森会計事務所

安全確保のために必要な建設現場の『KY活動(危険予知活動)』

25.11.04
業種別【建設業】
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建設現場には高所での作業や重機との連携、複雑な構造物への対応など、予測できないリスクが数多く存在します。
こうしたリスクを避けて、作業員の命と安全を守るために重視されているのが「KY活動(危険予知活動)」です。
KY活動は、現場に潜む危険を事前に見つけ出し、事故を未然に防ぐための訓練や話し合いのことを指し、「危険予知訓練(KYT)」とも呼ばれます。
建設現場でKY活動が重視されるようになった経緯や、実践のためのステップなどを解説します。

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ヒューマンエラーを防ぐKY活動誕生の経緯

建設現場における労働災害の多くは、ヒューマンエラーが原因です。
厚生労働省の分析では、労働災害の原因のうち人の不安全行動に関わるものが9割以上にのぼるとされています。

どんなに強固な安全基準や最新の安全設備を導入しても、それを運用する人の意識が伴わなければ、事故は防げません。
つまり、作業員一人ひとりの「安全意識」こそが、災害を未然に防ぐための重要な要素だといえます。

KY活動が重要視されるのは、まさにこの「安全意識」を育むうえで、非常に効果的な手法だからです。
KY活動では、作業に取り掛かる前に、その作業に潜む危険要因をチームで話し合い、全員で共有します。
このプロセスを通じて、作業員は「もし、この時こうなったらどうなるか?」といった危険に対する想像力を働かせ、みずから主体的にリスクを考える習慣が身につきます。

日本では1960年代、高度経済成長に伴い、工場や建設現場などの労働環境が急速に拡大しました。
しかし、その裏では労働災害による年間死者数が約6,000人規模に達した時期もあり、危機感が高まりました。
こうした状況を受け、1970年代に入り「危険を予知して共有する」という考え方がヒューマンエラー対策として注目され、全国に広まっていきました。

KY活動を実践するための「基礎4R法」とは?

KY活動を実践するうえで、広く活用されているのが「基礎4R(ラウンド)法」です。
これは、「現状把握」「本質追究」「対策樹立」「目標設定」の4つのステップで構成され、危険を予知し、対策を講じるための一連の流れを体系化したものです。
基礎4R法を実施するためには、まず3~5人程度のグループに分かれ、10~30分程度の時間を設けて、話し合いを行います。

最初の「現状把握」は、作業現場に潜む危険をできるだけ多く見つけ出すために必要なステップです。
「どういった危険が潜んでいるか」「過去にどんな事故があったか」「何が原因だったか」といった観点から、グループの全員で自由に意見を出し合います。
「足場の手すりが少しぐらついている」「床に工具が置きっぱなしになっている」など、見過ごしがちな危険も洗い出しましょう。
その際、どんな些細なことでも発言できるような雰囲気をつくることが大切です。

「本質追究」では、現状把握によって洗い出した危険のなかから、「これだけは絶対に避けなければならない」という特に重要な危険を追求します。
この段階で、「最も起こりやすい事故は何か」「その結果、どのような被害が想定されるか」などを考え、危険の本質を深く掘り下げていきます。
たとえば「足場のぐらつき」という危険に対しては、「ぐらついた足場から転落する可能性がある」といった具体的な危険を示します。

そして、「対策樹立」では、危険を防ぐための具体的な対策を考えます。
この対策は「誰が」「いつ」「何を」「どのように」行うか、明確な行動計画として定めることが重要です。
たとえば、「ぐらついた足場を直す」という対策に加えて、「直す担当者を決める」「今日の夕方までに完了させる」「報告方法を決める」といった具体的な行動を盛り込みましょう。

最後の「目標設定」は話し合った対策をまとめ、目標を定めるためのステップです。
たとえば「今日は転倒事故ゼロ」といった目標を掲げ、作業終了後に全員で達成できたかを確認することで、日々のKY活動が単なるルーティンワークで終わらせず、具体的な成果につなげることができます。

この基礎4R法は、あくまで基本的な枠組みであり、現場の状況や作業内容に合わせて、柔軟にアレンジしながら実践することが大切です。
また、KY活動の重要性を理解しても、それを現場に定着させるのは容易ではありません。
KY活動を形骸化させず、現場に深く浸透させるためには、経営者や管理職がリーダーシップを発揮し、継続的な教育と粘り強いフィードバックを行なっていく必要があります。

建設現場におけるKY活動は、単なる安全対策の一つではなく、作業員の命を守るための重要な習慣の一つです。
現場任せにするのではなく、経営者や管理職が積極的に関与し、全社をあげて取り組んでいきましょう。


※本記事の記載内容は、2025年11月現在の法令・情報等に基づいています。