従業員の給与増額で法人税から税額控除できる『所得拡大促進税制』
所得税額控除や試験研究費の総額に係る税額控除など企業を対象とした税額控除制度はさまざまなものがあります。
その中の一つ『所得拡大促進税制』は、個人所得の拡大による経済成長の促進のために創設された制度で、前年度よりも従業員への給与をアップさせた場合に、その増加額の一部を法人税から控除することができます。
平成30年度税制改正では、その控除率が拡充されるなどの措置が行われました。
そこで今回は、適用を受けるための条件や、控除率の計算方法などを解説していきます。
その中の一つ『所得拡大促進税制』は、個人所得の拡大による経済成長の促進のために創設された制度で、前年度よりも従業員への給与をアップさせた場合に、その増加額の一部を法人税から控除することができます。
平成30年度税制改正では、その控除率が拡充されるなどの措置が行われました。
そこで今回は、適用を受けるための条件や、控除率の計算方法などを解説していきます。
従業員の給与アップで法人税から一定額を控除
『所得拡大促進税制』は、青色申告書を提出している中小企業者等が利用できる税制で、一定の用件を満たしたうえで従業員への給与支給額を前年度よりも増加させた場合、その増加額の一部を法人税から控除できるというものです。
2018年4月1日から2021年3月31日までに開始される事業年度が対象となっています。
※なお、この制度は個人事業主にも適用されますが(個人事業主の場合は2019年分からを対象とし、所得税から一定額を控除)、ここでは中小企業者について解説していきます。
条件に当てはまる企業はぜひとも利用したいところですが、制度の適用にはさまざまな計算や手続きが必要なため、制度の詳細を理解する必要があります。
まず、この制度における従業員とは、継続雇用者を指します。
継続雇用者とは、下記のすべてを満たす従業員のことで、たとえば、前事業年度に中途入社した従業員や、適用年度に中途退社した従業員は含まれないので注意してください。
●前事業年度および適用年度の全ての月分の給与等の支給を受けた国内雇用者である
●前事業年度および適用年度の全ての期間において雇用保険の一般被保険者である
●前事業年度および適用年度の全てまたは一部の期間において高年齢者雇用安定法に定める継続雇用制度の対象となっていない
この継続雇用者への給与支給額が前年度比で1.5%以上増加した場合には、給与総額の前年度からの増加額の15%を控除することができます。
また、ここでの給与総額は、継続雇用者に限定しない、全ての国内従業員に支払った給与等の総額のことで、役員等に支払った給与などは除きます。
一定の要件を満たせば控除の上乗せも
さらに、控除額の『上乗せ措置』も用意されており、継続雇用者への給与支給額が前年度比で2.5%以上増加し、かつ一定の要件を満たす場合には、給与総額の前年度からの増加額の25%を控除することができます。
一定の要件とは以下の2つであり、このいずれかを満たす必要があります。
(1)『教育訓練費』が前年度比で10%以上増加していること
教育訓練費とは、自社の職務に必要な技術や知識を従業員に習得させるために支出する費用のことで、対象の範囲となるのは、外部の講師を招いたり、教育のために設備を整えたりといった企業が自ら教育訓練を行うための費用と、外部の教育機関などに委託して教育を行う場合の費用などになります。
(2)中小企業等経営強化法に基づく『経営力向上計画の認定』を受けており、経営力向上が確実に行われていること
経営力向上計画とは、中小企業等経営強化法に基づき、事業者がコスト管理などのマネジメントの向上や設備投資など、自社の経営力を向上するために実施する計画のことで、中小企業庁のホームページから申請様式をダウンロードできます。
申請までの流れとしては、まず、適用年度の終了日までに経営力向上計画を作成・申請し、認定を受けます。
適用年度の終了後には、経営力向上が行われたことを証明するため、経営力向上報告書を作成し、経済産業省に提出。
認定を受けた計画書と認定書(いずれも写し)、そして経営力向上報告書(写し)を税務申告書に添付して提出することで、上乗せ措置を利用することができます。
このように上乗せ措置にはさまざまな手続きが必要ですが、控除額が15%から25%へと上がるのは大きなメリットです。
税額控除の計算方法を確認
では、具体的にどのような計算になるのかを確認していきましょう。
たとえば、2019年度の全ての国内雇用者(全て継続雇用者とした場合)に支払った給与等の総額が1億円だったとします。
そして次の年の2020年度には、給与等をアップさせ、総額で1億1,000万円を支払いました。
前年比で10%も支給額が増加しており、所得拡大促進税制の条件は満たしています。
給与額は1,000万円分増加しているので、この増加額に15%を乗算し、控除額は150万円となります。
ただし、調整前法人税額の20%が上限となります。
つまり、前年比で従業員の給与を1,000万円増加させると、その15%にあたる150万円が法人税から控除できるというわけです。(調整前法人税額の20%が上限)
さらに、前述した上乗せ要件(1)または(2)を満たしていれば、25%の控除を受けられ、上記の例では250万円の控除となります。(調整前法人税額の20%が上限)
