森会計事務所

タワマン対策は本当に終わったのか? 評価見直し後も活かせる方法

25.11.04
業種別【不動産業(相続)】
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2024年1月の税制改正により、タワーマンションを活用した相続税対策は大きく見直されました。
これまで富裕層が利用してきた「市場価格と相続税評価額の大幅な乖離」を利用する方法は、従来ほどの効果を期待することがむずかしくなっています。
しかし、「タワマン対策はもう使えない」という見方は必ずしも正しくありません。
法改正後も、条件や活用方法によっては依然として有効なケースがあります。
今回は、改正のポイントを整理しつつ、今後も検討可能で実務的な活用方法について解説します。

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法改正で「タワマン対策」は終わったのか?

2024年の税制改正の背景には、タワーマンションの固定資産税評価額と市場価格との間に生じていた大幅な乖離問題がありました。
特に高層階ではこの差は顕著で、相続税評価額を大幅に圧縮できる手法として富裕層に広く利用されていました。
国税庁の調査によれば、一部の物件では市場価格が相続税評価額の3倍以上となるケースもあり、税負担の公平性の観点から問題視されていたのです。

従来、不動産の相続税評価は「路線価方式」や「固定資産税評価額」などを基準に算定されており、同じ専有面積であれば階層に関係なく評価額はほぼ同額でした。
しかし、タワーマンションでは、同じ専有面積であっても階層によって市場価格に大きな差が生じます。
この価格差を利用すると、高層階を購入することで、数億円の現金資産を数千万円の相続税評価額に圧縮することが可能でした。
たとえば、市場価格が1億円の高層階マンションが、相続税評価額では3,000万円程度とされる場合、7,000万円分の評価差が生じていたのです。

今回の改正では「評価乖離率」と「評価水準」という新たな概念が導入されました。
具体的には、マンションの市場価格と相続税評価額の乖離率が1.67倍以上の場合、相続税評価額が市場価格の60%になるように補正される仕組みです。
この補正は、階層や築年数、立地条件などを加味して加算されるため、従来のような大幅な評価額の圧縮はむずかしくなりました。

特に新築の高層タワーマンションでは、従来のような劇的な相続税軽減効果は期待できなくなったのが現実です。
国税庁は「著しく不適当と認められる場合」の判定基準を明確化し、税務署による調査体制も強化しています。
しかし、すべてのタワマン対策が無効になったわけではありません。
築年数が経過した物件や、立地条件によっては乖離率が補正対象外となるケースもあり、依然として一定の効果を得られる可能性があります。

また、タワマン以外の不動産や資産構成の工夫によって、相続税対策を講じる余地は十分に残されています。
改正の内容を正しく理解し、専門家と連携しながら柔軟に対応することが、今後の相続対策において重要となるでしょう。

それでも「タワマン対策」が残る理由とその視点

法改正後もタワーマンションを活用した相続税対策が完全に終わったわけではありません。
その理由の一つに、実務的な利点があげられます。
タワーマンションは戸建て住宅と比較して流動性が高く、売却しやすいという特徴があります。
都市部の好立地に建設されることが多く、需要が安定しているため、相続後に現金化が必要な場合でも比較的短期間での売却が期待できます。
また、賃貸に出すことで収益を得ながら資産を保有できるので、相続人が複数いる場合でも共有名義による分割がしやすいという利点があります。

さらに、エリアや築年数によっては、改正後も一定の評価差が残るケースがあります。
特に、立地条件が良好で需要の高い地域の物件や、築年数がある程度経過したタワーマンションでは、市場価格と相続税評価額の乖離が1.67倍未満に収まる可能性があり、従来通りの評価で相続税軽減効果を得られる場合もあります。
中古市場では、築10年程度の物件でも高い流動性を維持している例が少なくありません。

新たな視点での活用としては、相続税の軽減だけにとらわれず、「資産の分散」「換金性の確保」「共有による相続トラブルの回避」などを含めた総合的な戦略が重要となります。
たとえば、相続人が実際に居住する予定がある場合には、小規模宅地等の特例との併用を検討することで、さらなる評価額の軽減が期待できます。
この特例が適用されれば、居住用宅地について330平方メートルまで80%の評価減が可能になります。

また、タワーマンションの管理費や修繕積立金は、維持管理の観点から必要経費として計上できるため、賃貸経営を行う場合の収支計算にも有利に働きます。
相続後の資産運用において選択肢が広がる点も、タワーマンション投資の魅力の一つです。

従来の「タワマン対策」は確かに見直されましたが、すべての対策が無効になったわけではありません。
今後は、相続税の軽減効果に加え、「分割のしやすさ」や「資産管理の柔軟性」、「相続人のライフプランとの適合性」なども含めた総合的な視点が求められます。
法改正後も適切な戦略を立て、専門家のアドバイスを得ながら進めることで、タワーマンションは依然として有効な相続対策の選択肢となり得るのです。


※本記事の記載内容は、2025年11月現在の法令・情報等に基づいています。