自覚のない差別『マイクロアグレッション』が起きない職場を作る
また、女性の従業員だけにお茶くみをさせたり、男性の従業員に力仕事を強要したりといった、性別や性差をもとにした差別的な行為もジェンダーハラスメントとして浸透しています。
そのようななか、近年は本人に自覚のないまま差別的な言動をしてしまう『マイクロアグレッション』も問題視されつつあります。
職場で気をつけたいマイクロアグレッションについて、具体例を交えながら説明します。
職場の心理的安全性を下げることにつながる
会社や従業員にとって理想の職場とは、すべての働く人が安心して仕事に取り組み、自己の能力を最大限活かせる職場のことです。
従業員が組織について発言することに不安や恐れがない状態のことを『心理的安全性』といい、心理的安全性が高い職場は生産性も高くなり、逆に心理的安全性が低い職場は離職率が高くなる傾向にあります。
非難や侮辱などのハラスメント行為はもちろんですが、ハラスメントには至らない些細な言動でも、場合によっては従業員の心理的安全性を下げてしまう可能性があります。
特に、本人に自覚のないまま行われるマイクロアグレッションは、相手が密かに不満を溜めてしまう行為で、知らないうちに職場の心理的安全性を下げてしまうことにもなりかねません。
そもそもマイクロアグレッション(Micro aggression)は、1970年にアメリカの精神科医であるチェスター・ピアスが提唱した概念で、日本語では「小さな攻撃性」と直訳することができ、「無意識の差別的な言動」のことを指します。
当初は人種に対する無意識の差別的な言動を指す言葉でしたが、今では人種だけに限らず、国籍、宗教、文化的背景、性別、障害、肩書、立場などに対しての偏見などに基づく言動を意味するものになっています。
マイクロアグレッションの大きな特徴は、当事者に差別しているという自覚がなく、むしろ褒めようとして無意識のまま相手に差別的な言動を行なっているところにあります。
グローバル化やダイバーシティが進むなか、働く人々にとって、さまざまな人種や年齢、性別や能力、価値観の人と働く機会も増えてきました。
気づかないままマイクロアグレッションとなる行為をしないように、普段の言動には十分に注意しなければいけません。
マイクロアグレッションに該当する行為
職場の心理的安全性を下げてしまうマイクロアグレッションには、いったいどのような行為が該当するのでしょうか。
一般的には、偏見や見下し、ステレオタイプへの当てはめ、決めつけ、勝手な想像による言動などがマイクロアグレッションとされており、「◯◯なのに」や「◯◯だから」、「◯◯ではない」や「◯◯だろう」といった発言には最大限の注意を払う必要があります。
たとえば外国人労働者に対して「外国人なのに日本語が上手ですね」や「◯◯の出身だから仕事が丁寧だね」などは、ステレオタイプへの当てはめや決めつけなどに基づいた国籍や人種に関するマイクロアグレッションになります。
ジェンダーに関するものでは、「男性なのに字がきれいだね」や「女性だけどよくお酒を飲むね」のような、男らしさや女らしさに基づいた発言はマイクロアグレッションになります。
上司が「遅くなるから早く帰りなさい」と女性だけを家に帰したり、女性にのみ「◯◯ちゃん」と呼称したりすることも、職場で起こりがちなマイクロアグレッションと捉えられる可能性があるため注意が必要です。
ほかにも、「肌がきれいだね」や「まぶたが二重でうらやましい」などは身体に関するマイクロアグレッションで、「高卒なのに仕事ができる」や「シングルマザーだから頑張っている」などは経歴や家庭環境に対してのマイクロアグレッションとなります。
このように、発言や行動に一見ネガティブな要素がなく、相手を評価しているつもりでも、マイクロアグレッションによって知らずに人を傷つけてしまう可能性があります。
職場におけるマイクロアグレッションを防ぐには、まずどのような言動がマイクロアグレッションになるのかを理解し、相手を偏見の目で見ていないか、見下していないか、ステレオタイプに当てはめていないかと自問することです。
振り返ってみると、これまでにマイクロアグレッションだったという言動が思い当たるかもしれません。
また、すべての従業員に対して、マイクロアグレッションがどういったものなのか周知する必要もあります。
マイクロアグレッションはその言動に悪意がないことも多く、傷ついた相手は「悪気はないみたいだし」と指摘することができずに、小さなストレスを溜め続けていく可能性があります。
まずは、組織で働くすべての人を属性で見るのではなく、「個人」として尊重し、言葉を選んでいくことが大切です。
勉強会や研修などで従業員への周知を行うと同時に、相談窓口の設置などにより、マイクロアグレッションによって傷ついた従業員の声を拾える体制づくりも進めていきましょう。
※本記事の記載内容は、2023年12月現在の法令・情報等に基づいています。