行政処分に納得がいかない!?『行政不服審査制度』の審査請求とは
国や地方公共団体は、日々さまざまな「処分」を行なっています。
「処分」というと、法令違反に対してのペナルティが思い浮かびますが、たとえば店を開業するための営業許可や納税額の決定、建築確認や労災保険の認定なども処分に含まれます。
行政が国民に義務を課したり、権利を付与したりする行為が処分だといえます。
この処分に納得がいかない場合は、国や地方公共団体に対して、『行政不服審査制度』により、不服申立てをすることができます。
処分に納得できない場合に使える、行政不服審査制度について把握しておきましょう。
新しくなった『行政不服審査制度』
国や地方公共団体などの行政による処分は法令に基づいて行われますが、この法令の解釈や適用を巡って、行政側と処分を受けた国民側とで、認識に齟齬が生じることがあります。
たとえば、きちんと確定申告をしたはずなのに税金の徴収額に反映されていない、職場で労働災害に該当する事故が起きたのに労災認定がされなかった、要件を満たしたうえで営業許可の申請をしたのに不許可になってしまったなど、処分に納得できないケースはさまざまです。
時には、不当や違法な処分だと感じることもあるでしょう。
そうした場合に、国や地方公共団体に対して不服申立てを行えるのが『行政不服審査制度』です。
行政不服審査法に基づく行政不服審査制度は1962年に制定され、2014年の改正を経て、より公平で使いやすい制度となりました。
処分について納得できない場合は、裁判所に訴える「行政訴訟」という方法もありますが、裁判費用は原告が負担することになり、また、法廷で行われる審理は一般に公開されてしまいます。
手続きも複雑で、裁判所に足を運ばなければならないなどの手間もかかります。
一方、行政不服審査制度による不服申立てであれば、行政側で審理を行うため、費用はかからず、審理が公開されることもありません。
不服申立ては行政への審査請求などにより書面で行うことができ、大きな手間もかかりません。
平均して、裁判よりも短い期間で結論を出すことが可能です。
2019年度の審査請求の処理期間をみると、請求の対象が地方公共団体であれば70%以上、国なら80%以上が1年以内に採決されています。
不服申立ての件数も年々増えており、2016年における新規の不服申立件数は国が23,574件、地方公共団体が11,233件だったのに対し、2019年には国が31,715件、地方公共団体が14,527件にまで増加しています。
審査請求の具体的な方法と裁決の種類
行政不服審査制度による不服申立てには、再調査の請求や再審査請求といった方法もありますが、基本的には「審査請求」という方法で行います。
審査請求が行えるのは、処分を受けた人と、第三者の処分によって権利の侵害を受ける人、そして、「不作為」の場合に申請を行なった人です。
不作為とは、行政に対して申請を行なったのに、許可や不許可のどちらの判断もされていない状況のことを指します。
条件に該当する人が審査請求を行うには、まず処分を受けたことを知った日から原則3カ月以内に、審査請求書や処分通知書の写しなどの必要書類を用意して、審査庁に提出します。
処分を受けた日から1年が経過してしまうと、処分があったことを知らなかったとしても、正当な理由がない限り審査請求は行えなくなるので注意してください。
審査請求の申立先は、原則として処分を行なった国や地方公共団体の機関の最上級行政庁である、都道府県知事市区町村長などが該当します。
この処分を行なった機関を「処分庁」、申立先となる、処分を行なった機関の最上級行政庁のことを「審査庁」と呼びます。
審査請求書が受理されると、審査庁の職員などから指名された審理員が審理手続きを行います。
審理員は、該当の処分に関係していない者が選ばれ、審査請求をした人や処分庁から提出された主張や証拠に基づき、審理を行います。
そして、審査庁は審理員や第三者機関の意見を踏まえ、処分の妥当性を判断し採決します。
裁決には「却下」「棄却」「認容」の3つの種類があります。
そもそも審査請求の要件を満たしていない、違法でない場合は「却下」となります。
もし、処分庁の処分に不当や違法な点がない場合は「棄却」となり、審査請求が退けられた形となります。
逆に、処分庁の処分に不当や違法な点がある場合は「認容」となり、審査請求をした人の訴えが認められた形となります。
ただし、処分庁の処分に不当や違法な点があっても、処分を取り消すことで公共の利益が損なわれる場合は、その処分が不当であることを宣言したうえで、審査庁は「棄却」にすることができます。
審査請求をした人が、この裁決に納得できない場合は、裁判に訴えることができます。
行政不服審査制度の審査請求は、裁判に比べるとむずかしい手続きではありませんが、法令に詳しくないと処分が妥当かどうか判断することはむずかしいでしょう。
処分を不当だと感じたら、まずはその分野に詳しい専門家に相談することをおすすめします。
※本記事の記載内容は、2024年10月現在の法令・情報等に基づいています。