森会計事務所

出資持分が「あり」と「なし」で異なる医療法人の売却方法

26.09.01
業種別【医業】
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院長の高齢化や後継者不在などから、病院や診療所を「閉院」するのではなく、「売却」という形で第三者に事業承継するケースが増えています。
個人の開業医であれば、譲り受ける側に資産や負債を個別に譲り渡す「事業譲渡」という形式で比較的シンプルに売却を進められます。
しかし、医療法人の場合は法人の設立時期やその後の移行状況によって「出資持分あり」と「出資持分なし」の2つのケースに分かれ、売却の仕組みも異なります。
医療法人の売却を考えるうえで把握しておきたい、持分の有無による具体的な手続きの違いを解説します。

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高齢化や後継者不在にみる医療法人の未来

現在、医療機関を取り巻く環境は、かつてないほど厳しさを増しています。
2025年には、全国の医療機関の倒産件数や休廃業・解散件数が2年連続で過去最多を更新しました。
その大きな要因の一つとなっているのが、病院や診療所の開設者および代表者の高齢化です。

厚生労働省の発表によれば、2018年の時点で病院の代表者の平均年齢は64.3歳、診療所の開設者も61.7歳に達しており、現在ではさらに高齢化が進行していると推測されます。

しかし、代表者自身の子どもや親族、あるいは院内の勤務医などが後継者にならない場合、最終的な選択肢として「閉院」を考えるケースも少なくありません。
ただ、いざ閉院するとなると、医療機器の廃棄処分や、電子カルテなど患者データの適切な処理、テナントの原状回復工事など、多額のコストが生じます。
さらに、かかりつけの患者が『医療難民』となるリスクや、雇用しているスタッフの生活にも影響を及ぼす可能性があります。

そのような状況下で、閉院を避けて医療機関を存続させるための手段として注目されているのが、医療法人の売却(第三者への承継)です。

個人の開業医がクリニックを売却する場合は、法人格を持たないため、譲受側に設備や従業員などの事業そのものを個別に譲り渡す「事業譲渡」という形式になります。
一方で、医療法人の場合は、法人が持つ権利や義務を引き継ぐ「法人格の承継」という異なるアプローチが必要となり、検討事項も多岐にわたることになります。

「持分あり」の医療法人を売却するケース

医療法人を第三者へ承継する際に、最も重要となるのが「出資持分」の存在です。
「持分あり」か「持分なし」かによって、法人の財産に関する権利関係と売却の枠組みが異なります。

「出資持分」とは、医療法人の設立にあたって出資を行なった者が、法人が解散した際に出資額の割合に応じて残余財産の分配を請求できる権利を指します。

2007年の医療法改正より前に設立された医療法人には、この出資持分が認められていました。
「持分あり」の医療法人を売却する場合、出資者が保有している出資持分を譲受側となる後継者に譲り渡す「持分譲渡」という方法で行われます。
その際、譲渡価格は設立時の出資額で決まるわけではなく、法人の純資産に加え、将来の収益力や地域の信用などを反映した営業権を考慮して算定されます。

この方法の最大のメリットは、持分を譲渡することで売り手が売却益を受け取れる点です。
また、法人格をそのまま引き継ぐため、各種契約の結び直しも最小限で済みます。

一方、デメリットとしては、長年経営が順調で純資産が多い法人の場合、持分の評価額が非常に高額になりやすい点です。
高額になると、譲受側が多額の買収資金を用意できず、成約のハードルが高くなる可能性があります。
ほかにも、事業承継を先送りしている間に持分の評価額がさらに上昇し、多額の相続税や贈与税が発生して、親族の負担が増すおそれもあります。

「持分なし」の医療法人を売却するケース

2007年の医療法改正以降に設立された医療法人は、原則としてすべて出資持分なしの形態をとっています。
「持分なし」の医療法人の場合、仮に法人が解散したとしても出資者への財産分配は認められません。
解散時の残余財産は、定款の定めに従い国や地方公共団体、ほかの医療法人など、医療法で定められた帰属先に引き継がれます。

「持分なし」の医療法人を売却する際は、そもそも持分という売買対象が存在しないため、社員総会を構成する社員の入退社と理事などの役員交代を同時に行うことで、実質的な経営権を第三者に移転させる手法をとります。
また、対価については持分の売却益として受け取ることができないため、退任する理事長に対して法人の資金から「役員退職金」を支給する形で、実質的な譲渡対価を支払うケースが多くみられます。

メリットとしては、法人の資産価値が増加しても個人の財産とみなされないため、相続税や贈与税の負担が生じにくいことがあげられます。
一方、デメリットとしては、退職金という形をとるため、税務上の適正額を超える金額を受け取ることがむずかしい点や、社員や役員の変更に伴う行政手続きなどが比較的煩雑になる点があげられます。

医療法人の売却は、個人の開業医の事業譲渡とは異なり、医療法人特有の非営利性や複雑な法制度を理解して進める必要があります。
円滑な事業承継を実現するためには、持分の有無による違いや、それぞれの承継方法の特徴を理解したうえで、自院に適した方法を選択することが重要です。


※本記事の記載内容は、2026年9月現在の法令・情報等に基づいています。