“雇用主“ってどんな人?
近時、“労働者”の定義が問題になっていますが、他方で、“使用者“すなわち雇用主というのはどのような人なのでしょうか。
派遣社員を使っていたら、ある日、いきなり労働条件の改善を求めてきた。
この時、経営者としてはどのように対応するべきでしょうか。
今回はこの点についての裁判例を説明します。
派遣社員を使っていたら、ある日、いきなり労働条件の改善を求めてきた。
この時、経営者としてはどのように対応するべきでしょうか。
今回はこの点についての裁判例を説明します。
代表的な裁判例
【福岡高裁昭和58.6.7/「個別的労働関係における使用者」】
・事案の概要
Y社はA社に業務委託をしていた。A社に雇用されたXらは、テレビ放送業を営むY社に派遣されていた。
Xらは労働組合を結成し、A社に対して労働条件改善闘争を行っていたところ、その最中にAY間の契約は合意解約され、A社はXらを解雇した。
その後、Y社はB社に業務委託をしたところ、露頭に迷ったXらはB社にそのまま雇用するよう求めたが、断られてしまった。そこで、Xらは、いっそのことY社との関係で雇用契約関係があるといえれば、B社にわざわざ雇用してもらう必要もない等と考え、Xらの使用者はY社であるとして、従業員たる地位の確認請求訴訟を提起した。
Xらは、業務に必要な設備、機械、資材等につき、印刷業務用の器具類を除き、すべてY社から提供を受けていた。Y社からA社への業務委託料は、放送編成業務については一定額、印刷業務については基本単価に基づき出来高に応じて、毎月算出される額とされていた。XらはY社の担当職員から必要に応じて直接具体的指示を受け、ミスがあれば直接注意を受けることもあった。Xらは、Y社屋内のロッカー等の利用も許され、タイムレコーダーもY所有のものが使用された。
他方、出退勤管理とこれに基づく賃金計算はA社が行っていた。Xらの勤務時間・休日はA社の本社工場勤務の従業員とは別個に定められ、それらとの間で人事異動もなかった。XらはA社の包括的な監督の下に業務を処理し、人数、故障者などもAの責任において処理され、各人の作業種目や勤務割り等もA社の従業員グループで自主的に定められていた。
・判旨の概要
事実上使用従属関係が存在することは、当事者間に労働契約が成立していることを一応推認させるが、労働力獲得のため外注がされたときは、個々の労働者の労働力は何らかの意味で業務に関与する。そのため、当事者の意思を加味して労働契約関係にあるかを判断する。
労働契約は黙示の意思の合致により成立し得るため、
①派遣労働者のように外形上派遣先企業の正社員とほぼ同様の労務提供をして事実上の使用従属関係があり
②派遣元企業が企業として独自性なく、又は派遣先企業の代行機関と同視できる等その存在が形式的名目的なものに過ぎず、かつ
③派遣先企業が派遣労働者の賃金額その他の労働条件をも決定している
といえれば黙示の労働契約が締結されたといえる。
本件では、①XらとY社との間に使用従属関係が存在した。
しかし、②A社はY社から資本的人的に独立しており、実質上の契約主体としてXら・Y社と契約締結をしている。また、Xら従業員の採用、賃金その他の労働条件を決定し、「身分上の」監督を行っていた。したがって、形式的名目的とはいえない。
③加えて、Y社はA社が派遣労働者を採用する際に全く介入せず、かつA社に支払っていた業務委託料は、派遣労働者の人数、労働時間量にかかわらず一定額と約定されていた。したがって、Y社がXらの賃金額を実質上決定していたともいえない。
【結論】
よって、Y社とXらとの間に黙示の労働契約が締結されたとはいえない。
黙示の労働契約は意外と成立しません。
そのため、基本的には、派遣社員から労働条件の改善を求められてもこれに応じる必要はなく、派遣元と交渉するよう伝えればよいということになります。
なお、平成27年の派遣法改正により、派遣労働者間の賃金格差を是正するため、派遣元に求められた場合に派遣労働者に関する情報を提供する努力義務が規定されました。
また、同改正により、派遣元には同種の業務に就く派遣労働者の賃金水準の均衡をとる配慮義務が課されました。
このような理由により、派遣社員が労働条件の改善を求める先は、まずは派遣元であることも合わせて説明するとなお良いでしょう。
例外的に、ほとんど直接雇用といえる程度の関係がある場合には雇用関係が認められることがあります。
②の要件はさらに、
Ⅰ:派遣元と派遣先の同一性
Ⅱ:派遣先が派遣元の人事管理をしているか否か
Ⅲ:派遣先による派遣元労働者の賃金決定・支払の要素
に分解できます。
裁判所は、通常、特にⅠの要素を重視していると言われています。
