災害時に活動する災害派遣医療チーム『日本DMAT』とは?
2005年に、この災害時に活動するための機動性を備えた医療チームとして、『日本DMAT(Disaster Medical Assistance Team)』が発足しました。
DMATの構成メンバーは、医師1名、看護師2名、業務調整員1名の合計4名を最低人数とし、災害や事故の発生時には複数のチームが全国から被災地域に駆けつけ、傷病者の治療や医療支援に当たります。
今回はDMATの具体的な活動内容や、隊員になる条件、所属する病院の役割などについて解説します。
専門的訓練を受けた隊員が被災地域に集結
1995年に発生した阪神・淡路大震災では、通常時の救急医療と同等の医療が提供されていれば避けられた「災害死」が約500件あったと報告されています。
これを教訓として、10年後の2005年に厚生労働省により、災害現場で活動できる機動性を持った災害派遣医療チーム『日本DMAT』(以下DMAT)が発足しました。
厚生労働省の認める専門的な研修や訓練を受けたDMATの隊員は、普段は病院に勤務しており、災害時には都道府県の派遣要請を受けて、被災地域に集まります。
初動のチーム(1次隊)の活動時間は、機動性の確保のために約48時間以内が基本とされており、状況に応じて追加が必要な場合は、2次隊、3次隊が派遣されることもあります。
派遣されるチームの数は、災害の規模や状況、時期などによって異なります。
2011年の東日本大震災では、3月11日から3月22日の12日間にかけて、約340チームが被災地域で活動し、2016年の熊本地震では4月14日から4月23日の10日間で約500チームが活動に加わりました。
また、DMATは大地震のほかにも、台風や水害、航空機事故や列車事故、新型コロナウイルス感染症に代表される新興感染症などにも対応します。
数々の災害で活動するDMATの隊員数は増え続けており、発足時は全国で190チームを配備する計画でしたが、2022年4月の時点では2,040チーム、1万5,862名の隊員が厚生労働省に登録されています。
DMATの活動内容とメンバーの役割
被災地域におけるDMATの活動内容は多岐に渡ります。
原則として災害拠点病院に設置される本部を活動拠点とし、傷病者の『緊急治療』や、病院の医療行為を支援する『病院支援』以外に、傷病者を被災地域の外に搬送する『医療搬送』や、ほかの保健医療活動チームとの連携なども行なっていきます。
現地における情報収集や共有、被災地域外からの後方支援などもDMATの役割です。
チームとしては、各々で役割が決まっており、医師はチームリーダーとして指示を出しながら医療の提供を行い、看護師は診療補助や被災者、負傷者のケアを担当します。
薬剤師、診療放射線技師、臨床工学技士、理学療法士、医療事務員などが担う業務調整員は、医療品の確保や情報収集、事務的業務などを行うと同時に、被災地域の人的または物的リソースを消費しないために、チーム用の食事や宿泊場所の手配なども行います。
隊員資格を取得して維持していくには
医師と看護師と業務調整員が一丸となって活動するDMATですが、医療従事者であれば誰もが隊員になれるわけではありません。
特別な資格は必要ありませんが、厚生労働省が指定する全4日間の『日本DMAT隊員養成研修』を受講し、筆記試験と実技試験に合格することで、必要な課程を修了したと認められ、隊員資格を取得することができます。
筆記試験は医師、看護師、業務調整員が同じ内容の試験を受け、実技試験はそれぞれの業務に応じた内容の試験になります。
DMATの隊員になると、厚生労働省に登録され、『DMAT隊員証』が交付されます。
ただし、DMATの隊員資格は5年ごとの更新制で、更新するためには5年の間に2回以上、知識や技能を維持し向上させるための『DMAT技能維持研修』を受講しなければいけません。
また、DMATは、災害拠点病院またはDMAT指定医療機関に所属しているため、DMATとして活動するには、いずれかの医療機関に勤務している必要があります。
災害拠点病院とは、災害発生時に災害医療を行う医療機関を支援する病院のことで、指定されるには、24時間緊急対応ができる、災害発生時に被災した傷病者の受け入れや搬出が可能な体制がある、DMATチームを保有しているなどの要件を満たす必要があります。
災害拠点病院は2023年4月時点で全国に770施設あります。
DMAT指定医療機関は、DMAT派遣に協力する意思があること、活動に必要な人員、整備を持つことが指定要件となっており、厚生労働省または都道府県の指定を受けます。
DMAT指定医療機関も5年ごとの更新制で、更新するためには、『DMAT地方ブロック訓練』に2回以上参加する必要があります。
また、2016年より災害拠点病院の指定要件に事業継続計画(BCP)の策定等が追加されました。
被災地域においては災害拠点病院ではなくても、すべての医療機関が医療活動の中心を担うことになります。
災害拠点病院以外の病院でも、災害時に機能を維持しながら、被災患者の受入れなどを行うためには、医療機関における事業継続計画(BCP)が重要になります。
DMATの資格やDMAT指定医療機関の更新手続き、ガイドラインなどを参考にしてのBCPの策定など、緊急時に最善の医療が提供できるよう準備を進めていきましょう。
※本記事の記載内容は、2024年3月現在の法令・情報等に基づいています。