会社が損害を受けて取締役が利益を得る『利益相反取引』とは
会社の利益を守る義務がある取締役が、会社の利益よりも自身や第三者の利益を優先するために行う取引のことを『利益相反取引』と呼びます。
利益相反取引は会社法によって制限されており、取引の際には、取締役が会社の承認などの手続きを経る必要があります。
また、承認を得ていない場合には、会社はその取引の無効を主張できます。
今回は、利益相反取引について、具体例などと共に説明します。
利益相反取引は会社法によって制限されており、取引の際には、取締役が会社の承認などの手続きを経る必要があります。
また、承認を得ていない場合には、会社はその取引の無効を主張できます。
今回は、利益相反取引について、具体例などと共に説明します。
さまざまなケースがある利益相反取引
一般的に取締役とは、会社法で定められている役員のことで、会社の業務に関する意思決定に関与し、また、ほかの取締役の業務執行を監視・監督する立場にあります。
従業員が会社と雇用契約を結んでいるのに対し、取締役は会社と委任契約を結んでいるため、会社からの指揮命令を受けずに自身の裁量で職務を執行できますので、従業員よりも会社とイーブンの関係にあるのが取締役だといえるでしょう。
他方で、取締役は善管注意義務・忠実義務を負っていますので、業務上の過失によって会社や取引先に損害を与えた場合は、取締役個人が賠償責任を負う立場にありますし、通常は会社の利益を考えて職務を執行するべきです。
しかし、実際には、会社の利益と自身の利益が相反するおそれがある、いわゆる利益相反取引が行われるケースもあります。
たとえば、会社の社用車を買い換える際に、古い社用車を下取りに出さずに取締役が安価で買い取るケースなどは、会社の利益を害して取締役が利益を得る利益相反取引に該当します。
また、会社が新社屋建設のための土地を購入する際に、取締役が所持している土地を会社に買わせて利益を得る行為なども、利益相反取引となります。
取締役は、会社の役員であると同時に、個人の投資家・資産家としての立場を兼ねていることが多いことから、利益相反取引が発生しやすく、会社法では、そのような取引を行う際には株主総会または取締役会の事前承認を得るように定めています。
『直接取引』と『間接取引』
利益相反取引は、以下の二つに分けられます。
【直接取引】
取締役が、自身または第三者(多くの場合、当該取締役の親族等)の利益を図るため、会社との間で行う取引
たとえば、会社と取締役の間での売買のほかに、会社から取締役への贈与や会社から取締役への貸付などがあり、これらの会社と取締役が直接関与する利益相反取引は『直接取引』となります。
【間接取引】
会社が、取締役の利益を図るために、取締役以外の者との間で行う取引
取締役自身が契約当事者となったり、第三者の代表者・代理人として契約を行ったりする場合でなくとも、取締役と会社の利益とが相反するおそれのある取引は『間接取引』として利益相反取引の規制を受けます。
たとえば、取締役が別会社から負っている債務を自社で引き受ける場合や、取締役が出資している別会社の債務を自社が引き受ける場合などは、自社と取締役の間に別会社がいるため直接の取引とはなりませんが、取締役が自社の危険や損害と引き換えに利益を得る関係がありますので、直接取引と同様に利益相反取引規制を受けます。
ただし、あくまで会社の利益保護のため、会社に損害を与える取引のことを利益相反取引と定義しているため、およそ会社に損害が出ないか、利益を与えるものは該当しません。
つまり、取締役から会社に資産を贈与したり、取締役が会社に無担保で貸付を行ったりする場合は、会社の利益を害するわけではないため、利益相反取引には該当しないことになるのです。
承認を得ても責任は免除されない
取締役による利益相反取引には、会社の承認が必要で、その手続きは取締役会設置会社と非設置会社で異なります。
取締役会設置会社では、取締役会にて、取締役から該当する取引の目的や資料、取締役会が承認するための判断材料などを提供してもらいます。
その重要事実の開示を受けて、取締役会は、当該取引を承認するか否かを決議します。
この承認のための取締役会には、該当の取締役は参加することができません。
また、取締役会を設置していない会社では、株主総会で取締役に情報を開示してもらい、株主の承認を得る必要があります。
承認を得れば、取締役は取引を行うことができるというわけです。
承認を得ていない利益相反取引については、会社は直接取引の無効を主張することができます。
また、承認の是非に関わらず、その取引によって会社に損害が発生した場合には、会社は当該取締役に損害賠償請求を行うことができます。
つまり、会社がその取引を承認していたとしても、その責任までは免除されないのです。
