もし、あなたの会社が株主代表訴訟を提起されたら?
しかし、ときには取締役がその任務を怠ったがために、会社が損害を被ってしまうこともあり得ます。
その場合、取締役は株式会社に対し、損害賠償する必要がありますが(同423条)、会社がこれまで経営を担ってきた当該役員に対し、責任を追及しないこともあるでしょう。
そこで、会社法は、会社の所有者ともいうべき株主に対し、株主の会社に代わって役員の責任追及を可能とする手続である『株主代表訴訟』を用意しています。
今回は、その概要と対応について説明します。
株主代表訴訟のはじまり方
株主代表訴訟は、株主から会社に対し、役員の請求を追及する訴えを提起するよう請求するところから始まります(同847条1項)。
この請求ができる株主は、6カ月前から引き続き株式を有する株主に限定されており、保有株主数の制限はないため、一株でも有していれば請求権者となり得ます。
ただし、譲渡制限株式を発行する非公開会社においては、「6カ月前から」という要件はないため、株主はいつでも提訴権者となれます。
株主代表訴訟は、「取締役○○は、株式会社□□に対し、○○円を支払え」などと、会社に代わって、役員に対し損害賠償を請求する手続です。
そのため、原告となった株主が勝訴した場合であっても、株主が直接、金銭的利益を獲得できるものではありません。
株主に対する直接の利益は発生させないとはいえ、本訴訟の訴え提起時にかかる貼用印紙代は一律1万3,000円と低額であり、株主が訴訟提起する負担は抑えられています。
これにより訴訟そのものの敷居が低くなっており、会社にとっては、いつ何時提起されるかわからないという不安の種になり得るといえるでしょう。
請求されてしまったときの会社の対応は?
株式会社が株主からこの請求を受けた場合、株式会社は、請求の日から60日以内に責任追及の訴えを提起しないのであれば、当該株主に対し、訴えを提起しない理由を通知する必要があります(同847条4項)。
会社としては、この期間内に、事実関係や当該役員の任務懈怠の有無を調査し、会社自らが訴訟の原告となる本来的な形の訴訟提起をするか否かを判断しなければなりません。
他方で、会社が判断する60日の期間経過を待っている間に、株式会社に回復することのできない損害が生じてしまうことも想定されます。
そのような場合、株主は、提訴請求をすることなく、いきなり責任追及の訴えを提起することもできます。
そして、株式会社自らが訴訟提起を行わず、株主から株主代表訴訟が提起された場合、被告は役員個人であるため、会社は直接の当事者にはなりません。
もっとも株式会社は、共同訴訟人として、または当事者の一方を補助するため、訴訟に参加することが可能です(同849条1項)。
しかし、実際に自社の役員が訴えられた場合には、会社に対する賠償を求める訴えとはいえ、経営者である役員を守った方がいい事案も考えられます。
そのような場合には、当該訴訟において会社がどのように対応すべきか、慎重な対応が重要です。
また、会社の規模や世間の関心を集める事案であればあるほど、訴訟対応のみならず、マスコミや消費者一般への対応も求められます。
多大な労力を割かなければならない可能性があることも理解しておきましょう。
企業が日頃から気を付けるべきこと
株主代表訴訟においては、数億円や1兆円を超える損害賠償が求められる事案もあります。
昨年、日本の民事裁判において過去最高額となる10兆円以上の支払を命じた一審判決も下されました(その後、控訴がなされました)。
ビジネスパーソンのなかには、このような金銭的負担の大きさから、役員への就任を躊躇してしまう人もいるでしょう。
もっとも、「挑戦に失敗はつきもの」という言葉もあるように、責任追及などのリスクばかりをおそれ、経営を萎縮させてしまっては、会社の利益を拡大することはできません。
それは、株主にとって不利益になることでもあります。
裁判所は、『経営判断の原則』という審査基準を採用しています。
これにより、役員の任務懈怠の有無を判断するにあたって、単に当該役員の判断によって会社に損害を生じさせたことのみに注視し、損害賠償の責を負わせるべきとは考えていません。
具体的には、経営上の専門的判断について、
1.当該役員の判断の前提となった事実の調査、情報収集、分析・検討に特に不注意・不合理な点がない場合
2.意思決定の推論過程および決定の内容に著しく不合理な点がない場合
などにおいては、取締役としての善管注意義務違反がないと判断しています。
株式会社として経営を続けていく以上、株主代表訴訟が提起される可能性を完全に排除することはできません。
会社役員は万が一に備え、常に十分な情報収集を行い、客観的な分析・検討を加えたうえで、経営判断を行っていくことが大切です。
悩んだときは、経営会議や弁護士等の専門家への意見聴取といった適正手続きを図ることも視野に入れておきましょう。
※本記事の記載内容は、2023年12月現在の法令・情報等に基づいています。