法的に無効にならない『キャンセル料』の正しい設定の仕方
コロナ禍では、大人数や長時間におよぶ飲食などの会食が制限されたことから、1年以上前から予約することが多い結婚式の『キャンセル』が多発しました。
このキャンセルに関し、客と結婚式場とのトラブルが多発し、なかには高額なキャンセル料を巡って訴訟に発展したケースもありました。
キャンセルとは契約を一方が解約することで、正当な理由がなく解約した側はキャンセル料を支払う民法上の義務が生じることがあり、あらかじめ契約上のキャンセル料についての定めがあれば、その規定に基づきキャンセル料が発生します。
しかし、キャンセル料は事業者が自由に決めてよいものではなく、消費者保護の観点から、消費者の不利になるような条項は無効とされます。
無効にならない適正なキャンセル料の設定方法を解説します。
このキャンセルに関し、客と結婚式場とのトラブルが多発し、なかには高額なキャンセル料を巡って訴訟に発展したケースもありました。
キャンセルとは契約を一方が解約することで、正当な理由がなく解約した側はキャンセル料を支払う民法上の義務が生じることがあり、あらかじめ契約上のキャンセル料についての定めがあれば、その規定に基づきキャンセル料が発生します。
しかし、キャンセル料は事業者が自由に決めてよいものではなく、消費者保護の観点から、消費者の不利になるような条項は無効とされます。
無効にならない適正なキャンセル料の設定方法を解説します。
消費者にキャンセル料を請求できる根拠
キャンセル料とは、契約を解約する際に発生する料金のことで、法律上は『損害賠償金』に該当します。
商品やサービスの予約とは、将来的に売買を行うことを約する契約であり、店が予約を受け付けた段階で契約が成立し、店と客の双方に契約を履行する義務が生じます。
飲食業でたとえると、飲食店は予約の料理を客に提供する義務が生じ、客は予約した料理の提供を受け、その代金を支払う義務が生じることになります。
この契約を一方的に解約する行為が、いわゆる『キャンセル』です。
民法第415条では、『債務不履行による損害賠償』を認めており、もし、契約の履行がされなかった場合は店に損害が生じるため、店側は客に損害賠償を請求してよいことになっています。
これが、キャンセル料を請求できる法的根拠です。
消費者契約法によって無効になるキャンセル料の条項
せっかく用意した商品やサービスがキャンセルされるのは店にとって大きな痛手となるため、客が勝手にキャンセルしたのであれば、キャンセル料を請求するのは当然のことのように思えます。
しかし、近年はキャンセル料の支払いを巡るトラブルが急増しており、裁判ではキャンセル料を定めた事業者の条項を無効と判断するケースも増えてきています。
民法第415条では「債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない」と定めています。
契約が不履行になったとしても、社会通念に照らして客に落ち度がない場合は、キャンセル料の条項は適用されません。
また、民法416条では『損害賠償の範囲』として、「債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする」と定めています。
これは、損害賠償請求できるのはキャンセルによって生じた損害の範囲に制限するものです。
たとえば、ホテルや旅館などの場合、当日に宿泊をキャンセルされてしまうと、その日のうちに空いた部屋を埋めるのがむずかしく、1部屋分の宿泊料を得ることができなくなってしまいます。
したがって損害は1部屋分の宿泊料となり、1泊1万円の部屋であった場合にキャンセル料として損害賠償請求できるのは、宿泊料と同じ1万円となります。
では、このとき、たとえば「当日キャンセルは3万円のキャンセル料を申し受けます」といった条項があった場合はどうでしょうか。
民法420条には、債務の不履行について損害賠償額を予定する条項を定めることができるとされていますので、契約書上にそのような規定を置いておくこともできそうです。
しかし、その契約が消費者を対象とするものであった場合には、消費者保護を定めた消費者契約法9条1号が適用されるため、平均的な事業者の損害額を超える部分については条項が無効とされます。
そのため、この例だと1万円の実損害額を超えた2万円に関しては、平均的な事業者の損害額を超えているものとして無効になる可能性が高いでしょう。
ホテルや旅館などの約款でよく見かけるキャンセル料の定めが、2~3日前にキャンセルした場合は宿泊料の50%、前日は80%、当日や無断キャンセルは100%というように設定されることが多いのも、このためです。
加えて、消費者契約法9条2号ではキャンセル料の一種として高い遅延損害金を定める場合についても、現在では年利14.6%を超える部分についての条項は無効とされます。
たとえば、「家賃を3カ月以上滞納した場合は、1カ月の家賃の年15%の遅延損害金を支払うものとする」などの条項は、年利14.6%を超える部分について無効になります。
ただし、この法律が施行されたのは平成13年4月1日であり、それ以前に締結した賃貸契約について同法は適用外です。
そのため、施行後の更新契約でも遅延損害金に年利14.6%を適用するかは裁判所の判断が分かれています。
また、商品の売買契約の場合は、ホテルや宿泊施設とは扱いが異なるので注意が必要です。
ホテルなどは当日にキャンセルされてしまうと、「販売機会を損失する」というキャンセル料を請求できるだけの根拠があります。
しかし、オーダーメイド品や特注品、消費期限や賞味期限などが設定されている商品以外は、たとえ予約をキャンセルされても別の購入希望者に販売できるため、販売機会を損失するという根拠に乏しく、キャンセル料を設定しても無効になる可能性があります。
