『問題社員』を解雇するために必要なプロセスとは
これらの言葉は正式に定義されたものではありませんが、今では多くの企業が抱える問題の一つとして、定着しています。
しかし、問題行動を起こす問題社員だったとしても、労働法における労働者保護の観点から、簡単に解雇することはできません。
問題社員が与える影響や、解雇するために必要な手順などを確認しておきましょう。
問題社員による逆パワハラも横行
問題社員はタイプによってさまざまですが、共通しているのは、放置しておくと組織に多大なダメージを与えてしまうということです。
重要な情報を共有せずにほかの社員や取引先とトラブルばかり起こす協調性に欠けた社員は、組織全体のパフォーマンスを落としますし、自身のミスを認めず、他人の意見に耳を貸さない自己中心的な社員は、社内のコミュニケーション不全や業務の停滞を引き起こします。
上司や部下、同僚などに誹謗中傷やハラスメント行為を繰り返したり、暴言を吐いたりする社員は、ほかの社員の離職を招きますし、業務遂行能力が著しく不足しているのに改善する意欲のない社員は、顧客の信頼度の低下や、ほかの社員の負担増などの悪影響を与えます。
また、近年では、誰でもインターネットで法的な知識を得ることができるため、問題社員は自身の『権利』を過大に主張する傾向があります。
たとえば、一般的な業務上の指導を「パワハラだ」と騒ぎ立てる問題社員などもいます。
職場におけるパワハラには明確な定義があり、客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、パワハラに該当しないことと示されています。
こうした、問題社員による定義に当てはまらない「パワハラだ」という指摘や、「労基署や弁護士に訴える」などの言説は、『逆パワハラ』として問題となっています。
いずれにせよ、問題社員を放置してよいことは一つもありません。
ただ、コンプライアンスの重要性が増す昨今では、企業側が問題社員の主張や要求に、躊躇してしまい、対策を打てずに放置してしまうというケースも少なくありません。
問題社員には、毅然とした態度で接することが大切で、問題行動が繰り返されたり、一切の改善が見られなかったりする場合には、最終的に『解雇』も一つの方法として検討していく必要があります。
解雇には適正なプロセスをたどることが重要
解雇は、使用者である企業側の一方的な申し出による労働契約の終了を意味しますが、労働者保護の観点から厳しく制限されており、労働契約法第16条では、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、労働者を辞めさせることができないと定めています。
簡単に言えば、誰もが当たり前だと思えるような合理的な理由がないと、問題社員であっても解雇はできないということです。
たとえば、勤務態度に問題があったり、業務命令に従わなかったりしても、それが一回だけでは解雇はできません。
もし、合理的な理由のないまま解雇を行うと、裁判で不当解雇と判断され解雇が無効となり、相応の慰謝料だけでなく、出社停止とした場合はその期間の賃金を支払うことになる可能性もあります。
そこで重要になってくるのが、解雇に至るまでのプロセスです。
問題社員の解雇が有効とされた過去の判例では、企業側が問題社員の注意指導に力を尽くした過程と、該当社員の問題行動を証明するメールのなどの証拠が決め手になりました。
まず、企業側は社員の問題行動に対して、しっかりと注意指導を行うことと一連の内容を時系列で記録を残す必要があります。
企業が社員に対して「人手不足で、辞められると困るから」と遠慮していると、注意をされないからと増長した結果、問題社員化してしまうこともあります。
また、定期的に面談を行い、社員の悩みや不満、抱えている問題などをすくい上げることも大切です。
解雇よりも前に、社員を問題社員化させないことに意識を向けていきましょう。
もし、注意指導や面談を行なっても問題行動が繰り返されるのであれば、必要に応じて戒告、譴責、訓告、減給、降格などの懲戒処分を行い、それでも改まらない場合に『退職勧奨』を検討します。
退職勧奨は、企業が社員に退職を促し、双方が合意のうえで雇用契約の終了を目指すというものです。
ここで合意が得られない場合に、いよいよ解雇を検討することになります。
問題社員を解雇する際には、『普通解雇』と『懲戒解雇』のどちらかになる場合が多く、『諭旨解雇』を定めている企業もあります。
普通解雇は能力不足など労務の提供が不十分な場合に行うもので、懲戒解雇は組織の秩序を乱したことによる懲戒処分の一つです。
両方とも解雇を実行するには、合理的な理由が必要で、さらにあらかじめ就業規則で「職務を遂行する能力がない」や「協調性に欠け、改善の見込みがない」など、解雇に足る事由を示しておかないといけません。
就業規則で定められた解雇事由に相当する場合でも、解雇の有効性は個々のケースで判断されるものなので、専門家とも相談しながら慎重に進めていきましょう。
※本記事の記載内容は、2024年4月現在の法令・情報等に基づいています。