基本的には通常の所得拡大促進税制を受けるにも、上乗せ措置を受けるにも、さまざまな集計作業が必要になってきますし、書類なども用意する必要があります。
しかし、控除の適用を受けることができれば、会社として大きなメリットが得られます。
迷った場合は専門家などとも相談しながら、控除を受けるための作業を進めていきましょう。
※本記事の記載内容は、2020年11月現在の法令・情報等に基づいています。
『所得拡大促進税制』は、青色申告書を提出している中小企業者等が利用できる税制で、一定の用件を満たしたうえで従業員への給与支給額を前年度よりも増加させた場合、その増加額の一部を法人税から控除できるというものです。
2018年4月1日から2021年3月31日までに開始される事業年度が対象となっています。
※なお、この制度は個人事業主にも適用されますが(個人事業主の場合は2019年分からを対象とし、所得税から一定額を控除)、ここでは中小企業者について解説していきます。
条件に当てはまる企業はぜひとも利用したいところですが、制度の適用にはさまざまな計算や手続きが必要なため、制度の詳細を理解する必要があります。
まず、この制度における従業員とは、継続雇用者を指します。
継続雇用者とは、下記のすべてを満たす従業員のことで、たとえば、前事業年度に中途入社した従業員や、適用年度に中途退社した従業員は含まれないので注意してください。
●前事業年度および適用年度の全ての月分の給与等の支給を受けた国内雇用者である
●前事業年度および適用年度の全ての期間において雇用保険の一般被保険者である
●前事業年度および適用年度の全てまたは一部の期間において高年齢者雇用安定法に定める継続雇用制度の対象となっていない
この継続雇用者への給与支給額が前年度比で1.5%以上増加した場合には、給与総額の前年度からの増加額の15%を控除することができます。
また、ここでの給与総額は、継続雇用者に限定しない、全ての国内従業員に支払った給与等の総額のことで、役員等に支払った給与などは除きます。
一定の要件を満たせば控除の上乗せも
さらに、控除額の『上乗せ措置』も用意されており、継続雇用者への給与支給額が前年度比で2.5%以上増加し、かつ一定の要件を満たす場合には、給与総額の前年度からの増加額の25%を控除することができます。
一定の要件とは以下の2つであり、このいずれかを満たす必要があります。
(1)『教育訓練費』が前年度比で10%以上増加していること
教育訓練費とは、自社の職務に必要な技術や知識を従業員に習得させるために支出する費用のことで、対象の範囲となるのは、外部の講師を招いたり、教育のために設備を整えたりといった企業が自ら教育訓練を行うための費用と、外部の教育機関などに委託して教育を行う場合の費用などになります。
(2)中小企業等経営強化法に基づく『経営力向上計画の認定』を受けており、経営力向上が確実に行われていること
経営力向上計画とは、中小企業等経営強化法に基づき、事業者がコスト管理などのマネジメントの向上や設備投資など、自社の経営力を向上するために実施する計画のことで、中小企業庁のホームページから申請様式をダウンロードできます。
申請までの流れとしては、まず、適用年度の終了日までに経営力向上計画を作成・申請し、認定を受けます。
適用年度の終了後には、経営力向上が行われたことを証明するため、経営力向上報告書を作成し、経済産業省に提出。
認定を受けた計画書と認定書(いずれも写し)、そして経営力向上報告書(写し)を税務申告書に添付して提出することで、上乗せ措置を利用することができます。
このように上乗せ措置にはさまざまな手続きが必要ですが、控除額が15%から25%へと上がるのは大きなメリットです。
税額控除の計算方法を確認
では、具体的にどのような計算になるのかを確認していきましょう。
たとえば、2019年度の全ての国内雇用者(全て継続雇用者とした場合)に支払った給与等の総額が1億円だったとします。
そして次の年の2020年度には、給与等をアップさせ、総額で1億1,000万円を支払いました。
前年比で10%も支給額が増加しており、所得拡大促進税制の条件は満たしています。
給与額は1,000万円分増加しているので、この増加額に15%を乗算し、控除額は150万円となります。
ただし、調整前法人税額の20%が上限となります。
つまり、前年比で従業員の給与を1,000万円増加させると、その15%にあたる150万円が法人税から控除できるというわけです。(調整前法人税額の20%が上限)
さらに、前述した上乗せ要件(1)または(2)を満たしていれば、25%の控除を受けられ、上記の例では250万円の控除となります。(調整前法人税額の20%が上限)
基本的には通常の所得拡大促進税制を受けるにも、上乗せ措置を受けるにも、さまざまな集計作業が必要になってきますし、書類なども用意する必要があります。
しかし、控除の適用を受けることができれば、会社として大きなメリットが得られます。
迷った場合は専門家などとも相談しながら、控除を受けるための作業を進めていきましょう。
※本記事の記載内容は、2020年11月現在の法令・情報等に基づいています。