社会保険労務士法人なか/労働保険事務組合福働会/福働会中部支部

増え続ける介護職員の精神疾患、事業所の対応方法は?

19.12.19
業種別【介護業】
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どのような仕事もストレスはつきものですが、特に介護業界は不規則な勤務時間や仕事量の多さ、対人関係の問題など、日常的にストレスを感じている人の割合が高い傾向にあります。
国の調査でも、介護業界には精神的に不調を抱える労働者が増えていることが明らかになっており、無視できない状況になっています。
そこで今回は、介護スタッフのメンタルヘルスケアについて説明します。
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精神障害による労災申請は、10年で約3倍!

労働災害(以下、労災)は、仕事中や通勤中の怪我だけでなく、仕事のストレスから病気になったり、自殺したりした場合にも認められるケースがあります。
厚生労働省の発表資料『過労死等の労災補償状況』によると、介護業を含む『社会保険・社会福祉・介護事業』の精神障害による労災請求件数は、2009年度の66人から5年後の2014年度には140件に増加し、業種別(中分類)で一番多くなりました。
さらに2018年度には192件となっており、この10年で約3倍にふくれあがっていることがわかります。

社会保険・社会福祉・介護事業の精神障害による労災請求状況の推移
・2009年度/労災申請件数66件、支給決定件数10件
・2014年度/労災申請件数140件(62件)、支給決定件数32件(15件)
・2018年度/労災申請件数192件(85件)、支給決定件数35件(20件)
※( )内は介護サービス職業従事者の件数。2009年度は統計なし。

福祉施設などで働く人も『社会保険・社会福祉・介護事業』に含まれますが、厚生労働省によると、多くは介護の労働者です。
介護スタッフの精神障害による労災請求件数が増加した背景として、第一に考えられるのが、人材不足による業務負担の増加です。
介護業界は『スタッフの高齢化』や『若年者層の離職』など深刻な問題を抱えており、それが介護スタッフ一人あたりの業務量増加につながっています。
肉体だけでなく、精神的にも大きな負担がかかるため、『心の健康』に影響を及ぼしているのです。
また、現場スタッフが精神的・肉体的に追い詰められることにより、職場・チーム間での人間関係が悪化し、いじめやパワーハラスメント、セクシャルハラスメントに発展していく傾向にもあります。
このように、多くの介護事業者が『人材不足→スタッフのストレスが増大→離職者が増加』という負のスパイラルに巻き込まれていると考えられます。


ストレスチェックの実施による労災防止対策

では、介護事業所としてどのように対策を進めていくべきかを検討してみましょう。
介護職は力仕事が多いため、腰痛や作業中の転倒などへの対策を中心とした労災防止対策が進められてきました。
今後は、介護スタッフが精神障害に陥るのを防ぐために、メンタルヘルス対策を中心とした労災予防に取り組むことが重要になります。

メンタルヘルス対策として国が進めている制度が、『ストレスチェック』です。
ストレスチェックとは、ストレスに関する質問に回答することで、労働者が置かれている状況を分析できる簡単な検査です。
高いストレスを抱えている労働者を発見したり、調査結果を職場環境の改善につなげたりすることを目的としています。
『労働安全衛生法』では、常時50人以上の労働者が働いている事務所を対象に、毎年1回の実施が義務づけられています。
ストレスチェックの実施者は、医師、保健師、厚生労働大臣の定める研修を受けた看護師・精神保健福祉士の中から選ぶ必要があり、外部に委託することも可能です。
『医師による面接指導が必要』という結果が出た場合は本人に知らせ、本人の希望があれば医師に依頼して面接指導を実施しましょう。
専門家に相談することで、うつや自殺などを未然に防ぐ効果が期待できます。

ただし、形式的に実施するだけではあまり効果は得られません。
検査結果をもとに自社の労働者がストレスに陥りやすい原因を特定し、メンタルヘルスを専門とした産業医などと協力して、体系的な予防対策を講じることが必要となります。
また、検査結果は労働者の個人情報なので、プライバシー保護の点にも注意して管理しましょう。
法律で義務づけられていない労働者50人未満の事業所でも、ストレスチェックを効果的に実施することで、介護スタッフが働きやすい職場環境に改善することが可能となります。
ぜひ予防対策としてのストレスチェックを実施してみてはいかがでしょうか。


※本記事の記載内容は、2019年12月現在の法令・情報等に基づいています。