さらに、『特定継続的役務提供』と呼ばれる、エステティック、美容医療、語学教室、家庭教師、学習塾、結婚相手紹介サービス、パソコン教室の7つは、長期にわたり継続して高額の利用料金がかかります。
そのため、たとえば学習塾の損害賠償請求額は1万1,000円(契約の解除が役務提供開始前である場合)など、特定商取引法によってキャンセル料の上限が決められています。
客が商品やサービスの予約や販売をキャンセルする理由はさまざまです。
大切なのは、法律をきちんと理解して、双方が納得できる形をとることです。
不当なキャンセル料などがトラブルの火種にならないよう、自社の契約内容を見直し、正しいキャンセル対応を行っていきましょう。
※本記事の記載内容は、2023年4月現在の法令・情報等に基づいています。
キャンセル料とは、契約を解約する際に発生する料金のことで、法律上は『損害賠償金』に該当します。
商品やサービスの予約とは、将来的に売買を行うことを約する契約であり、店が予約を受け付けた段階で契約が成立し、店と客の双方に契約を履行する義務が生じます。
飲食業でたとえると、飲食店は予約の料理を客に提供する義務が生じ、客は予約した料理の提供を受け、その代金を支払う義務が生じることになります。
この契約を一方的に解約する行為が、いわゆる『キャンセル』です。
民法第415条では、『債務不履行による損害賠償』を認めており、もし、契約の履行がされなかった場合は店に損害が生じるため、店側は客に損害賠償を請求してよいことになっています。
これが、キャンセル料を請求できる法的根拠です。
消費者契約法によって無効になるキャンセル料の条項
せっかく用意した商品やサービスがキャンセルされるのは店にとって大きな痛手となるため、客が勝手にキャンセルしたのであれば、キャンセル料を請求するのは当然のことのように思えます。
しかし、近年はキャンセル料の支払いを巡るトラブルが急増しており、裁判ではキャンセル料を定めた事業者の条項を無効と判断するケースも増えてきています。
民法第415条では「債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない」と定めています。
契約が不履行になったとしても、社会通念に照らして客に落ち度がない場合は、キャンセル料の条項は適用されません。
また、民法416条では『損害賠償の範囲』として、「債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする」と定めています。
これは、損害賠償請求できるのはキャンセルによって生じた損害の範囲に制限するものです。
たとえば、ホテルや旅館などの場合、当日に宿泊をキャンセルされてしまうと、その日のうちに空いた部屋を埋めるのがむずかしく、1部屋分の宿泊料を得ることができなくなってしまいます。
したがって損害は1部屋分の宿泊料となり、1泊1万円の部屋であった場合にキャンセル料として損害賠償請求できるのは、宿泊料と同じ1万円となります。
では、このとき、たとえば「当日キャンセルは3万円のキャンセル料を申し受けます」といった条項があった場合はどうでしょうか。
民法420条には、債務の不履行について損害賠償額を予定する条項を定めることができるとされていますので、契約書上にそのような規定を置いておくこともできそうです。
しかし、その契約が消費者を対象とするものであった場合には、消費者保護を定めた消費者契約法9条1号が適用されるため、平均的な事業者の損害額を超える部分については条項が無効とされます。
そのため、この例だと1万円の実損害額を超えた2万円に関しては、平均的な事業者の損害額を超えているものとして無効になる可能性が高いでしょう。
ホテルや旅館などの約款でよく見かけるキャンセル料の定めが、2~3日前にキャンセルした場合は宿泊料の50%、前日は80%、当日や無断キャンセルは100%というように設定されることが多いのも、このためです。
加えて、消費者契約法9条2号ではキャンセル料の一種として高い遅延損害金を定める場合についても、現在では年利14.6%を超える部分についての条項は無効とされます。
たとえば、「家賃を3カ月以上滞納した場合は、1カ月の家賃の年15%の遅延損害金を支払うものとする」などの条項は、年利14.6%を超える部分について無効になります。
ただし、この法律が施行されたのは平成13年4月1日であり、それ以前に締結した賃貸契約について同法は適用外です。
そのため、施行後の更新契約でも遅延損害金に年利14.6%を適用するかは裁判所の判断が分かれています。
また、商品の売買契約の場合は、ホテルや宿泊施設とは扱いが異なるので注意が必要です。
ホテルなどは当日にキャンセルされてしまうと、「販売機会を損失する」というキャンセル料を請求できるだけの根拠があります。
しかし、オーダーメイド品や特注品、消費期限や賞味期限などが設定されている商品以外は、たとえ予約をキャンセルされても別の購入希望者に販売できるため、販売機会を損失するという根拠に乏しく、キャンセル料を設定しても無効になる可能性があります。
さらに、『特定継続的役務提供』と呼ばれる、エステティック、美容医療、語学教室、家庭教師、学習塾、結婚相手紹介サービス、パソコン教室の7つは、長期にわたり継続して高額の利用料金がかかります。
そのため、たとえば学習塾の損害賠償請求額は1万1,000円(契約の解除が役務提供開始前である場合)など、特定商取引法によってキャンセル料の上限が決められています。
客が商品やサービスの予約や販売をキャンセルする理由はさまざまです。
大切なのは、法律をきちんと理解して、双方が納得できる形をとることです。
不当なキャンセル料などがトラブルの火種にならないよう、自社の契約内容を見直し、正しいキャンセル対応を行っていきましょう。
※本記事の記載内容は、2023年4月現在の法令・情報等に基づいています。