医療従事者の『バーンアウト(燃え尽き症候群)』とは?
医師をはじめとした医療従事者は、日頃から患者と向き合いながら、膨大な量の業務にあたっています。
しかし、熱量を持って仕事に取り組んできた人ほど、ストレスによって仕事への意欲やモチベーションを失う『バーンアウト』に陥ってしまう可能性が高くなる傾向にあります。
バーンアウトは日本語で『燃え尽き症候群』とも訳される状態で、多くの医療従事者がバーンアウトになった経験を持っているといわれています。
今回は、医療従事者のバーンアウトを防ぐために必要な基礎知識や症状などについて説明します。
周囲の人のバーンアウトに気づくためには?
「バーンアウト」は1974年にアメリカの心理学者であるフロイデンバーガーが提唱した概念で、仕事に対する意欲や関心を失った状態を表現する言葉として、もともとはドラッグの常用者が陥る無感動や無気力の状態を表す俗語であったこの言葉を用いました。
日本語訳である「燃え尽き症候群」は熱心に競技に取り組んできたアスリートが陥るものというイメージがありますが、実はアスリート以外にも、医療従事者や介護職、教職など、多くの人と関わる対面業務に従事する人が陥りやすいといわれています。
2018年に公表された国際疾病分類の最新版である「ICD-11」に、新たにバーンアウトの定義が記載されました。
ただし、ICD-11ではバーンアウトを疾病には分類していません。
バーンアウトは「適切に管理されていない慢性的な職場ストレスに起因する症候群」であり、うつ病や適応障害などの健康状態の悪化につながる要因の一つだとしています。
では、バーンアウトになると、人はどのような状態になるのでしょうか。
バーンアウトの症状や特徴は3つの観点からとらえられ、それぞれの具体的な状態を知っておくことが、周囲の人のバーンアウトに気づくきっかけにもなります。
1つ目の症状は「情緒的消耗感」といい、仕事に力を出し尽くして、消耗してしまった状態を指します。
たとえば、周囲に「仕事を辞めたい」「仕事がつまらない」といったことを漏らしている人がいたら注意しましょう。
仕事に対してゆとりや余裕がなくなっている人は、情緒的消耗感を抱いている可能性があります。
2つ目の症状は「脱人格化」といい、患者をはじめとする周囲の人に無関心になっていたり、思いやりがなくなっていたりする人が当てはまります。
脱人格化は自分を守る防衛反応の一つで、患者に対して定型的な応答や攻撃的な言動が増えてきたら注意する必要があります。
3つ目の症状は「個人的達成感の低下」といい、仕事への有能感や達成感が低下した状態を指します。
「この仕事に向いていない」「自分には能力がない」といったことをこぼしている人は個人的達成感が低下している状態といえます。
これら3つの症状や特徴は「Maslach Burnout Inventory(MBI)」と呼ばれるバーンアウトの評価法で用いられる尺度であり、2016年にアメリカの神経学会が行なったアンケート調査では、半数以上の脳神経内科医が情緒的消耗感に当てはまり、脱人格化は4割以上、個人的達成感の低下は2割以上の医師が該当しました。
職場ストレスの解消がバーンアウトの予防策
バーンアウトが職場ストレスに起因するのであれば、当然ながら、医療従事者に職場ストレスを与えないことがバーンアウトの予防策になります。
医療従事者が抱える職場ストレスの要因としては、主に長時間労働や過重労働などがあげられます。
加えて、職場での人間関係や患者の対応などで心身をすり減らしていき、それらが積み重なることで、バーンアウトになってしまうと考えられます。
こうしたリスクは個人で回避することがむずかしく、組織として予防策に取り組んでいかなければいけません。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大期には、業務負担が増したことにより、バーンアウトになった医療従事者が急増したといわれています。
COVID-19専門病院ではバーンアウトのリスクが極めて高くなったという調査結果もありました。
2024年4月からは医師の働き方改革の一環として、勤務医にも時間外労働の上限規制が適用され、原則として勤務医の時間外・休日労働時間は年960時間が上限となりました。
今後も労務管理の徹底や労働時間の短縮などによって、医療従事者の健康を確保し、誰もがバーンアウトにならない体制の整備が各医療機関に求められます。
※本記事の記載内容は、2024年11月現在の法令・情報等に基づいています。