『覚書』と『契約書』の違いと注意点とは?
取引先と合意内容を記載して取り交わす書面は、『売買契約書』『業務委託契約書』というように『○○契約書』と題するものだけではなく、『覚書』というタイトルの書面も、実務上よく目にします。
この覚書は、契約書とは、どう違うのでしょうか。
そこで今回は、双方の違い、覚書が作成される場面、そして覚書作成の際の注意点についてご説明します。
この覚書は、契約書とは、どう違うのでしょうか。
そこで今回は、双方の違い、覚書が作成される場面、そして覚書作成の際の注意点についてご説明します。
覚書と契約書の相違点
結論としては、覚書と契約書に違いはありません。
一般に、二者以上の間で締結される、取引に関する権利義務等の合意内容を定める書面を契約書といいますが、覚書も中身は契約書と同じです。
そして、このような書面のタイトルに法的な意味はなく、書面に記載された合意内容が重要となります。
もっとも、実務上、以下の場面では、『覚書』という名称を付されることが少なくありません。
(1)本契約を締結する前に、基本的な合意事項について書面で取り決めておく場面
(2)契約書において『別途書面にて定める』として、契約書締結後に確定させることとした付随的または具体的事項を書面で定める場面
(3)すでに締結した契約の一部の修正または追加といった変更について当事者で合意した場面
それぞれの覚書の注意点
以下、(1)~(3)の注意点を解説します。
(1)基本合意書としての覚書
主にM&Aにおいて、最終契約を締結する前の交渉途中の段階で、いくつかの基本的な事項を確認するために作成されます。このような覚書は、LOI(Letter of Intent)、MOU(Memorandum of Understanding)、基本合意書などとも呼ばれます。
最終的な合意を定めるものではないため、取引内容に関する合意がなされていたとしても、それはその時点における仮の合意事項になります。そこで、このような覚書を作成する場合、当該書面における条項の法的拘束力について明記しておくことが重要です。具体的には、取引の対象となる物や権利の数量、対価の額などのビジネス面の取引内容に関する仮の合意事項を定める条項には法的拘束力がないこと、他方、守秘義務、独占交渉権など交渉の前提となる事項を定める条項には法的拘束力があることを明記します。
(2)契約書の付随的・具体的事項を定める覚書
たとえば、特定の商品を毎月売買するといったように同種の取引を繰り返す場合に、共通する基本事項を定めた取引基本契約を締結することがあります。この場合には、取引基本契約書の存在を前提として、個別の取引について、取引の対象となる商品の種類、数量、納期等を覚書に定めて締結することがあります(一般に、このような覚書は、基本契約の対になる契約として、個別契約と呼ばれます)。
他方、1回の取引に関する条件を定めるために契約書を作成する場合においても、売買や作成委託(請負)の対象となる物の仕様、対価の支払期限などの取引において重要な事項について、契約書では『別途書面にて定める』と記載し、後にこれらの事項について覚書を作成するということもあります。
しかし、これらの取引における重要な事項は、あくまで契約締結時に可能な限り具体的に特定して契約書に明記しておくべきです。そうしなければ、契約を締結した後になって、当事者間で取引の重要事項に対する認識の齟齬が発覚した場合、契約の解消や損害賠償などの問題が生じるリスクがあるからです。
そこで、紛争を未然に防ぐためには、『別途書面にて定める』という定め方は極力避けた方がよく、このような覚書を作成するのは、やむを得ない場合を除いては避けた方が無難です。
(3)変更覚書
一度契約書を作成し、締結した後は、基本的にはその契約書には法的拘束力が生じ、勝手に契約内容を変更することはできません。しかし、実務上、契約締結後に、契約事項に追加や修正などの変更の必要が生じる場合は少なくありません。そのような場合、契約当事者全員の合意をもって、既に締結した契約書の内容を変更する旨を明記した覚書を作成することになります。この場面が『覚書』というタイトルを付けるケースが最も多いかもしれません。
変更覚書を作成する際は、どの契約書を、どのように変更し、その変更がいつから発効するかが覚書の記載によって明確にすることを意識すればよく、変更の記載方法にルールがあるわけではありません。たとえば、変更覚書の前文と本文は以下のような記載となります。
・前文
〇〇株式会社(以下『甲』という。)と△△株式会社(以下『乙』という。)とは、甲乙間において、令和〇年〇月〇日付で締結された○○契約(以下『原契約』という。)の一部を以下のとおり変更することに合意したため、覚書(以下『本覚書』という。)を締結する。
・本文
第1条(原契約第〇条の変更)
原契約第〇条を以下のとおり変更する。
【変更前】
○○○
【変更後】
□□□
第2条(有効期間)
