歯科医が医療モールで開業するメリットとは
そこで、選択肢の一つとして検討したいのが、さまざまな診療科のクリニックが一つの施設に集まった『医療モール』です。
医療モールの多くは駅前や商業地など人の集まる場所にあり、ほかの診療科との連携を図れるため、集客力に優れているといわれています。
今回は、医療モールで開業する際のポイントを説明します。
ほかの診療科と連携し患者を集める
現在の医療行政はさまざまな理由から病床数の削減を打ち出し、中核病院は高度な医療技術を必要とする急性期の患者の治療に特化し、クリニックはかかりつけ医として医療体制を分担するといったシステムが本格化しています。
また、超高齢化社会となり、高齢者が可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい生活を最期まで続けることができるよう、地域内で包括的な支援・サービスを提供する『地域包括ケアシステム』の構築も推奨されています。
このような背景のなか、地域医療の充実を図るために現在、医療モールが注目され、期待されています。
医療モールは、歯科だけでなく内科や眼科など複数の診療科と専門性の高い医師が集い、相互に連携し、地域医療を担うことができます。
従って、患者は総合病院に行かずとも医療モールに行けば、必要に応じて同じ場所で複数の診療科を受診することが可能になります。
医療モールの多くは駅前や商業地などのアクセスの良い一等地にあることが多く、駐車場なども併設されているため、多くの患者の来院が見込めます。
ほかの診療科の患者が自分のクリニックの患者になってくれる可能性も高いため、集患にもつながりやすいといえます。
近年は、全身疾患と歯周病の関係性が指摘されています。たとえば糖尿病や心疾患の治療で内科のクリニックを訪れた患者に、歯周病治療のために自分のクリニックを案内してもらうなどの連携も考えられるでしょう。
耳鼻科や眼科、内科などの診療結果に歯列矯正や口腔ケアが必要となることも多いため、同じ医療モール内にある歯科クリニックの存在は、利便性だけではなく、患者の安心にもつながります。
また、医療モールは、医療機関の入居を前提としているため、段差のないバリアフリー設計や手すりが設置されているなど、車椅子や高齢者の患者も訪れやすいため、老若男女問わず多くの患者の集客が見込めるでしょう。
集患以外のメリットとデメリット
集患以外に、初期費用やランニングコストを抑えられるのも医療モールで開業するメリットの一つです。
戸建て物件で開業する場合は、初期費用として土地や建物などの費用がかかります。
一方、医療モールでの開業であれば、契約料や内装費などはかかりますが、戸建て物件の開業よりも初期費用が大幅に抑えられます。
また、医療モール全体で共有することになるため、看板や駐車場の費用などもかかりません。
トイレが共有の医療モールであれば、清掃にかかる費用や手間なども不要です。
ただし、共用部分の維持・管理のために、テナント料のほかにも管理費や共益費などが発生することもあるので、入居の前によく契約を確認しておきましょう。
このほか、医療モールには、ビルタイプやショッピングモールタイプ、戸建ての診療所が集まっているビレッジタイプなどがありますが、共通しているのは最初から医療サービスの提供を目的に設計されていることです。そのため、開業に際してユニットが搬入できないといったトラブルが生じることがないこともメリットの一つでしょう。
さらに、医療モールは患者数や売上などの見積もりが立ちやすいことから、より具体的な事業計画を策定することが可能です。
金融機関から融資を受けるためには、何よりも事業計画の具体性が重要になります。
融資の面でも、医療モールにクリニックを構えていることは有利に働くでしょう。
ただし、医療モールでの開業はメリットばかりではありません。
医療モールによっては「同一の診療科を入居させない」という取り決めがされていないところもあり、すでにほかの歯科医院が入居していたり、新たに歯科医院が入居してきたりする場合は、競合になってしまう可能性があります。
医療モールに入居する場合は、まず「診療科に被りがないか」「契約で同一の診療科を入居させないという取り決めがされているか」を確認しておく必要があります。
また、クリニック同士の連携を図るためには、異なる診療科の医師ともコミュニケーションを取らなければならず、継続して良好な人間関係を築いていかねばなりません。
戸建て物件で開業する医師よりも、人間関係の構築に力を注ぐことになるため、人付き合いが苦手な人や、人間関係が煩わしく感じる人などは、ストレスを抱えることになる可能性もあります。
医療モールでの開業はこのように多少のデメリットもありますが、利便性の高い立地にあり、ほかの診療科と連携がとりやすいなどメリットも多くあります。
開業場所を検討する際は、医療モールも視野に入れるとよいでしょう。
※本記事の記載内容は、2023年9月現在の法令・情報等に基づいています。