国も注力! 医療分野におけるAIの現在地
AIの活用は医療分野でも検討が重ねられており、実際にAI支援胸部がん検診投影システムや、AIによるレセプトチェックなど、実用化されたものもあります。
このAI技術によって、慢性的な医療従事者不足の解決や、労働環境の改善、患者に提供する医療の質の向上などが期待されていますが、一方でAIに関する法の未整備や医療従事者の知識不足などの課題もあります。
これまでの国の取り組みと今後の予定をふまえながら、AIと医療の『現在地』を確認していきます。
医療分野におけるAI開発の時系列
厚生労働省は、AIによって医療分野の抱える課題を解決するために、2017年に、それまでの「ICTを活用した医療」の議論の流れを受けた『保健医療分野におけるAI活用推進懇談会』を開催しました。
医療分野の抱える課題とは、医療従事者の不足や過重労働、地域によって医師や診療所の数が偏ってしまう地域偏在・診療科偏在、ヒューマンエラーなどです。
こうした課題を解決するために、懇親会ではAI開発を進めるべき、以下の重点6領域が選定されました。
(1)ゲノム医療
※個人の遺伝子の変化や生まれ持った遺伝子の違いを解析し、病気の性質を明らかにして体質や病状に合わせた治療を行うこと。
(2)画像診断支援
(3)診断・治療支援
(4)医薬品開発
(5)介護・認知症
(6)手術支援
厚生労働省は懇親会からの報告を受けて、2018年7月に『保健医療分野AI開発加速コンソーシアム』を設置し、医療分野におけるAI開発を加速させるために必要な工程や今後の方向性などを検討しました。
そして、2022年6月に行われた第14回目の審議からは、政府が同年4月に策定した『AI戦略2022』をふまえた今後の進め方が議論されています。
AI戦略とは、政府がAIによる産業競争力の向上やAIに関する人材育成などを戦略目標として定めたもので、『人間尊重』『多様性』『持続可能』の3つを理念としています。
その3つの理念の実装を念頭に、5つの戦略目標として『人材』『産業競争力』『技術体系』『国際』、パンデミックや大規模災害などの『差し迫った危機への対処』が設定されました。
AI開発のこれまでとこれから
AI開発を進めるべき重点6領域に関しては、これまで厚生労働省が主体となって、民間企業におけるAI開発を促進するための基盤の整備が行われてきました。
たとえば、欧米に比べて取り組みが遅れていたゲノム医療に関しては、AIを導入することで、解析の時間を大幅に短縮できるとしており、厚生労働省では現在その前段階となる先行解析を実施しています。
ゲノム情報を集約して、解析のために必要なデータベースの構築を目指し、2021年度までに、血液領域、消化器領域、婦人科領域、呼吸器他領域、希少がん領域、小児がん領域の約9,900症例について全ゲノム解析などを実施し終えました。
今後は、がん領域において新たに約2,000症例、難病領域において約2,500症例の解析を予定しており、同時に解析データを医療現場へ還元するシステムや活用基盤の構築などを目的とした組織の設立が検討されています。
また、AIを使った画像診断支援プログラムや、診断・治療支援プログラムの開発も進められてきました。
厚生労働省では、精神・神経・筋疾患領域の早期診断を目的としたAI技術開発研究のための支援に加え、AIプログラム医療機器の開発に必要な臨床研究や医師主導治験への支援も並行して行っています。
画像診断支援や診断・治療支援に関しては、引き続きこれらの支援や推進が行われていく予定です。
医療分野におけるAI開発や活用に関しては、まだまだ法整備が不十分だったり、医療従事者の知識が不足していたりといった課題も残っています。
AIによる医薬品や医療機器の開発には、患者の医療情報などを含むデータベースの活用が不可欠ですが、そのための環境整備なども十分ではありません。
厚生労働省では、今後も企業の二次利用も含めたデータ収集や、自治体が保有するデータベースとの連携、データ利活用についてのガイドライン作成といった民間企業が利用しやすい環境の整備、医療とAIの両方が分かる人材の育成などについて検討を行っていく予定です。
AIの発展に伴い、ゲノム医療など、これまでにはない新しい医療が提供できるようになりました。
まだ検討段階の取り組みも多くありますが、今後、医療分野におけるAIの導入は加速度的に進んでいくといわれています。
AI開発に関連する国の取り組みを注視し、常に情報を更新するよう心がけていきましょう。
※本記事の記載内容は、2023年9月現在の法令・情報等に基づいています。