企業に必要な対応は? 話題の『LGBT理解増進法』ってどんな法律?
しかし、具体的にどのような法律なのか、あまり知らない人もいるのではないでしょうか。
LGBT理解増進法の中身を説明しながら、企業に必要な取り組みを考えていきます。
具体的な規定や罰則を定めていない理念法
LGBT理解増進法は、性的指向やジェンダーアイデンティティの多様性に対する国民の理解が十分でない現状を鑑みて、これらの多様性に寛容な社会を実現することを目的に定められた法律です。
この法律においての性的指向とは、自身にとって恋愛感情や性的感情の対象となる性別についての指向を示すものです。
また、ジェンダーアイデンティティとは自身の帰属している性別と認識する性別との同一性の有無や程度にかかる意識のことをいいます。
ジェンダーアイデンティティは日本語で『性自認』や『性同一性』などと訳されることもあります。
LGBTとは、レズビアン(Lesbian)・ゲイ(Gay)・バイセクシュアル(Bisexual)・トランスジェンダー(Transgender)の頭文字からなる性的マイノリティの総称です。
総称なので、この4つの分類には属さない人も含まれます。
これまで、性的マイノリティに対する差別および偏見をなくすための取り組みや理解の増進などは、国や自治体、企業などで個別に行われてきました。しかし、法律で定められたのは初めてのことです。
つまりLGBT理解増進法は、性的指向やジェンダーアイデンティティについて、日本で最初に定められた法律といえます。
ただし、LGBT理解増進法は性的指向やジェンダーアイデンティティを理由とする不当な差別があってはならないという基本理念のもと、性的マイノリティへの理解を広めるための法律であって、具体的な規定や罰則を定めたものではありません。
このような基本的な理念のみを定めた法律のことを『理念法』といいます。
理念法として成立したLGBT理解増進法は、国や地方自治体、学校、そして企業に対して、性的マイノリティへの理解を増進させるための取り組みを行うように求めています。
しかし、これらは強制ではありません。
企業に求められる取り組みとは?
LGBT理解増進法のなかで、企業に関連する条文は第六条と第十条です。
第六条では、企業はLGBT理解増進法の基本理念にのっとり、雇用している労働者に対し、性的指向およびジェンダーアイデンティティの多様性に関する理解を増進させるための普及啓発、就業環境の整備、相談の機会の確保などを行うように求めています。
また、国や地方公共団体が行う関連の施策に協力するように努めるものという表記もあります。
さらに第十条では、企業は雇用する労働者に対して、性的指向およびジェンダーアイデンティティの多様性に関する理解を深めるための情報の提供、研修の実施、普及啓発、就業環境に関する相談体制の整備、そのほかの必要な措置を講じるように求めています。
これらの要請は努力義務であり、企業が必ず実施しなければいけないわけではありません。
罰則も存在しないので、実施しなくてもペナルティを受けることはありません。
しかし、法律で明記されている以上は、企業側にも適切な対応が必要であるといえるでしょう。
一部の企業ではLGBT理解増進法が成立する前から、性的マイノリティが働きやすい職場環境づくりが進められており、性別を問わずに利用できるトイレの設置や男女共通の作業着の支給などが行われてきました。
また、同性のパートナーを従業員の配偶者として認め、家族手当の支給などを行う福利厚生制度を導入した企業もあります。
ほかにも、性的指向やジェンダーアイデンティティに関する差別禁止を就業規則に明記している企業や、セクシュアリティに関する相談窓口を設けている企業などがあります。
こうした取り組みの内容は、各企業が自社サイトなどで公表しているほか、厚生労働省のホームページなどでも職場における性的マイノリティに関する取り組み事例が公表されており、参考にすることができます。
厚生労働省の委託事業として行われた2019年の企業アンケート調査では、約7割の企業が「社内において、性的マイノリティが働きやすい職場環境をつくるべきである」と回答しました。
自社の状況に合わせて、どのような取り組みが行えるのかを考えると同時に、従業員一人ひとりが性的マイノリティへの理解を深めていくことがなによりも重要です。
※本記事の記載内容は、2023年8月現在の法令・情報等に基づいています。