室温は何度が適切? 新しくなった職場の『労働衛生基準』を確認
職場環境は従業員の働きやすさに直結するものであり、快適に働けるように整備することは事業者の責務でもあります。
オフィスの温度やトイレの数、従業員が作業する際の手元の明るさなどは、労働安全衛生法に基づく労働衛生基準によって定められており、2021年の法改正によって、これらの基準の一部が見直されました。
もし、自社の職場が基準に適応していない場合は、労働安全衛生法違反となる可能性があるため、速やかに改善しなければいけません。
従来の基準から変わった点や、事業者が気を配らなければいけないポイントなどについて説明します。
職場環境整備のため事務所則と安衛則が改正
職場環境についてのさまざまな基準を定めた労働衛生基準は、社会状況や働き方の変化などによって、これまで改正が繰り返されてきました。
2021年12月1日にも働きやすい環境整備への関心の高まりなどを受け、労働安全衛生法に基づく「事務所衛生基準規則及び労働安全衛生規則の一部を改正する省令」が公布され、一部を除き同日より施行されました。
『事務所衛生基準規則(事務所則)』とは、事務作業などを行う事務所についての衛生基準を定めた規則で、『労働安全衛生規則(安衛則)』は工場や建設現場なども含めたすべての事業場の衛生基準を定めた規則です。
改正によって衛生基準の見直しが行われた主な項目は『温度』『照度』『トイレ』『休養室・休養所』です。
それぞれ確認していきましょう。
まず温度について、これまでは空調設備がある事務所の室温は「17度以上28度以下」になるように努めなければいけませんでしたが、今回の改正によってこの努力目標値が「18度以上28度以下」に見直されました。
人は気温が低いと血圧が上昇しやすくなります。
WHO(世界保健機関)は高齢者への血圧上昇の影響を考慮して、室温のガイドラインにて低温側の基準を18度としており、改正はこれに倣ったかたちとなります。
また、冬場はもちろんですが、熱中症の危険がある夏場も事務所の室温には気を配らなければいけません。
注意したいのは、努力目標値はあくまで室温について定めた温度であり、エアコンなどの設定温度ではないということです。
夏場はエアコンの温度を28度に設定していても、室温が28度以下にまで下がらないことがあります。
温湿度計を設置するなどして適時、室温を計測しながら、換気や温度調整などを行うようにしましょう。
ちなみに、建築現場などの多量の発汗を伴う作業場では、塩や飲料水を備えるように衛生基準で定められていますが、塩については、塩飴や塩タブレットなどのほか、スポーツドリンクなどの飲料水に含まれる塩分も該当することが、今回の改正で明示されました。
照度やトイレの基準も見直しが行われた
改正によって事務所における照度の基準にも変更がありました。
照度とは、光が当たる面の光量を示す単位のことで、ルクスで表します。
これまでは、作業の内容ごとに3つの区分で照度基準が決められていましたが、改正後は2つの区分となり、読み書きが必要な「一般的な事務作業」については300ルクス以上、資料の袋詰めなど、事務作業のうち、文字を読み込んだり資料を細かく識別したりする必要のない「付随的な事務作業」については150ルクス以上と定められました。
照度が不足すると眼精疲労が生じやすくなりますし、前かがみになるといった不自然な姿勢を取り続けることにもなり、健康障害が生じやすくなります。
特に高齢の労働者が増えている昨今では、健康を守る観点からも適切な照度を保つことが重要になります。
トイレに関しては、改正によって「独立個室型の便所」が法令で定義されました。
独立個室型とは、隙間なく四方を壁で囲われていて内側から施錠できるトイレのことです。
衛生基準では原則として、男性用と女性用のトイレの設置を義務づけていますが、たとえば集合住宅の一室などをオフィスとしている場合などは、トイレが一つしかないこともあります。
改正では、こうしたケースに対応するために、同時に就業する労働者が常時10人以内の事業所においては、男性用と女性用に区別しなくても、例外として独立個室型の便所があれば、基準を満たしていることとしました。
ただし、男女共用のトイレは風紀上の問題や従業員の心理的な負荷が発生する可能性があるため、あらかじめ使用についてのルールを決めておくようにしましょう。
休養室・休養所に関しては、常時50人以上または常時女性30人以上の労働者を使用する事業者に限り、男性用と女性用に区別して設ける必要があります。
専用の設備である必要はなく、ベッドや布団など、体調不良の従業員が一時的に横になって休める機能が備わっていれば、オフィスの空いている部屋などでも問題ありません。
ほかにも、更衣室やシャワー設備、一酸化炭素・二酸化炭素の測定、救急用具などについての基準が見直されています。
厚生労働省のホームページなどを参考にしながら、事業者や衛生管理の担当者は、衛生基準が守れているかどうかを確認しておきましょう。
※本記事の記載内容は、2024年10月現在の法令・情報等に基づいています。