森会計事務所

部下の不祥事で上司を懲戒処分する前に知っておきたい注意点

17.04.13
ビジネス【労働法】
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社内で不祥事が起きたとき、その行為者に対して厳しい処分を行うのは当然です。不祥事の内容によっては、懲戒処分を科すこともあるでしょう。 

その場合、行為者の上司に対しても、指導監督責任の観点から懲戒処分を下したほうがいいのでは、と考えてしまいがちです。 

しかし、「部下の不祥事」と「監督責任」を理由に、上司に対して懲戒処分する場合は、慎重に対応する必要があります。 
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■上司の行為が就業規則のどの懲戒事由に該当するのかを検討 
懲戒処分を行う場合、就業規則において、懲戒対象となる事由と懲戒処分の種類を規定しておく必要があります。そのため、部下の不祥事で上司を懲戒処分する場合も、就業規則に定めがあることを前提に、上司の行為が就業規則のどの懲戒事由に該当するのかを、検討することが求められます。 

その場合の懲戒事由の具体例としては「部下への管理監督または業務上の指導、指示を怠り、部下が懲戒処分に相当する行為をしたとき」「部下の非違行為を知得したにもかかわらず、その事実を隠ぺい、または黙認したとき」などが挙げられるでしょう。 

■上司の懲戒処分で検討すべきこと 
部下の不祥事で上司を懲戒処分する場合、検討する必要がある事項は、以下のようになります。 

・管理者として監督指導義務の不履行の有無 
・規律違反(不履行)の程度 
・会社での前例の有無 

通常は、上司への処分よりも行為者への処分のほうが重い場合が多いです。しかし、部下が重大な違反行為を行い、会社に甚大な損害をもたらした場合、部下の違反行為の阻止や発見の遅れについて、上司に重大な過失があるならば、上司も懲戒解雇の対象になることがあるでしょう。 

■部下の横領で上司が懲戒解雇になった事例 
部下の不祥事で上司の懲戒解雇が有効になった裁判があります(関西フエルトファブリック事件、大阪地裁、平成10・3・23)。 

・経理担当社員が約8,500万円を横領していたのが発覚 
・上司である営業所長は、経理担当社員と何回も飲食をともにし、月給20万円程度(営業所長も周知している)の経理担当社員に対し、飲食代や歓送迎会2次会などの費用を立て替えさせていたにもかかわらず、精算を申し出ることもなく放置 
・営業所長が健全な常識を働かせれば、経理担当社員の行為に不審の念を抱き、横領行為を発見できる状況にあった 
・営業所長が日計表や現預金残高などの経理関係書類のチェックを著しく怠ったため、発見が遅れ、横領額が増大した 

以上の点から、上司である営業所長の重大な過失が認められ、就業規則の懲戒事由に該当するとして、懲戒解雇が有効になったのです。 

ただしこの場合も、客観的に見て合理的な理由があり、社会通念上相当であるかという観点を踏まえてはじめて、上司の懲戒解雇が有効だと判断されたのです。 

■「連帯責任」だけで上司にも懲戒処分を科すことは避ける 
「部下が不祥事を起こしたら、上司も懲戒処分を受けるべき」と、上司について具体的な懲戒事由への該当性を検討せずに、単なる連帯責任を名目として懲戒処分を科すことは避けましょう。上司自身の管理監督義務違反の内容を慎重に検討することが必要です。 


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