有効? 無効? 不貞相手に財産を遺贈した遺言書
歳を重ねるにつれ、「元気なうちに遺言書を書いておき、自分の身辺を整理しておきたい」という方も多いと聞きます。
そして、なかには、自身の家庭が事実上破綻し、不貞相手と長く時間を過ごしてきたため、財産は戸籍上の家族だけではなく、不貞相手にも遺したい、という人もいるかもしれません。
はたして、『不貞相手に遺贈する』という内容の遺言書は有効なのでしょうか?
具体的なケースをもとに考えてみましょう。
そして、なかには、自身の家庭が事実上破綻し、不貞相手と長く時間を過ごしてきたため、財産は戸籍上の家族だけではなく、不貞相手にも遺したい、という人もいるかもしれません。
はたして、『不貞相手に遺贈する』という内容の遺言書は有効なのでしょうか?
具体的なケースをもとに考えてみましょう。
不貞は公序良俗に反するもの
民法上、遺言とは遺言能力のある人が、本人のみの遺言内容を、公序良俗に反することなく法定の形式に沿った形で作成することによって有効と判断されます。
つまり、
(1)遺言能力のない人が作成した遺言
(2)一人ではなく、他の人と共同で作成した遺言
(3)公序良俗に反した内容の遺言
(4)法定の形式に沿っていない遺言
は無効となります。
このような前提に立つと、不貞は『公の秩序または善良の風俗に反する』ものと考えられるため、不貞相手にした遺贈は無効になってしまうと考えられます。
しかし、過去にはそうではない結果になった裁判が、実際にありました。
遺言者が不貞相手に対して遺贈をした事案において、「公序良俗違反である遺言は無効ではないか」と問題になったケースです。
これについて最高裁(1986年11月20日第一小法廷判決)は、認定された事実関係を前提として、概要、『本件遺言は不倫な関係の維持継続を目的とするものではなく』『もっぱら生計を遺言者に頼っていた不貞相手の生活を保全するためにされた』ものであり、また、この遺言の内容により『相続人の生活の基盤を脅かすものとはいえない』として、『本件遺言が民法90条に違反し無効であると解すべきではない』と判示しました。
遺贈が有効か無効かはケースバイケース
上記最高裁判決は、不貞相手に対する遺贈はただちに公序良俗に反するとして一律に無効と判断されるものではなく、『公序良俗に反して無効となる遺言』と『公序良俗に反せずに無効とならない遺言』の双方が存在することを認めるものとなりました。
では、どのような遺言が公序良俗に反し、どのような遺言なら反しないということになるのでしょうか。
同判決では、
(1)不貞の期間
(2)不貞が家族に明らかになっていたか
(3)婚姻関係の破綻の程度
(4)遺言作成時期における遺言者と不貞相手との関係(遺言作成をきっかけとして親密になったかなど)
(5)配偶者を含む法定相続人及び不貞相手へのそれぞれの遺贈が、遺産全体に占める割合
などをあげています。
上記最高裁判決のケースにおいては、男性がすでに妻と別居しており、夫婦としての実態がある程度喪失していたという事情、また、妻が遺贈により得た遺産は被相続人の遺産全体の3分の1であり、当時の配偶者の法定相続分である3分の1と同等であって妻の生活基盤を危うくするものではないという事情が、判決に大きく影響を与えたと考えられます。
もちろん、すべての場合において、不貞相手への遺贈が有効ということではありません。
その有効無効の判断は極めて難しく、ケースバイケース、すなわち各事案における個別の事情を裁判所が細かく検討・評価して判断する、というのが実情です。
したがって、このような遺言書が出てきたら、速やかに専門家の手に委ねるのが得策でしょう。
ただでさえ紛争の元となりやすい『相続』の場面において、不貞相手への遺贈は、さらなるトラブルに発展する可能性を秘めています。
遺言書を作成する際は、遺される人のことを考えて作成したいものです。
※本記事の記載内容は、2020年8月現在の法令・情報等に基づいています。
民法上、遺言とは遺言能力のある人が、本人のみの遺言内容を、公序良俗に反することなく法定の形式に沿った形で作成することによって有効と判断されます。
つまり、
(1)遺言能力のない人が作成した遺言
(2)一人ではなく、他の人と共同で作成した遺言
(3)公序良俗に反した内容の遺言
(4)法定の形式に沿っていない遺言
は無効となります。
このような前提に立つと、不貞は『公の秩序または善良の風俗に反する』ものと考えられるため、不貞相手にした遺贈は無効になってしまうと考えられます。
しかし、過去にはそうではない結果になった裁判が、実際にありました。
遺言者が不貞相手に対して遺贈をした事案において、「公序良俗違反である遺言は無効ではないか」と問題になったケースです。
これについて最高裁(1986年11月20日第一小法廷判決)は、認定された事実関係を前提として、概要、『本件遺言は不倫な関係の維持継続を目的とするものではなく』『もっぱら生計を遺言者に頼っていた不貞相手の生活を保全するためにされた』ものであり、また、この遺言の内容により『相続人の生活の基盤を脅かすものとはいえない』として、『本件遺言が民法90条に違反し無効であると解すべきではない』と判示しました。
遺贈が有効か無効かはケースバイケース
上記最高裁判決は、不貞相手に対する遺贈はただちに公序良俗に反するとして一律に無効と判断されるものではなく、『公序良俗に反して無効となる遺言』と『公序良俗に反せずに無効とならない遺言』の双方が存在することを認めるものとなりました。
では、どのような遺言が公序良俗に反し、どのような遺言なら反しないということになるのでしょうか。
同判決では、
(1)不貞の期間
(2)不貞が家族に明らかになっていたか
(3)婚姻関係の破綻の程度
(4)遺言作成時期における遺言者と不貞相手との関係(遺言作成をきっかけとして親密になったかなど)
(5)配偶者を含む法定相続人及び不貞相手へのそれぞれの遺贈が、遺産全体に占める割合
などをあげています。
上記最高裁判決のケースにおいては、男性がすでに妻と別居しており、夫婦としての実態がある程度喪失していたという事情、また、妻が遺贈により得た遺産は被相続人の遺産全体の3分の1であり、当時の配偶者の法定相続分である3分の1と同等であって妻の生活基盤を危うくするものではないという事情が、判決に大きく影響を与えたと考えられます。
もちろん、すべての場合において、不貞相手への遺贈が有効ということではありません。
その有効無効の判断は極めて難しく、ケースバイケース、すなわち各事案における個別の事情を裁判所が細かく検討・評価して判断する、というのが実情です。
したがって、このような遺言書が出てきたら、速やかに専門家の手に委ねるのが得策でしょう。
ただでさえ紛争の元となりやすい『相続』の場面において、不貞相手への遺贈は、さらなるトラブルに発展する可能性を秘めています。
遺言書を作成する際は、遺される人のことを考えて作成したいものです。
※本記事の記載内容は、2020年8月現在の法令・情報等に基づいています。