高齢社員に長く働いてもらう『定年制の廃止』がもたらすもの
現在、『高年齢者等の雇用の安定等に関する法律』、通称『高年齢者雇用安定法』によって、定年年齢は60歳を下回ることはできません。
同法では、さらに事業者に対し、高齢者の雇用を確保することを義務づけています。
そのなかの措置の一つが、『定年制の廃止』です。定年制を廃止することで、企業はどのような影響を受けるのでしょうか。
メリットやデメリットを含め、企業における定年制度の廃止について、考えてみます。
企業における定年制度についての現状
高年齢者雇用安定法に基づき、企業は労働者の65歳までの雇用を確保しなければならず、「65歳までの定年の引き上げ」「65歳までの継続雇用制度の導入」「定年制の廃止」のいずれかの措置を講じるように義務づけられています。
2022年12月に公表された厚生労働省の『令和4年高年齢者雇用状況等報告』によれば、報告を行った従業員21人以上の企業23万5,875社のうち、99.9%の企業が『高齢者雇用確保措置』を実施しています。
この措置の内訳を見てみると、「定年の引上げ」が25.5%、「継続雇用制度の導入」が70.6%、そして「定年制の廃止」は3.9%でした。
雇用確保措置として採用されることの少ない定年制の廃止ですが、廃止を行う企業は年々増加傾向にあり、今後は『定年制のない会社』がそこまで珍しい存在ではなくなるという見方もあります。
さらに、高年齢者雇用安定法が改正され、2021年4月からは、現行の65歳までの雇用確保(義務)に加え、70歳までの就業機会を確保するために以下のいずれかの措置を講じることが努力義務とされました。
・70歳までの定年引き上げ
・定年制の廃止
・70歳までの継続雇用制度の導入
・70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
・70歳まで継続的に以下(1)(2)の事業に従事できる制度の導入
(1)事業主がみずから実施する社会貢献事業
(2)事業主が委託、出資などする団体が行う社会貢献事業
あくまで努力義務ですが、この措置のなかにも定年制の廃止が含まれました。
定年制の廃止は、少子高齢化や労働者不足などへの対応策として注目を集めており、労働者人口を確保するための施策として期待されています。
定年制を廃止するメリットとデメリット
定年制を廃止するメリットはいくつかあり、そのなかでも高齢従業員が持っているノウハウや人脈を引き続き活用できるという点は、最大のメリットといえるでしょう。
たとえば経験が豊富な高齢従業員は、トラブルが起きたときの問題解決能力も高く、会社になくてはならない存在です。
ベテラン従業員が会社に在籍している間に、若手従業員を育てることで企業の底力アップにもつながります。
このほかにも、定年制を廃止することで退職時期を遅らせ、退職のタイミングを分散させることができます。
そのぶん、新規で人材を採用する必要がありません。
つまり、採用コストを削減できるメリットもあります。
一方で、デメリットとしては、人件費の増大や世代交代が進まないなどの問題が考えられます。
たとえば、年功序列で在籍年数が多いほど給与が上がる日本企業の場合、定年制が廃止されることにより人件費が増大します。
また、成果をあげているのに、ベテラン従業員がいることにより出世できないと、若手従業員の不満が溜まり退職につながる恐れもあります。
このほかにも、加齢によって業務遂行がむずかしくなる高齢従業員が出てきてしまう可能性もあるでしょう。
判断能力や業務遂行能力の低下は、会社の生産性や売上の低下を招くことにもなりかねません。
定年制度が普及している日本では、従業員が定年の年齢に達すると、労働契約が解除され、従業員は退職していくことになります。
しかし、定年制を廃止することで、高齢従業員は一定の年齢を迎えても労働契約を解除されることはありません。
定年制を廃止した企業における高齢者の退職としては、従業員の申し出による自己都合退職や、労使の合意による合意退職、会社都合による解雇、従業員の死亡による退職などが考えられます。
加齢による身体および認知能力の低下、病気などで業務に支障が出るような状態であれば、簡易な業務への転換や、出勤日時の調整などを検討します。
それでも働き続けるのがむずかしい場合は、該当従業員の意思を確認したうえで合意退職となります。
もし、合意に至らなければ、退職勧奨や解雇などの選択肢を選ぶことになるかもしれません。
定年制を廃止する際は、定年以外の退職方法を理解したうえで、就業規則の変更が必要です。
就業規則から定年の項目を削除する際は、退職金制度なども変更することになるため、従業員の不利益な変更にならないように注意します。
定年の廃止を行うかどうかは、自社の事情をふまえたうえで社労士など専門家に相談しながら、検討することをおすすめします。
※本記事の記載内容は、2023年8月現在の法令・情報等に基づいています。