『労務費価格転嫁』を実現させる価格交渉のポイント
企業の収益改善や賃上げのためには、取引の適正化が必要不可欠です。
製品やサービスを提供するためにかかった原材料費やエネルギーコスト、労務費などは、正しく価格に反映させなければいけません。
しかし、内閣官房と公正取引委員会の調査によれば、特に労務費の取引価格への転嫁が進んでいないことがわかりました。
労務費の価格転嫁を実現するためには、発注者に対して価格交渉を行う必要があります。
今回は受注者側の事業者に向け、価格交渉を行ううえで知っておきたいポイントを説明します。
相談窓口の活用と根拠となる資料の準備
労務費とは、人件費のなかで製品を生産するためにかかった費用を指します。
取引価格における労務費の転嫁が進んでいないことを受け、内閣官房と公正取引委員会は2023年11月に「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」を公表しました。
原材料費やエネルギーコストに比べて、労務費は取引価格に転嫁しづらく、労務費が上昇しても簡単にはその分を反映できない状況となっています。
労務費の上昇分は受注者の努力によって解決する問題だという発注者側の意識も根強く、また今後の取引に悪影響を及ぼしかねないと、取引価格への転嫁に消極的な受注者も少なくありません。
この指針では、発注者と受注者の双方の立場から、適正な労務費の価格転嫁を実現するために採るべき行動指針を示しています。
たとえば、発注者側には価格転嫁を受け入れるための経営トップの関与や定期的な協議の実施、サプライチェーン全体での適切な価格転嫁などを求めています。
一方、受注者側に対しても、「相談窓口の活用」や「根拠として公表資料を用いる」といった円滑な交渉を行うために採るべき行動指針が示してあります。
「相談窓口」とは、国や地方公共団体、中小企業の支援機関などの相談窓口のことを指します。
たとえば、中小企業庁では適正な価格転嫁ができる環境を整備するため、47都道府県に設置している「よろず支援拠点」に「価格転嫁サポート窓口」を設置しています。
価格転嫁のための交渉を行うには、製品やサービスの原価を把握する必要があります。
各相談窓口では、価格交渉に関する基礎的な知識をはじめ、原価計算のアドバイスなどを受けることもできます。
「根拠となる資料」は、発注者との交渉に必要不可欠なものです。
労務費の上昇によって価格の改定が必要な場合は、最低賃金の上昇率や春季労使交渉の妥結額、その上昇率などの公表資料を交渉に使用しましょう。
原材料費やエネルギーコストの上昇が価格転嫁の理由になる場合は、価格変動データなどが資料として活用できます。
価格交渉を行うタイミングと額の提示
ほかにも、指針では受注者に対して、「値上げ要請のタイミング」や「希望する額の提示」といった行動指針が示されました。
受注者が発注者に値上げを要請する際は、タイミングを図る必要があります。
指針では、「業界の慣行に応じて1年に1回や半年に1回などの定期的に行われる発注者との価格交渉のタイミング」や「業界の定期的な価格交渉の時期など受注者が価格交渉を申し出やすいタイミング」、「発注者の業務の繁忙期など受注者の交渉力が比較的優位なタイミング」などの機会に、値上げを要請するよう提案しています。
希望する額の提示は、受注者側から積極的に行なったほうがよいケースもあります。
交渉するうえで発注者が提示する額が受注者にとって希望の額になるとは限りません。
一度、発注者から額を提示されてしまうと、その額以上の価格を要請することはむずかしくなってしまいます。
指針では、受注者側から提示する場合は、自社の労務費だけでなく、発注者やその先の取引先における労務費も考慮するように求めています。
価格交渉は受注者と発注者の双方にとって、利害の対立を生む問題になりがちです。
労務費の価格転嫁を行うためには思い切って交渉をすることが大切ですが、いきなり値上げを要請すると取引先である発注者を困惑させることにもなりかねません。
日常的にコミュニケーションを取り、労務費の上昇に関して情報共有を行うなど、普段から自社の状況を理解してもらうことも重要です。
※本記事の記載内容は、2025年1月現在の法令・情報等に基づいています。