本覚書の有効期間は、本覚書締結日から原契約終了日までとする。
覚書と契約書に違いはなく、書面に記載された合意内容が重要となります。
覚書という名称に惑わされず、覚書作成・レビューの際は、上記の点に気をつけましょう。
※本記事の記載内容は、2020年3月現在の法令・情報等に基づいています。
結論としては、覚書と契約書に違いはありません。
一般に、二者以上の間で締結される、取引に関する権利義務等の合意内容を定める書面を契約書といいますが、覚書も中身は契約書と同じです。
そして、このような書面のタイトルに法的な意味はなく、書面に記載された合意内容が重要となります。
もっとも、実務上、以下の場面では、『覚書』という名称を付されることが少なくありません。
(1)本契約を締結する前に、基本的な合意事項について書面で取り決めておく場面
(2)契約書において『別途書面にて定める』として、契約書締結後に確定させることとした付随的または具体的事項を書面で定める場面
(3)すでに締結した契約の一部の修正または追加といった変更について当事者で合意した場面
それぞれの覚書の注意点
以下、(1)~(3)の注意点を解説します。
(1)基本合意書としての覚書
主にM&Aにおいて、最終契約を締結する前の交渉途中の段階で、いくつかの基本的な事項を確認するために作成されます。このような覚書は、LOI(Letter of Intent)、MOU(Memorandum of Understanding)、基本合意書などとも呼ばれます。
最終的な合意を定めるものではないため、取引内容に関する合意がなされていたとしても、それはその時点における仮の合意事項になります。そこで、このような覚書を作成する場合、当該書面における条項の法的拘束力について明記しておくことが重要です。具体的には、取引の対象となる物や権利の数量、対価の額などのビジネス面の取引内容に関する仮の合意事項を定める条項には法的拘束力がないこと、他方、守秘義務、独占交渉権など交渉の前提となる事項を定める条項には法的拘束力があることを明記します。
(2)契約書の付随的・具体的事項を定める覚書
たとえば、特定の商品を毎月売買するといったように同種の取引を繰り返す場合に、共通する基本事項を定めた取引基本契約を締結することがあります。この場合には、取引基本契約書の存在を前提として、個別の取引について、取引の対象となる商品の種類、数量、納期等を覚書に定めて締結することがあります(一般に、このような覚書は、基本契約の対になる契約として、個別契約と呼ばれます)。
他方、1回の取引に関する条件を定めるために契約書を作成する場合においても、売買や作成委託(請負)の対象となる物の仕様、対価の支払期限などの取引において重要な事項について、契約書では『別途書面にて定める』と記載し、後にこれらの事項について覚書を作成するということもあります。
しかし、これらの取引における重要な事項は、あくまで契約締結時に可能な限り具体的に特定して契約書に明記しておくべきです。そうしなければ、契約を締結した後になって、当事者間で取引の重要事項に対する認識の齟齬が発覚した場合、契約の解消や損害賠償などの問題が生じるリスクがあるからです。
そこで、紛争を未然に防ぐためには、『別途書面にて定める』という定め方は極力避けた方がよく、このような覚書を作成するのは、やむを得ない場合を除いては避けた方が無難です。
(3)変更覚書
一度契約書を作成し、締結した後は、基本的にはその契約書には法的拘束力が生じ、勝手に契約内容を変更することはできません。しかし、実務上、契約締結後に、契約事項に追加や修正などの変更の必要が生じる場合は少なくありません。そのような場合、契約当事者全員の合意をもって、既に締結した契約書の内容を変更する旨を明記した覚書を作成することになります。この場面が『覚書』というタイトルを付けるケースが最も多いかもしれません。
変更覚書を作成する際は、どの契約書を、どのように変更し、その変更がいつから発効するかが覚書の記載によって明確にすることを意識すればよく、変更の記載方法にルールがあるわけではありません。たとえば、変更覚書の前文と本文は以下のような記載となります。
・前文
〇〇株式会社(以下『甲』という。)と△△株式会社(以下『乙』という。)とは、甲乙間において、令和〇年〇月〇日付で締結された○○契約(以下『原契約』という。)の一部を以下のとおり変更することに合意したため、覚書(以下『本覚書』という。)を締結する。
・本文
第1条(原契約第〇条の変更)
原契約第〇条を以下のとおり変更する。
【変更前】
○○○
【変更後】
□□□
第2条(有効期間)
本覚書の有効期間は、本覚書締結日から原契約終了日までとする。
覚書と契約書に違いはなく、書面に記載された合意内容が重要となります。
覚書という名称に惑わされず、覚書作成・レビューの際は、上記の点に気をつけましょう。
※本記事の記載内容は、2020年3月現在の法令・情報等に基づいています。