行き過ぎた慰留は違法!?『退職代行』を誘発する行為とは
この慰留ハラスメントを受けたことで、会社に対して直接退職を言い出しづらくなっている退職希望者が、本人に代わって退職の意思を伝える『退職代行』のサービスを利用するようになってきました。
退職代行を使われない会社であるために、どのようなことに注意すべきか解説します。
会社を辞められず『退職相談』が過去最多
厚生労働省が公表した『令和4年度個別労働紛争解決制度の施行状況』によると、15年連続で100万件を超える労働のトラブルに関する相談が寄せられています。
2022年度の「民事上の個別労働紛争相談」で、最も多く相談されたのは「いじめ・嫌がらせ」の6万9,932件でした。
次に多かったのが4万2,694件の「自己都合退職」に関する相談で、その件数は「解雇」に関する相談の3万1,872件よりも多く、前年比5.4%増で4年ぶりに過去最多を記録しました。
退職に関する相談が増えた背景として、新型コロナウイルスの収束に伴い、経済活動が復調しつつあり、各企業で人手不足に陥っていることが影響していると予測されます。
少子高齢化による労働人口不足は深刻化し、企業は常に人材の確保に悩まされている状況です。
従業員からの退職の申し出にあたり、企業側としては業務運営上の不安や在籍するほかの従業員への負担増などの懸念から、引き留めに力が入ってしまうケースもあるでしょう。
しかし、慰留にあたり退職を認めないどころか、なかには「代わりの人を連れてこい!損害賠償請求を起こすぞ!」といった、恫喝や脅迫ともとらえられかねない相談事例もあります。
このように行き過ぎた慰留は『慰留ハラスメント』と呼ばれ、追い詰められた退職希望者はますます会社に対して退職の意思を伝えづらくなってしまい、トラブルにまで発展してしまうのです。
そこで、なかなか会社を辞められない退職希望者が利用するのが、本人に代わって会社に退職の意思を伝える『退職代行』というサービスです。
エン・ジャパン株式会社が実施したアンケートによると、退職代行のサービスの認知度は全体で72%、年代別に見ると20代は83%、30代が78%と若い世代ほど認知されている傾向にあります。
実際にサービスを利用したことがある人は2%に留まりますが、「今後、退職代行を利用したいか?」という問いに対して、「使いたい、状況によっては使うかもしれない」という回答が全体の44%を占めています。
つまり、従業員の半分弱は、何かのきっかけで退職代行を利用する予備軍でもある、ということです。
退職させないのは法律違反になるので注意!
民法627条では、雇用期間の定めがない場合、当事者は「雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する」と定められています。
退職希望者が会社に対して退職の意思を伝えてから2週間経てば、会社を辞めることができるよう法律で保護されています。
それにもかかわらず、退職を申し出てから2週間を経過しても辞職できない状況が続いているのは、違法行為にあたります。
経営者は、退職希望者を退職させないことは法律で認められていない、ということを認識しておく必要があります。
退職希望者に退職代行を使われやすい会社には、下記のような特徴があります。
(1)労働環境に問題がある
長時間労働が常態化している、常に人手不足で有給休暇が使用できない、給与の支払い遅延や間違いがあるといった過酷な労働環境の場合、心身ともに疲弊した従業員は会社との直接交渉を避け、退職代行などの外部サービスに頼らざるをえないケースが多くなります。
(2)職場の人間関係に問題がある
上司や同僚と直接話せないほど関係性が悪化しているなど、職場での人間関係に問題がある場合、会社に対して退職を直に申し出られない状態になっているケースが多くあります。
もし、従業員が退職代行のサービス経由で退職を申し出てきたとしても、本人から申し出てきた場合と同様に、退職を止めることはできません。
ただし、その従業員本人が本当に退職代行サービスを依頼したのかどうか、確認する必要はあります。
代行会社に本人の意思が確認できる委任状などの提示を求め、その確認がとれない限りは退職手続きを進められない旨を伝えましょう。
また、代行会社の運営母体を確認する必要もあります。
退職代行サービスの運営母体は大きく分けて、民間企業、労働組合、法律事務所(弁護士)のいずれかに該当します。
運営母体が法律事務所ではない代行会社が、退職希望者の有給休暇の消化や未払いの賃金などの交渉をしてきた場合、非弁行為という違法行為にあたる可能性があります。
この場合はすぐに対応せず、まず会社の顧問弁護士や社会保険労務士などに相談するようにしましょう。
なお、労働組合が運営している退職代行サービスの場合、憲法第28条に基づく団体交渉権によって、企業と退職に関する交渉を行うことが認められているため、非弁行為に該当しません。
雇用している立場からすると、従業員から直接退職の意思を伝えられるのではなく、退職代行のサービス経由で伝えられることに対して、複雑な心境になるかもしれません。
しかし、なぜそこまで関係が悪化してしまったのか、原因を考え反省材料とするほうが、会社の今後を考えるうえで有益といえるでしょう。
諸事情により退職せざるをえない従業員が出てしまった場合、お互いに円満退職だったといえる関係性の構築を目指して、労働環境の改善に取り組んでみてはいかがでしょうか。
※本記事の記載内容は、2024年5月現在の法令・情報等に基づいています。