当事者の意思が問題になることですが、意思に形はないので、外形的な事情から当事者の意思を推測する形で判断されます。
そのため、資本関係にある会社の派遣社員を使ったり、派遣会社に追加料金を支払って派遣社員に長時間の残業をさせたりすることは避けた方が無難でしょう。
企業成長のための人的資源熟考
【福岡高裁昭和58.6.7/「個別的労働関係における使用者」】
・事案の概要
Y社はA社に業務委託をしていた。A社に雇用されたXらは、テレビ放送業を営むY社に派遣されていた。
Xらは労働組合を結成し、A社に対して労働条件改善闘争を行っていたところ、その最中にAY間の契約は合意解約され、A社はXらを解雇した。
その後、Y社はB社に業務委託をしたところ、露頭に迷ったXらはB社にそのまま雇用するよう求めたが、断られてしまった。そこで、Xらは、いっそのことY社との関係で雇用契約関係があるといえれば、B社にわざわざ雇用してもらう必要もない等と考え、Xらの使用者はY社であるとして、従業員たる地位の確認請求訴訟を提起した。
Xらは、業務に必要な設備、機械、資材等につき、印刷業務用の器具類を除き、すべてY社から提供を受けていた。Y社からA社への業務委託料は、放送編成業務については一定額、印刷業務については基本単価に基づき出来高に応じて、毎月算出される額とされていた。XらはY社の担当職員から必要に応じて直接具体的指示を受け、ミスがあれば直接注意を受けることもあった。Xらは、Y社屋内のロッカー等の利用も許され、タイムレコーダーもY所有のものが使用された。
他方、出退勤管理とこれに基づく賃金計算はA社が行っていた。Xらの勤務時間・休日はA社の本社工場勤務の従業員とは別個に定められ、それらとの間で人事異動もなかった。XらはA社の包括的な監督の下に業務を処理し、人数、故障者などもAの責任において処理され、各人の作業種目や勤務割り等もA社の従業員グループで自主的に定められていた。
・判旨の概要
事実上使用従属関係が存在することは、当事者間に労働契約が成立していることを一応推認させるが、労働力獲得のため外注がされたときは、個々の労働者の労働力は何らかの意味で業務に関与する。そのため、当事者の意思を加味して労働契約関係にあるかを判断する。
労働契約は黙示の意思の合致により成立し得るため、
①派遣労働者のように外形上派遣先企業の正社員とほぼ同様の労務提供をして事実上の使用従属関係があり
②派遣元企業が企業として独自性なく、又は派遣先企業の代行機関と同視できる等その存在が形式的名目的なものに過ぎず、かつ
③派遣先企業が派遣労働者の賃金額その他の労働条件をも決定している
といえれば黙示の労働契約が締結されたといえる。
本件では、①XらとY社との間に使用従属関係が存在した。
しかし、②A社はY社から資本的人的に独立しており、実質上の契約主体としてXら・Y社と契約締結をしている。また、Xら従業員の採用、賃金その他の労働条件を決定し、「身分上の」監督を行っていた。したがって、形式的名目的とはいえない。
③加えて、Y社はA社が派遣労働者を採用する際に全く介入せず、かつA社に支払っていた業務委託料は、派遣労働者の人数、労働時間量にかかわらず一定額と約定されていた。したがって、Y社がXらの賃金額を実質上決定していたともいえない。
【結論】
よって、Y社とXらとの間に黙示の労働契約が締結されたとはいえない。
黙示の労働契約は意外と成立しません。
そのため、基本的には、派遣社員から労働条件の改善を求められてもこれに応じる必要はなく、派遣元と交渉するよう伝えればよいということになります。
なお、平成27年の派遣法改正により、派遣労働者間の賃金格差を是正するため、派遣元に求められた場合に派遣労働者に関する情報を提供する努力義務が規定されました。
また、同改正により、派遣元には同種の業務に就く派遣労働者の賃金水準の均衡をとる配慮義務が課されました。
このような理由により、派遣社員が労働条件の改善を求める先は、まずは派遣元であることも合わせて説明するとなお良いでしょう。
例外的に、ほとんど直接雇用といえる程度の関係がある場合には雇用関係が認められることがあります。
②の要件はさらに、
Ⅰ:派遣元と派遣先の同一性
Ⅱ:派遣先が派遣元の人事管理をしているか否か
Ⅲ:派遣先による派遣元労働者の賃金決定・支払の要素
に分解できます。
裁判所は、通常、特にⅠの要素を重視していると言われています。
当事者の意思が問題になることですが、意思に形はないので、外形的な事情から当事者の意思を推測する形で判断されます。
そのため、資本関係にある会社の派遣社員を使ったり、派遣会社に追加料金を支払って派遣社員に長時間の残業をさせたりすることは避けた方が無難でしょう。
企業成長のための人的資源熟考