社会保険労務士法人なか/労働保険事務組合福働会/福働会中部支部

分院を開設するなら! 確認しておきたい手順と注意点

23.06.06
業種別【歯科医業】
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歯科医院の経営戦略として、本院のほかに分院を開設するケースがあります。
分院の開設は、ある程度経営が軌道に乗ったタイミングで、診療圏の拡大や売上増加のために、多くの院長が考えるのではないでしょうか。
分院の開設には多くのメリットがある一方で、さまざまなデメリットもあります。
分院を成功させるための重要なポイントや、注意点などについて解説します。
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分院を開設するメリットとデメリット

歯科医が歯科医院を開業し、経営が軌道にのって安定すると、資金もそれなりに確保できるようになります。
そこで、次のステップとして分院の開設を視野に入れる人も少なくないでしょう。
分院とは、本院を中心とする医療法人または社団法人に属する医療機関と考えられるもので、診療圏の拡大や、売上の増加などを目的に開設します。

分院を開設することで、医薬品や備品などの仕入をまとめることができる、人材募集を一括して行える、優秀なスタッフ同士の折り合いが悪い場合などに異動が可能など、資金面、人材面などのメリットがあります。
また、本院と分院で役割や機能を分けることで対応できる幅を広げ、患者を取りこぼさない仕組みを構築することも可能です。
たとえば、本院では通常の歯科治療を行い、分院では審美歯科をメインにする、本院では診療時間を平日の夕方までに限定して、分院では夜間や土日診療にも応じられるようにするといったような方法です。

しかし、分院の開設にはデメリットもあります。
原則、本院の院長が分院の院長を兼ねることはできないため、どうしても分院は他人に任せる必要があります。
そのため、自身の経営方針や医療方針を踏襲し、信頼できる相性のよい分院長を確保する必要があります。
また、新たな人材を確保して分院のスタッフが増えることになるため、スタッフとの意思疎通もむずかしくなり、マネジメント上の問題が起きやすくなることも考えられます。
院長の目が行き届かないばかりに、分院の経営がずさんになってしまい、結果として患者離れが起きてしまったケースも存在します。

分院の開設は、法人として規模を拡大するためではありますが、多くの手間と労力、そして費用が必要になります。
これらのメリットとデメリットをよく理解して、慎重にことを進めることが大切です。


分院を開設する目的は? 開設までのポイント

一口に『分院開設』といっても、その形はさまざまです。
分院開設を成功に導くうえで大切なのは、「なぜ分院を開設する必要があるのか」という目的をはっきりさせることです。
たとえば、単に売上を増やすためだけなら、分院を開設しなくとも、診療時間の見直しや、ユニットの増設などを行うことで実現できるかもしれません。
まずは、分院を開設する理由や目的を明確にし、その目的が本当に分院を開設しなければなし得ないことなのかを考えることが大切です。

目的を明確にしたら、次に実際に分院を開設するまでの手順について確認していきましょう。
順を追ってポイントを説明します。

1.医療法人または一般社団法人に変更する
医療法により、医院を個人で開院する場合、1医院しか開設できないと定められています。そのため現診療所が個人事業主の形態で経営しているのであれば、医療法人または一般社団法人に変更する必要があります。

2.人材を確保する
分院は他人に任せることになるため、自身の経営方針や医療方針、診療スタイル、性格や価値観などに合致する分院長を探す必要があります。
目指す分院の雰囲気にそぐわない分院長の存在は、スタッフ間のトラブルが増えたり、患者離れが起きたりする原因につながります。

分院長を選ぶ際は、分院長に必要な能力やスキルを明確にする必要があります。
たとえば、『能力・スキル』『経験・実績』『人間性』など、求める基準を明確にし、その基準を満たしているかどうかを判断する必要があります。もし、適切な分院長が見つからないのであれば、そもそもの分院展開を見直すというくらいの気持ちでで進めた方がよいでしょう。

分院長の確保は、勤務医に相談してみたり、出身大学や医局、信頼の置ける同業に紹介してもらったりといった方法のほかに、人材紹介会社や求人サービスを利用するという手もあります。
可能であれば、いきなり分院長として採用するのではなく、自身の医院でしばらく勤務してもらい自身の経営ノウハウや、医療方針、価値観などを伝えていくとなお安心して分院を任せられるでしょう。
また、歯科助手といったスタッフの確保も重要です。
分院の開設時に必要な技術を習得したベテランスタッフが揃うとも限らないため、場合によっては本院から慣れたスタッフを派遣することも考えなければなりません。

3.分院を開設する場所を熟考する
分院を信頼できる分院長に任せたとしても、経営者は本院と分院を頻繁に行き来することが考えられます。そのため、気軽に行き来できる場所(20分くらい)での開設が理想です。
勤務医やスタッフに対しても、緊張感だけでなく、「万が一トラブルが起きても経営トップがすぐに駆けつけてくれる」といった安心感を与えることにもつながります。

このほかにも分院の開設には、資金調達や機材の確保、行政手続きやマニュアルの作成、体制の構築など、さまざまな手間やコスト、時間がかかります。
まずは分院を開設する目的を明確化し、余裕を持ったスケジュールを立て、計画的に進めていくことが重要です。


※本記事の記載内容は、2023年6月現在の法令・情報等に基づいています。