正社員と派遣社員、待遇面で差を付けるのは違法?
近年、正社員と派遣社員における福利厚生施設利用に関しての待遇差によるトラブルが頻発しています。
たとえば、『正社員は食堂を使えるが、派遣社員は使えない』『正社員だけがウォーターサーバーを使える』などの規定が設けられていたり、暗黙の了解になっていたりする企業があり、SNSでは待遇差に異を唱えたり、企業を批判したりする声も多く聞かれます。
では、果たして正社員と派遣社員で待遇差を設けることは違法なのでしょうか。
たとえば、『正社員は食堂を使えるが、派遣社員は使えない』『正社員だけがウォーターサーバーを使える』などの規定が設けられていたり、暗黙の了解になっていたりする企業があり、SNSでは待遇差に異を唱えたり、企業を批判したりする声も多く聞かれます。
では、果たして正社員と派遣社員で待遇差を設けることは違法なのでしょうか。
正社員と派遣社員の立ち位置の違い
現状、『働き方改革関連法』の一つとして、『同一労働同一賃金の推進』が定められており、2020年4月(中小企業は2021年4月)から施行されます。
契約社員やパート、アルバイトに対して、仕事内容などが正社員と同じである場合には、賃金や休暇、そして福利厚生などを正社員と同じ待遇にしなければならないと義務付けられています。
では、派遣社員の場合にはどうなるのでしょうか。
正社員はもちろん、契約社員やパートは自社と雇用契約を結んでいるのに対して、派遣社員は派遣会社と雇用契約を結んでいます。
同じ会社で正社員と同じように働いていても、あくまで派遣会社から派遣されて来ているという立ち位置になります。
食堂やウォーターサーバーはもちろん、休憩室や更衣室などの施設や共有の設備などの福利厚生は、基本的には会社が自社の従業員に対して提供しているものです。
派遣社員は、派遣会社の社員であり、派遣先に雇用されているわけではありません。
つまり、派遣社員に対して、派遣先の会社は福利厚生を提供する義務はないことになります。
したがって、『正社員は食堂を使えるが、派遣社員は食堂を使えない』などの待遇差は、法的には『ただちに問題になる』とはいえない状況です。
さらに、税金の問題もあります。
雇用主が従業員に対して提供する福利厚生は、勘定科目でいえば、『福利厚生費』として経費に計上されています。
食事代の50%以上を従業員が負担すれば会社は従業員一人につき月3,500円まで福利厚生費を計上することができます。
3,500円以上になってしまうと、所得税として課税されてしまいます。
しかし、派遣社員は自社の社員ではないので、会社は派遣社員のお昼代を負担し、福利厚生費として計上することはできません。
福利厚生費は、あくまで自社の社員のみに適用されるもの。
税金の面からいっても、派遣社員に福利厚生を提供することはできないのです。
待遇差を解消するための『配慮義務』が制定
とはいえ、同じ職場で働く者同士、一方が施設や設備を使えるのに、もう一方は使えないという状態がよいとはいえません。
正社員が毎日半額の負担で昼食をとることができるのに、派遣社員は全額出費せざるを得ない状態は不満の原因にもなります。
同じ仕事をしているにもかかわらず、待遇に差が出ることに対し、頭では理解できても、ほとんどの人は不快に感じるのではないでしょうか。
働くモチベーションも下がり、職場の雰囲気が悪くなる可能性もあります。
これでは会社にとってもよくありません。
これらの待遇差の問題がきっかけの一つとなり、2015年に『労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下、労働者派遣法)』が改正。
派遣社員に対する、福利厚生施設の利用に関わる『配慮義務』が制定されました(労働者派遣法第40条3項)。
これは、派遣社員が食堂や休憩室などの福利厚生施設を正社員と同じように利用できるよう配慮しなければならないというものです。
旧法では『努力義務』とされていましたが、『配慮義務』となったことで、たとえ福利厚生について、正社員と同じ待遇を与えられなかったとしても、何か別の形で待遇格差を埋めるように『配慮』しなければいけなくなりました。
たとえば、定員の関係で派遣社員の食堂利用を制限していたのであれば、正社員と派遣社員の食堂の利用時間をズラすなどの措置を取らなければいけませんし、正社員だけにロッカーがある場合は、派遣社員にもロッカーか、ロッカーの代わりになるものを用意するように配慮しなければなりません。
『強制』ではなく、『配慮』なので、違反しても罰則などはありませんが、待遇差が目にあまる場合は、行政指導が行われる可能性もあります。
また、現在はSNSなどからすぐに悪評が広まり、簡単に炎上する時代。
もし露骨な待遇差が明るみに出た場合、企業のイメージダウン、社会的評価の失墜は避けられません。
