社会保険労務士法人なか/労働保険事務組合福働会/福働会中部支部

2019年4月から有給取得義務化がスタート! 介護事業所への影響は!?

19.04.23
業種別【介護業】
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2018年の6月に成立した『働き方改革関連法』の順次施行が、いよいよ4月1日からスタートしました。
改正法は段階的な実施となりますが、今年度の実施のなかでは、何といっても『年間5日間の有給休暇取得義務化』が大きなポイントで、介護事業所にも大きな影響をもたらすことになりそうです。今回は、この『有給休暇取得義務化』の内容について詳しくご紹介します。
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“休みづらい”労働環境に一石を投じる新制度 

そもそも有給休暇制度とは、心身のリフレッシュを目的とした労働基準法の制度です。 
しかしながら日本では、諸外国と比べて有給休暇の取得率が極端に低いという現状があります。 
世界最大級の総合旅行サイト、エクスペディアが2018年末に実施した『世界19カ国 有給休暇・国際比較調査』によれば、日本の有給休暇取得率は3年連続で最下位となってしまいました。
日本人の労働を美徳とする価値観や、協調性を重んじる慣習などから、休みを取ることに周囲への遠慮や罪悪感を感じる人が多いためともいわれています。 

このことは、介護事業所でも例外ではありません。 
介護職員らの労働組合『日本介護クラフトユニオン』が組合員を対象に行った『2018年度就業意識実態調査』によると、月給制で働く組合員について、有給休暇が「なかなか取得できない」または「まったく取得できない」と回答した割合は、合計40.1%にも上りました。 
取得できない理由(複数回答)としては「人手不足」(64.4%)、「仕事量が多い」(40%)、「周囲の人に迷惑をかけるため」(27.3%)のほか、「ほかの人が取得しないから」(7.9%)や、「申請しても認めてもらえない」(3.3%)というものまであり、人手不足と休みづらい雰囲気の相乗効果で、有給休暇を十分に取れていない実態が報告されています。 

介護業は一般的に離職率が高い業界とされ、採用が困難な状況とあいまって、慢性的な人手不足を招いています。 
その理由の一つが、この有給休暇の取りづらさにあるといっても過言ではないでしょう。 


一部のパートタイマーも有給取得が義務化 

今回の有給休暇取得義務化については、年間10日以上の有給休暇が発生している労働者が対象となります。 
企業側は有給休暇の基準日(発生した日)から1年の間に、最低5日間の有給休暇を取得させなければなりません。
これに違反した場合、罰則(6カ月以下の懲役又は30万円以下の罰金)が適用されることになっており、強い法的拘束力がある改正です。 
とはいえ、しばらくの期間は、違反した場合であっても労働基準監督官が是正に向けて指導をし、改善を促すことになります。
そのため、罰則の適用は、それでもなお事業所が改善指導を受け入れなかった場合に限られると考えられています。 

また、介護事業所ではパートタイマーとして勤務している人も多くいます。
雇用状況によっては、パートタイマーも法改正の対象者となるため、注意が必要です。 
労働基準法では、パートタイマーなど所定労働日数が正社員に比べて短い人であっても、週5日勤務や週30時間勤務をしている人の場合、正社員と同様に勤続6カ月間で10日間の有給休暇が付与されることになるからです。 
また、週4日勤務の人は勤続3年6カ月経過後に10日間が、週3日勤務の人でも勤続5年6カ月経過後に同じく10日間が付与されるため、この場合も法改正の有給休暇取得義務の対象者となります。 
こういったことも含め、今回の改正により、介護事業所は大きな影響を受けると予想されます。 


働きやすい環境づくりが将来の人材確保に 

現実として、すべての事業所が今回の法改正と同時にスピーディーな対応をできるかといえば、それはむずかしいといわざるを得ません。 
深刻な人手不足に陥っている介護業界では、基準ぎりぎりの人員配置で切り盛りしている事業所が多く、正社員だけでなくパートタイマーにも同様に適用されることで、これまで以上に正社員の仕事の負担が増えることも考えられるからです。 
このような状況下では、有給休暇取得義務化の対応は困難で、はからずも法違反となってしまうケースも出てくるかもしれません。 
法改正に従って対象となる全スタッフに5日以上の有給休暇を取得させるには、人員の補充と共に、現在の仕事の内容を洗い出し、業務効率化や仕事の分散に向けての対策が必要となります。 

しかし、今回の法改正をきっかけに、介護現場の労働環境を改良、整備しておくことは、介護業界が若い人材にとって魅力あるものになるための、最も確実な投資ともいえます。 
単なる法改正となるか、介護業界の改革につながる政策となるのか。
今後の動向にも注目しながら、自身の事業所でできることをスタッフ間で話し合い、少しずつでも実践に移されてはいかがでしょうか。 


※本記事の記載内容は、2019年4月現在の法令・情報等に基づいています。 

出典:日本介護クラフトユニオン
『2018年度就業意識実態調査』
https://nccu.meclib.jp/2018shuugyouisiki/book/#target/page_no=11