社会保険労務士法人なか/労働保険事務組合福働会/福働会中部支部

どう違う?『過失運転致死傷罪』と『危険運転致死傷罪』

24.01.30
ビジネス【法律豆知識】
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近年、交通事故の件数は減少傾向にありますが、警察庁の発表によると、2022年の交通事故発生件数は30万1,193件で、交通事故死者数は2,610人でした。
自動車を運転する限り、誰もが死傷事故の加害者になる可能性があり、運転中は最大限の注意を払わなければいけません。
もし、死傷事故を起こしてしまうと、『過失運転致死傷罪』や『危険運転致死傷罪』といった罪に問われる可能性があります。
この二つにはどのような違いがあるのでしょうか。
万が一、死傷事故を起こしてしまった際の対応なども含めて、説明します。
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運転中の過失か故意かで刑罰が異なる

気をつけて自動車を運転していても、ふとしたきっかけで、思わぬ事故を起こしてしまうことがあります。
前方を見ていなかった、スマートフォンに気を取られていた、ハンドルの操作を誤ってしまったなど、運転中の過失によって死傷事故を起こしてしまうと、過失運転致死傷罪に問われるかもしれません。

過失運転致死傷罪は、『自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(自動車運転死傷処罰法)』で規定された罰則で、7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金が科される可能性があります。
ただし、被害者に与えた傷害が軽い場合は、情状によって刑が免除されることもあります。

「運転中の過失」とは、運転するうえで必要な注意を怠り、事故の発生を予見できたはずなのに予見せず、事故を回避しなかったことを意味します。
つまり、過失運転致死傷罪は不注意が原因で事故を起こし、人を死傷させた場合の刑罰ということになります。

一方、不注意ではなく、正常に運転できないことを自覚しながら運転して事故を起こし、人を死傷させた場合は、別の刑罰が適用されます。
それが、『危険運転致死傷罪』という刑罰です。

危険運転致死傷罪は、故意に危険な運転をして死傷事故を起こした際に適用される刑罰で、人を負傷させた者は15年以下の懲役が、人を死亡させた者は1年以上の有期懲役に処されます。
悪質性の高さから、過失運転致死傷罪よりも刑が重く、危険運転致死傷罪では懲役刑のみが規定されており、禁固刑や罰金刑は存在しません。

危険運転の定義と、死傷事故後の対応

危険運転致死傷罪が適用される「危険運転」とは、どういった運転を指すのでしょうか。
自動車運転処罰法の第2条では、危険運転に該当する行為を定めています。
わかりやすくいうと、たとえば以下のようになります。

・アルコールや薬物の影響により正常な運転ができない状態での運転
・自動車の制御が困難な高速度での運転
・運転に必要な技術がない状態での運転
・幅寄せ行為や前方での急停止、著しい接近などのあおり運転
・危険な速度での信号無視や通行禁止道路での運転

これらの危険運転によって死傷事故を起こした場合に、危険運転致死傷罪が成立します。
ただし、危険運転かどうかは車や道路、ドライバーの状況などによって判断されます。
仮に、制御できないほどの高速度だったとしても、高速道路で起こした事故と、住宅街で起こした事故とでは判断が異なる場合があります。

また、一口に死傷事故といっても、その事故の原因が故意か過失かを判断することはむずかしく、飲酒運転や技術が未熟な状態での運転だったとしても、危険運転致死傷罪ではなく、過失運転致死傷罪として起訴されることもあります。

逆に、わざと自動車を衝突させるなど、明確に人が死亡もしくは負傷することを認識しながら意図的に死傷事故を起こしたことが認められれば、過失運転致死傷罪や危険運転致死傷罪ではなく、殺人罪や傷害致死罪などで立件されることになります。

過失運転致死傷罪に問われた際に、ひき逃げや飲酒運転の隠蔽が発覚すると、さらに罪が重くなります。
もし、自動車運転による死傷事故を起こした際には、まず車を停車させ、怪我人を救護すると同時に危険防止措置を取り、すぐに警察に連絡するようにしましょう。
決してその場から逃げたり、飲酒や信号無視などの証拠を隠したりしてはいけません。

過失運転致傷罪で起訴されるかどうかは、被害者の怪我の程度や加害者の落ち度、処罰感情などを考慮して決定されます。
たとえば、加害者は刑事罰とは別に、被害者や遺族に対する賠償責任を負うことになりますが、示談交渉によって示談が成立していれば、反省や謝罪の意思があると認められ、不起訴処分や減刑などの可能性が高まります。

示談の成立は、加害者と被害者が慰謝料なども含めた損害賠償について合意したことを意味します。
しかし、謝罪や示談交渉を行いたくても、警察が被害者の情報を教えることはほぼありません。
場合によっては被害者が弁護士を立てていることもあるため、その弁護士を経由して連絡することをおすすめします。


※本記事の記載内容は、2024年1月現在の法令・情報等に基づいています。