さらに、正社員と派遣社員間の待遇差から、差別が発生し、会社に対して派遣社員側から損害賠償請求が行われたケースもあります。
どちらにせよ、福利厚生利用での待遇差は、会社的にもよい結果をもたらしません。
派遣社員への配慮はもちろん、派遣元である派遣会社と協議を重ねるなどして、できるだけ待遇差を埋めていく必要があります。
一度、自社の派遣社員の待遇を見直してみてはいかがでしょうか。
※本記事の記載内容は、2019年8月現在の法令・情報等に基づいています。
現状、『働き方改革関連法』の一つとして、『同一労働同一賃金の推進』が定められており、2020年4月(中小企業は2021年4月)から施行されます。
契約社員やパート、アルバイトに対して、仕事内容などが正社員と同じである場合には、賃金や休暇、そして福利厚生などを正社員と同じ待遇にしなければならないと義務付けられています。
では、派遣社員の場合にはどうなるのでしょうか。
正社員はもちろん、契約社員やパートは自社と雇用契約を結んでいるのに対して、派遣社員は派遣会社と雇用契約を結んでいます。
同じ会社で正社員と同じように働いていても、あくまで派遣会社から派遣されて来ているという立ち位置になります。
食堂やウォーターサーバーはもちろん、休憩室や更衣室などの施設や共有の設備などの福利厚生は、基本的には会社が自社の従業員に対して提供しているものです。
派遣社員は、派遣会社の社員であり、派遣先に雇用されているわけではありません。
つまり、派遣社員に対して、派遣先の会社は福利厚生を提供する義務はないことになります。
したがって、『正社員は食堂を使えるが、派遣社員は食堂を使えない』などの待遇差は、法的には『ただちに問題になる』とはいえない状況です。
さらに、税金の問題もあります。
雇用主が従業員に対して提供する福利厚生は、勘定科目でいえば、『福利厚生費』として経費に計上されています。
食事代の50%以上を従業員が負担すれば会社は従業員一人につき月3,500円まで福利厚生費を計上することができます。
3,500円以上になってしまうと、所得税として課税されてしまいます。
しかし、派遣社員は自社の社員ではないので、会社は派遣社員のお昼代を負担し、福利厚生費として計上することはできません。
福利厚生費は、あくまで自社の社員のみに適用されるもの。
税金の面からいっても、派遣社員に福利厚生を提供することはできないのです。
待遇差を解消するための『配慮義務』が制定
とはいえ、同じ職場で働く者同士、一方が施設や設備を使えるのに、もう一方は使えないという状態がよいとはいえません。
正社員が毎日半額の負担で昼食をとることができるのに、派遣社員は全額出費せざるを得ない状態は不満の原因にもなります。
同じ仕事をしているにもかかわらず、待遇に差が出ることに対し、頭では理解できても、ほとんどの人は不快に感じるのではないでしょうか。
働くモチベーションも下がり、職場の雰囲気が悪くなる可能性もあります。
これでは会社にとってもよくありません。
これらの待遇差の問題がきっかけの一つとなり、2015年に『労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(以下、労働者派遣法)』が改正。
派遣社員に対する、福利厚生施設の利用に関わる『配慮義務』が制定されました(労働者派遣法第40条3項)。
これは、派遣社員が食堂や休憩室などの福利厚生施設を正社員と同じように利用できるよう配慮しなければならないというものです。
旧法では『努力義務』とされていましたが、『配慮義務』となったことで、たとえ福利厚生について、正社員と同じ待遇を与えられなかったとしても、何か別の形で待遇格差を埋めるように『配慮』しなければいけなくなりました。
たとえば、定員の関係で派遣社員の食堂利用を制限していたのであれば、正社員と派遣社員の食堂の利用時間をズラすなどの措置を取らなければいけませんし、正社員だけにロッカーがある場合は、派遣社員にもロッカーか、ロッカーの代わりになるものを用意するように配慮しなければなりません。
『強制』ではなく、『配慮』なので、違反しても罰則などはありませんが、待遇差が目にあまる場合は、行政指導が行われる可能性もあります。
また、現在はSNSなどからすぐに悪評が広まり、簡単に炎上する時代。
もし露骨な待遇差が明るみに出た場合、企業のイメージダウン、社会的評価の失墜は避けられません。
さらに、正社員と派遣社員間の待遇差から、差別が発生し、会社に対して派遣社員側から損害賠償請求が行われたケースもあります。
どちらにせよ、福利厚生利用での待遇差は、会社的にもよい結果をもたらしません。
派遣社員への配慮はもちろん、派遣元である派遣会社と協議を重ねるなどして、できるだけ待遇差を埋めていく必要があります。
一度、自社の派遣社員の待遇を見直してみてはいかがでしょうか。
※本記事の記載内容は、2019年8月現在の法令・情報等に基づいています。