万が一の際に知っておきたい『リコール』のポイント
リコールは、設計上の不具合および品質上の理由などによる事故や故障を事前に防止することを目的としています。
製品ごとに別の法律に基づいた異なるリコール制度があり、原則として事業者が自主的に行いますが、所管の行政や大臣に勧告または命令されるケースもあります。
今回は、実際にリコールを行う際の判断基準や対応の手順などを紹介します。
まずはリコールが必要かどうかを見極める
製品の欠陥や不具合は、食料品から日用品、家電製品に車両、住宅設備まで、さまざまな分野で発生します。
自社の商品やサービスに不具合が生じた場合、各事業者は所属する業界の法令やルールに則って、自主的な判断のもとリコールを実施しなければいけません。
リコールの制度や法律、所管官庁は製品ごとに異なるため、対応や手続きも変わってきます。
たとえば自動車の場合、道路運送車両法に基づくリコール制度に従い、事業者は不具合の状況や原因などを国土交通大臣に届け出る義務があります。
大切なのは、どのような製品であっても事業者は消費者の安全と被害拡大の防止を第一に考え、万が一、自社が関わった製品に欠陥や不具合が出た場合は、すぐにリコールの対応を行う必要があるということです。
ただし、どのような欠陥や不具合でも、ただちにリコールをすればよいというわけではありません。
リコールは会社の評判に関わるだけでなく、社会的にも大きな責任を伴います。
消費者から欠陥や不具合の指摘があったとしても、よく確認したうえで、本当にリコールが必要なのか判断することが重要です。
経済産業省が作成した『消費生活用製品のリコールハンドブック2022』では、リコールを行うか否かの判断材料として、以下の項目を定めています。
・人的被害の有無
消費者の死亡などの重大な被害が発生する場合、軽微な物損でも人的被害や被害の多発、拡大の可能性があれば、迅速にリコールを行う必要があります。人的な被害が起きておらず、またその可能性もなく、安全に直接関係のない品質や性能に関する不具合が出ている製品は、リコールの対象にならないこともあります。
・多発と拡大の可能性
軽い故障でも、人的被害の多発や被害拡大の恐れがある場合は、リコールを検討しましょう。
明らかに単一の製品の不具合や故障と断定できない場合、同じ型の製品や同じ部品を使用している製品に関して、複数の故障報告があれば、多発と拡大の可能性があると判断します。
また、人的被害もしくはその可能性はあるが多発の可能性がない場合は、単一の製品の不具合や故障であっても、個別に対応する必要があります。
・事故原因との関係
事故が製品によるものなのか、本来の用途とは異なる消費者の誤使用によるものなのか、製造業者以外の修理や設置工事のミス、もしくはほかの事業者による改造が要因なのか、事故原因を明らかにします。経年劣化の可能性も考えられるため、よく確認しておきましょう。
自社の直接的なミスや製品の欠陥が事故の原因ではなかったとしても、リコールを行い、再発防止措置を講じなければいけないケースもあります。
製品の誤使用に対する防止措置や警告表示は十分だったか検討し、すべてを消費者やほかの事業者のみの責任とせず、自社がするべき製品の安全提供を再確認しましょう。
リコールが必要だと判断した後の対応
製品に関する事故が発生したら、事故が発生した日時や場所、被害の発生状況や程度、被害者の氏名や連絡先、製品の識別情報などを確認します。
集まった情報を精査し、リコールが必要だと判断した後は、被害の拡大を防ぐためにも、対策本部を設置して迅速に動く必要があります。
まずは、リコールの具体的な内容を決めたプランを策定します。
リコールの目的をはじめ、周知や製品の回収方法、リコールの対象数や実施期間、被害者への対応や相談窓口、原因究明や再発防止対策など、策定したプランに沿い、対策本部が中心となってリコールを実施していきましょう。
また、対策本部ではリコール対応と同時に、対象製品の「トレーサビリティ」も実施していきます。
トレーサビリティとは、その製品の生産から販売までの過程を追跡可能な状態にすることです。
製品を特定したうえで、出荷先や販売ルート、販売数量などを整理し把握しておくことで、原因の究明にも役立ちます。
トレーサビリティによって判明した内容を事業の関連法に基づき、所管官庁に報告する必要もあります。
2023年に経済産業省がリリースした『製品安全行政を巡る動向』によると、2022年に開始されたリコールは全体で98件、そのうち『重大製品事故』がきっかけだったものは24件でした。
何より大切なのは、リコールが必要な事態にならないように努めることです。
しかし、どんなに安全に気を配っていても、製造や流通、販売などの過程において、製品の不具合や欠陥を完全に防ぐことはできません。
万が一に備え専門家とも相談しながら、リコールの対応策を含めた事前準備をしておくことをおすすめします。
※本記事の記載内容は、2024年2月現在の法令・情報等に基づいています。