午前10時頃までに全額が払い出しまたは払い戻しが可能となっていることが一般的であるため、システムのチェックに併せて給与支払業務の再確認といったものも必要です。
企業の関連システムが、デジタルマネーに対応できない場合はシステムの改修や入れ替えを検討しなければなりません。その際に要するコストや時間について、あらかじめ確認しておきましょう。

一方で、給与デジタル払いの導入にあたっては、個人情報の取り扱いや資金移動業者が破綻した場合の対応などに懸念があります。
なお、使用者には、資金移動業者口座の受入上限額を超えた際や破綻時に備えて、代替となる口座の把握を求められています。
給与デジタル払いの解禁は企業側・労働者側にさまざまなメリットがあるものの、決済アプリ業者の歴史はまだ浅く、給与口座に設定することに不安を感じる人も少なくありません。
資金移動業者を複数選択できたりするなど、労働者側の利便性や不安などを考慮した対応が必要です。

給与のデジタル払い導入にあたっては、給与規定をどのように変更するか、システムや運用はどうするかなど、専門家のアドバイスを受けながら検討してはいかがでしょうか。


※本記事の記載内容は、2023年1月現在の法令・情報等に基づいています。