社会保険労務士法人なか/労働保険事務組合福働会/福働会中部支部

中小企業とは何が違う? 新たな分類『中堅企業』の狙いとは

25.02.11
ビジネス【税務・会計】
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2023年11月7日に経済産業省は、常時使用する従業員の数が2,000人以下の企業を「中堅企業者」と定義する方針であることを発表しました。
日本の企業は従業員数や資本金などの規模によって分類されており、中堅企業は中小企業と大企業の中間に位置します。
企業の分類によって適用される制度や使える補助金などが異なるため、事業者は自社の分類を把握しておかなければいけません。
では、なぜ中堅企業という分類が新設されたのでしょうか。
企業の分類に関する基準と、中堅企業を新たに設けた経済産業省の狙いについて解説します。

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法律や制度によって企業の分類が異なる?

日本において、企業は主に大企業と中小企業に分類されますが、その定義は法律や制度によってバラバラです。
中小企業に関する施策を定める「中小企業基本法」では、中小企業と一口にいっても業種と規模によって分類が異なります。
たとえば製造業は「資本金の額もしくは出資の総額が3億円以下の会社、または常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人」が中小企業となりますが、サービス業の場合は「資本金の額もしくは出資の総額が5,000万円以下の会社、または常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人」が中小企業に該当します。
ただし、大企業が出資する割合が高いなど、大企業と密接な関係がある中小企業は「みなし大企業」とみなされ、多くの補助金や助成金において要件を満たしていても、対象から外れる場合があります。


また、同法では、製造業などで従業員20人以下、商業・サービス業で従業員5人以下の場合に小規模企業者として定義されています。
日本の企業の99%以上が中小企業基本法における中小企業や小規模企業者に該当し、この定義に当てはまらない企業が大企業ということになります。


一方、特例制度などの適用を定める「法人税法」では、「資本金の額もしくは出資の総額が1億円以下の会社」を「中小法人等」と規定しています。
また、「会社法」では中小企業の定義は明示されていないものの、大企業に関しては「資本金5億円以上または負債総額200億円以上の株式会社」と定義されています。


ほかにも、統計調査の際には独自の基準が設けられることが多く、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」では、企業規模によって、常用労働者1,000人以上を「大企業」、100~999人を「中企業」、10~99人を「小企業」に分類しています。

中堅企業が受けられる優遇措置

企業の分類は、税制上の優遇措置や補助金、融資などによって、中小企業を支援することが目的であることも少なくありません。
しかし、中小企業とほぼ変わらない事業規模であるにもかかわらず、既存の基準では大企業に分類されてしまう企業は、中小企業向けのゼロゼロ融資をはじめ、さまざまな優遇措置が受けられないなど、制度上の「空白地帯」ができてしまうことが問題になっていました。


そこで、経済産業省では、こうした空白地帯をカバーし、大企業と同列に扱われていた企業の課題に応じた措置を講じるため、改正された「産業競争力強化法」において、中小企業を除く常時使用する従業員の数が2,000人以下の企業を「中堅企業者」と定義しました。


産業競争力強化法とは、日本の産業を持続的に発展させ、競争力の強化に関する施策を総合的に進めるための法律で、事業再編やイノベーションの促進、情報技術の管理などと共に、中堅企業の成長支援が盛り込まれています。


中堅企業は中小企業から脱却し、経営の高度化や商圏の拡大、事業の多角化といったビジネスの発展が見られる段階の企業群であり、日本の経済的な成長には欠かせない存在です。
また、大企業や中小企業よりも成長する速度が早く、給与額や従業員数の伸び率も高いというデータもあります。
一方で、諸外国と比較しても日本では中堅企業から大企業に成長する企業は少なく、競争力が不足しているという課題がありました。
こうした課題を解消するために、改正産業競争力強化法では、中堅企業に向けた税制優遇措置などを設けています。


たとえば、賃上げや人材育成への投資を積極的に行う企業に対し、給与増額分の一定割合を控除する「賃上げ促進税制」では、大企業の場合は7%以上の賃上げで法人税が最大で35%税額控除の対象になりますが、中堅企業では3%以上の賃上げで最大で20%の税額控除、4%以上で最大で35%が税額控除の対象となります。
ただし、適用年度の法人税額の20%が控除上限となっております。


ほかにも、リスクのある投資を行なった中堅企業を「特定中堅企業者」とし、設備投資やM&Aを促進する税制措置、金融支援措置などが設けられました。


現在、中堅企業に該当する企業は約9,000社です。
税制優遇措置など以外にも、中堅企業になることで補助金の上限額が変わるケースなどもあるため、中小企業は中堅企業への成長を目指してみてはいかがでしょうか。



※本記事の記載内容は、2025年2月現在の法令・情報等に基づいています。