さらに、民事責任だけではなく、背任罪として刑事責任が問われる場合もありますし、取締役会で取引を承認した別の取締役たちも、任務を怠ったとして責任を負う可能性があります。
利益相反取引にはさまざまな問題やリスクがあります。
会社は自社や取締役が行うそれぞれの取引に対して、慎重に対応していく必要があるでしょう。
※本記事の記載内容は、2020年12月現在の法令・情報等に基づいています。
一般的に取締役とは、会社法で定められている役員のことで、会社の業務に関する意思決定に関与し、また、ほかの取締役の業務執行を監視・監督する立場にあります。
従業員が会社と雇用契約を結んでいるのに対し、取締役は会社と委任契約を結んでいるため、会社からの指揮命令を受けずに自身の裁量で職務を執行できますので、従業員よりも会社とイーブンの関係にあるのが取締役だといえるでしょう。
他方で、取締役は善管注意義務・忠実義務を負っていますので、業務上の過失によって会社や取引先に損害を与えた場合は、取締役個人が賠償責任を負う立場にありますし、通常は会社の利益を考えて職務を執行するべきです。
しかし、実際には、会社の利益と自身の利益が相反するおそれがある、いわゆる利益相反取引が行われるケースもあります。
たとえば、会社の社用車を買い換える際に、古い社用車を下取りに出さずに取締役が安価で買い取るケースなどは、会社の利益を害して取締役が利益を得る利益相反取引に該当します。
また、会社が新社屋建設のための土地を購入する際に、取締役が所持している土地を会社に買わせて利益を得る行為なども、利益相反取引となります。
取締役は、会社の役員であると同時に、個人の投資家・資産家としての立場を兼ねていることが多いことから、利益相反取引が発生しやすく、会社法では、そのような取引を行う際には株主総会または取締役会の事前承認を得るように定めています。
『直接取引』と『間接取引』
利益相反取引は、以下の二つに分けられます。
【直接取引】
取締役が、自身または第三者(多くの場合、当該取締役の親族等)の利益を図るため、会社との間で行う取引
たとえば、会社と取締役の間での売買のほかに、会社から取締役への贈与や会社から取締役への貸付などがあり、これらの会社と取締役が直接関与する利益相反取引は『直接取引』となります。
【間接取引】
会社が、取締役の利益を図るために、取締役以外の者との間で行う取引
取締役自身が契約当事者となったり、第三者の代表者・代理人として契約を行ったりする場合でなくとも、取締役と会社の利益とが相反するおそれのある取引は『間接取引』として利益相反取引の規制を受けます。
たとえば、取締役が別会社から負っている債務を自社で引き受ける場合や、取締役が出資している別会社の債務を自社が引き受ける場合などは、自社と取締役の間に別会社がいるため直接の取引とはなりませんが、取締役が自社の危険や損害と引き換えに利益を得る関係がありますので、直接取引と同様に利益相反取引規制を受けます。
ただし、あくまで会社の利益保護のため、会社に損害を与える取引のことを利益相反取引と定義しているため、およそ会社に損害が出ないか、利益を与えるものは該当しません。
つまり、取締役から会社に資産を贈与したり、取締役が会社に無担保で貸付を行ったりする場合は、会社の利益を害するわけではないため、利益相反取引には該当しないことになるのです。
承認を得ても責任は免除されない
取締役による利益相反取引には、会社の承認が必要で、その手続きは取締役会設置会社と非設置会社で異なります。
取締役会設置会社では、取締役会にて、取締役から該当する取引の目的や資料、取締役会が承認するための判断材料などを提供してもらいます。
その重要事実の開示を受けて、取締役会は、当該取引を承認するか否かを決議します。
この承認のための取締役会には、該当の取締役は参加することができません。
また、取締役会を設置していない会社では、株主総会で取締役に情報を開示してもらい、株主の承認を得る必要があります。
承認を得れば、取締役は取引を行うことができるというわけです。
承認を得ていない利益相反取引については、会社は直接取引の無効を主張することができます。
また、承認の是非に関わらず、その取引によって会社に損害が発生した場合には、会社は当該取締役に損害賠償請求を行うことができます。
つまり、会社がその取引を承認していたとしても、その責任までは免除されないのです。
さらに、民事責任だけではなく、背任罪として刑事責任が問われる場合もありますし、取締役会で取引を承認した別の取締役たちも、任務を怠ったとして責任を負う可能性があります。
利益相反取引にはさまざまな問題やリスクがあります。
会社は自社や取締役が行うそれぞれの取引に対して、慎重に対応していく必要があるでしょう。
※本記事の記載内容は、2020年12月現在の法令・情報等に基づいています。