ニーズの高まりが予想される『耐震補強工事』の種類と方法
震度6強以上に耐えることを目的とした『新耐震基準』に適合した家屋にも被害が出ており、こうした報道を受けて、全国で耐震補強工事への関心が高まっています。
耐震補強工事はいくつかの方法があり、費用相場も個々のケースで異なります。
顧客に案内するためにも理解しておきたい、耐震補強工事の基本について解説します。
大地震に備えて検討したい『耐震化』
『令和6年能登半島地震(以下、能登半島地震)』では、多くの家屋に全壊や半壊、一部損壊などの被害が出ました。
その多くは、建築基準法が改正される前の1980年以前に建てられた古い建物だといわれています。
また、特に被害が大きかった珠洲(すず)市などでは、1981年に導入した震度6強以上の地震でも建物が倒壊しない『新耐震基準』に適合した家屋にも被害が出ています。
専門家の調査によると、能登半島一帯で2020年12月から約3年に渡って500回以上続いた群発地震によるダメージが蓄積したものだという見方もあります。
その一方で、被災地でも現在の基準を満たしている家屋は倒壊を免れたという報告もあります。
現在の基準とは、多くの木造住宅が倒壊した1995年の阪神・淡路大震災を教訓に新耐震基準を強化した、いわゆる『2000年基準』のことです。
国土交通省が公表した2016年の熊本地震の木造建築物の倒壊率を見てみると、1981年5月以前の旧耐震基準の家屋が28.2%、新耐震基準の家屋が8.7%だったのに対し、2000年基準に適合した家屋の倒壊率はわずか2.2%でした。
能登半島地震でも同様に、被害が集中したのは、耐震補強がされておらず、2000年基準に適合していない古い木造住宅だったといわれています。
2000年基準は、地盤に適した基礎の設計や接合部への固定金具の取り付け、バランスのよい耐力壁の配置などを定めており、この基準に適合するように施工、改築された木造住宅は、耐震性が大幅に向上しています。
しかし、地方には2000年基準どころか、新耐震基準を満たしていない木造住宅が多く存在します。
新耐震基準を満たした割合を示す耐震化率は全国平均で87%(2018年時点)となっていますが、地方では平均を大きく下回っているという現状があります。
被害の大きかった石川県珠洲市の住宅の耐震化率は、2018年末の時点で51%でした。
今後は、能登半島地震を契機として、特に地方における住宅の耐震補強工事のニーズが高まるといわれています。
将来的に南海トラフ地震や首都直下型地震などの発生が予想されていることもあり、一部の自治体では、耐震診断や耐震補強工事の問い合わせが急増しているという報道もありました。
耐震補強工事とマンションでの工事の進め方
耐震補強工事にはさまざまな種類があります。
予算や住宅の状況などに合わせて、顧客に適切なものを案内するようにしましょう。
既存の壁やクロスの下地に耐震パネルを設置する「壁の増設」や、柱や梁、筋交いなどの接合部に金具を取り付ける「耐震金物の取り付け」、ひび割れ補強や基礎の打ち増しなどによる「基礎の補修」などが、基本的な耐震補強工事の方法です。
地方に多い瓦屋根を軽い素材に替える「屋根の軽量化」なども、建物にかかる負担を軽減させる耐震化の一つです。
屋根が軽くなれば、地震の際に揺れを小さくすることができます。
古いマンションなどの耐震補強工事は、大規模改修工事と同時に行われることも多く、耐震診断業者や管理組合、配管や電気などの関連業者らとの調整が必要になります。
特に、管理組合とは密なコミュニケーションが求められ、コストや美観、使い勝手など、先方の要望を汲みながら、設計や工事を進めていかなければいけません。
また、老朽化が進んで耐震性に不安がある分譲マンションは、耐震診断の結果次第で、建て替えを検討してもらうのも方法の一つです。
現在は分譲マンションの建て替えに「所有者の5分の4の合意」が必要ですが、法改正によって、耐震性不足などの問題があれば多数決の割合を緩和する改正案が国会に提出される予定です。
この法改正が実現すれば、これまでよりも分譲マンションの建て替えがしやすくなります。
マンションも木造建築物も、今後は耐震補強工事や建て替えの問い合わせが増えることが予想されます。
耐震化に関心のある顧客には、耐震補強工事に使える補助金制度なども紹介しながら、まずは耐震診断の案内をしていきましょう。
※本記事の記載内容は、2024年3月現在の法令・情報等に基づいています。