社会保険労務士法人なか/労働保険事務組合福働会/福働会中部支部

患者と医療従事者を守る『感染対策』、歯科医院の滅菌とは?

24.11.05
業種別【歯科医業】
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歯科治療の最中に患者の唾液や血液が医療器具やユニットに付着すると、院内感染のリスクが高まります。
患者や医療従事者を守るためにも、感染対策は徹底して行わなければいけません。
しかし、感染対策の程度は個々のクリニックの方針に左右されます。
最新の滅菌器を導入している医院もあれば、いまだに医療器具の消毒をアルコールや流水だけで済ませている医院も存在するといわれています。
院内感染を防ぐために知っておきたい、効果的な感染対策について解説します。

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かつて問題になったハンドピースの使い回し

2012年に厚生労働省研究班によって行われた調査では、使用済みのハンドピース(回転切削器具)を患者ごとに交換している歯科医療機関はわずか3割ほどでした。
5年後に行われた2017年の同じ調査では、2割以上改善したものの、依然としておよそ半数の歯科医療機関がハンドピースを患者ごとに滅菌していないことがわかりました。
一連の「ハンドピースの使い回し」は、新聞や週刊誌などでも報じられ、大きな問題となりました。
ほかにもドリルの刃などについても、多くの歯科医療機関で滅菌処理が不十分だったことがわかっています。

患者の口の中に入れる医療器具は唾液や血液が付着する可能性があり、もし患者のなかに細菌やウイルスの保有者がいれば、滅菌していない医療器具を使い回すことによってほかの患者に細菌やウイルスを感染させてしまうおそれがあります。

近年は、念入りな感染対策を講じている歯科医院も増えていますが、それでも一部の医院ではハンドピースをアルコール消毒や水で洗い流すといった処理だけで済ませているところもあるようです。
今では、ほとんどの歯科医師が使い捨てのゴム手袋を着用して診療にあたりますが、2017年の調査では患者ごとに手袋を交換しているのは約半数の歯科医師のみでした。
大きく減少しているとはいえ、こうした当時の感覚のまま治療を行う歯科医院は、まだなくなってはいません。

もちろん感染対策が不十分だからといって、ただちに院内感染が起こるものではありませんが、対策を講じないままだと患者や自分を含めた医療従事者を常に危険にさらすことになります。
厚生労働省は2017年に、歯科医院の感染対策として、使用したハンドピースは患者ごとに交換し、器具をオートクレーブ(高圧蒸気滅菌器)で滅菌するように強く推奨する通知を発出しています。

クラスBのオートクレーブ導入のメリット

歯科治療に欠かせないオートクレーブは、内部を水蒸気で満たし、高温・高圧下で滅菌する滅菌器で、滅菌力によって「クラスN」「クラスS」「クラスB」の3つに区分されています。
日本で広く普及しているクラスNのオートクレーブは、標準的な滅菌器で、包装がされていない固形器具の滅菌を行うことができます。
このクラスNよりも高い滅菌力を持つのが、口腔外バキュームやハンドピースも滅菌できるクラスS、そして、すべての診療器具を滅菌できるクラスBです。

歯科医療先進国のドイツでは、約80%もの医療機関で導入されているクラスBのオートクレーブですが、高価でランニングコストもかかるため、日本での普及率は2~3%ほどともいわれています。
ただし、クラスBのオートクレーブであれば、複雑な形状の器具も滅菌が可能で、より高いクオリティで感染対策を講じることができます。

オートクレーブによる高温や高圧の減菌に耐えられない医療器具については、ガス滅菌器という選択肢もあります。
ガス滅菌器はオートクレーブよりも医療器具の滅菌に時間がかかりますが、素材の変質を起こしづらいというメリットがあります。
歯科医院のなかにはオートクレーブとガス滅菌器、さらに超音波洗浄器や薬液滅菌などを併用して、ハイレベルな滅菌を行なっているところもあります。

そのほか、オートクレーブを使用するまでのオペレーションも重要です。
一般的には、オートクレーブやガス滅菌器で滅菌する前に、手洗い洗浄や超音波洗浄、パッキングといったフローを辿りますが、早めの洗浄を行うことで99%の物理的な除菌ができるといわれています。
基本的なことですが、正しい手順で洗浄を行うことで、よりオートクレーブやガス滅菌器の効果が発揮されます。

滅菌とは「菌やウイルスを限りなくゼロに近づける」という意味があり、殺菌や除菌よりも強い作用のことを指します。
しっかりと減菌を行うことはクリニックのPRになりますし、患者の安心にもつながります。
院内感染を防ぐためにも、効果のある滅菌を行なっていきましょう。


※本記事の記載内容は、2024年11月現在の法令・情報等に基づいています。