動産を活用して資金調達を行うために必要な『動産譲渡登記』とは
しかし、不動産を所有していなくても、在庫商品などの動産を担保にして融資を受けることが可能です。
このときに行うのが『動産譲渡登記』の申請です。
動産を活用した資金調達は以前から注目されていましたが、動産自体は譲渡された後も企業の直接占有下に置かれたままであることがほとんどでした。
動産譲渡登記が制度化される前は、動産の占有状況における紛争を生じる恐れがあったため、その解消と資金調達の円滑化を図るため、2005年に登記申請が制度化されました。
動産を所有している企業は把握しておきたい、動産譲渡登記について説明します。
動産担保の債権者リスクを軽減する登記制度
企業が不動産を担保にして金融機関などから融資を受ける場合、該当の不動産が担保であることを公示するために、金融機関(またはその保証会社)名義で抵当権の登記申請を行う必要があります。
このように、第三者に対して法的な効力を有していることを主張するための要件を『対抗要件』といいます。
もし、登記を行わず対抗要件を備えていないと、第三者に不動産を処分された場合に、当事者は自己の権利を第三者に主張することができません。
前述の動産譲渡登記は、不動産の登記と同様に、動産を担保にした際の対抗要件を備えるための登記といえます。
民法86条では、土地および土地に定着している建物などのことを『不動産』、不動産以外の動かせる物を『動産』と定義しています。
現金や電化製品、家具などはすべて動産になり、企業においては、在庫商品や機械設備、家畜なども動産に該当します。
そもそも、動産譲渡登記が制度としてスタートする以前から、多くの企業では、所有している動産を担保にして金融機関から融資を受けていました。
ただし、担保となる在庫商品や機械設備などを、債権者である金融機関に引き渡してしまうと、事業を続けることができなくなります。
そのため、抵当権が実行されるまでは所有権のみを債権者に移転し、動産の現物は債務者である企業に留めておくのが一般的でした。
このことを『占有改定』といいます。
占有改定はあくまで当事者間の約束であり、公示方法としては明瞭ではありません。
占有改定により対抗要件を具備する方法では、債務者が動産を引き続き保持し続けるため、二重譲渡や売却処分が行われてしまうと、即時取得によって第三者が保護される結果、債権者である金融機関が権利を失うなど債権者側にリスクがあります。
このことから、これまで金融機関は動産を担保にした融資にあまり積極的ではありませんでした。
そこで、2004年に『動産及び債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律の一部を改正する法律』が成立し、翌2005年10月から、動産譲渡登記制度の運用が始まりました。
動産譲渡登記の申請をする方法
動産譲渡登記制度の創設は、対抗要件を備えることで企業の動産による資金調達の円滑化を図るという目的がありました。
そのため、登記の対象となるのは、「法人」が行う動産の譲渡に限定されます。
個人事業が所有する動産の譲渡は、制度の対象にならないので注意しましょう。
動産の譲渡を登記することで、民法第178条に基づく動産の引き渡しがあったものとみなされ、対抗要件を備えることになります。
たとえば、譲渡人である企業が該当の動産を勝手に第三者に譲渡しても、登記という公示性に優れた方法によって公示する動産譲渡の登記制度により、第三者の譲受人が登記の有無を調査せずに譲り受けた場合、調査義務を尽くしておらず過失が認定され、即時取得が成立しない可能性が高くなります。
第三者の即時取得が成立しなければ、動産の譲受人である金融機関は権利を主張できます。
ここからは、動産譲渡登記の具体的な申請方法について確認していきましょう。
動産譲渡登記は東京法務局民事行政部動産登録課でのみで取り扱われます。
東京法務局民事行政部動産登録課は東京法務局中野出張所にあります。
登記の申請は、譲渡人と譲受人とが共同で行います。また、登記申請の方法は以下の3種類があります。
(1)書面方式:申請データや登記申請書などを窓口や郵送で東京法務局に提出する。
(2)事前提供方式:申請データをオンラインで提出し、ほかの登記申請書などを書面で提出する。
(3)オンライン方式:申請データや登記申請書などをすべてオンラインで提出する。
東京法務局に動産の譲渡が登記されると、譲渡人の本店所在地の商業登記所に『動産譲渡登記事項概要ファイル』が備えられ、動産譲渡の内容が記録されます。
いずれの方法でも、登記申請書などに不備があると補正対応することができず、登記申請が却下されるので、不備がないように事前に十分確認しておく必要があります。
また、不動産の登記と同様に、動産の登記申請も司法書士の独占業務なので司法書士に依頼することになります。
動産を譲渡する場合は、そのメリットとデメリットを確認し、司法書士ともよく相談しながら登記申請を進めていきましょう。
※本記事の記載内容は、2024年2月現在の法令・情報等に基づいています。