会社の備品を転売したら犯罪!? 防止策を考える
会社の備品と一口に言っても、文房具といった安価なものから、業務端末や社用車といった高価なものまでさまざまです。
これらの備品の所有権は会社にあり、備品の転売や私的利用は懲戒処分の対象となりうるだけでなく、業務上横領罪や窃盗罪といった犯罪に該当する可能性もあります。
今回は、具体例を交えながら、会社の貸与品や備品の不正利用について解説します。
従業員が備品を転売してしまったら……?
会社の備品は会社が費用を負担して購入しているため、会社の資産であり、会社に所有権があります。
会社がオフィスなどに用意している備品はもちろん、従業員が自分で買った文房具などでも経費として精算した場合は、会社支給の文房具と同様に会社の所有物とみなされます。
従業員はあくまで業務に必要な範囲で、備品の使用を許されているに過ぎません。
そのため、従業員が会社の備品を転売した場合、状況に応じて、(1)業務上横領罪、もしくは(2)窃盗罪に問われる可能性があります。
それぞれのケースに該当する例と量刑は以下の通りです。
(1)業務上横領罪
業務上横領罪は「業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の懲役に処する」(刑法253条)と定められています。
たとえば、業務上の必要から、会社が所有する備品を管理している立場の従業員が、その立場を利用して備品を転売した場合には業務上横領罪が適用されます。
具体的には、会社から貸与されているパソコンやスマートフォンといった業務端末を、転売するといったケースが該当します。
そのほか、店舗の備品を管理する立場の店長がそれらを転売する、業務で制作したノベルティグッズを担当者が勝手に社外に持ち出すといったケースも、業務上横領罪に該当すると考えられます。
(2)窃盗罪
窃盗罪は、「会社が所有する備品を勝手に自分の物にしてしまう」といった点では業務上横領罪と同じですが、備品の占有権が従業員にない場合に適用されます。
上記の例でいうと、同じ業務端末の転売であっても、ほかの従業員が会社から貸与されている業務端末を転売した場合は業務上横領罪ではなく、窃盗罪に該当します。
また、オフィスにある書籍や文房具、トイレットペーパーなどを従業員が勝手に持ち帰った場合も、備品を管理する立場ではない従業員には窃盗罪が適用され、10年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます(刑法235条)。
業務上横領罪と窃盗罪のいずれが適用されるかは、転売した人の業務内容によって変わります。
いずれにしても会社の備品を勝手に転売する行為は犯罪にあたります。
とりわけ、備品が高価な場合や継続的に転売している場合は悪質性が高いと判断され、懲戒解雇などの処分が検討されます。
そのほか、刑事罰で下される罰金とは別に、会社から当該の従業員に対して、民事上の責任として損害賠償請求がなされる可能性もあります。
業務端末の私的利用は懲戒処分の対象?
前述した通り、会社が従業員に貸与したパソコンなどの業務端末の所有権は、従業員ではなく会社にあります。
業務端末の利用方法などは所有者である会社が定め、従業員はそれに従う必要があります。
また、従業員には職務専念義務というものがあり、就業時間中は業務に集中しなくてはいけません。
そのため、業務端末の使用有無に限らず、業務と関係のないウェブサイトの閲覧や私用連絡は、職務専念義務違反とみなされ、懲戒処分の対象となる場合があります。
実際、こういった行為については、多くの会社が就業規則で懲戒事由として定めています。
しかし、その一方で従業員にも生活があり、家族の急病や子供の送り迎えについての連絡など、緊急で対応しなければいけない事態が、就業時間中に発生する可能性は十分にありえます。
就業時間中であっても、社会生活を送るにあたって必要な私用連絡は、常識の範囲内であれば許容されるという見方が主流です。
こうした場合は、就業規則に定めがある場合であっても、基本的には懲戒処分の対象になることはレアケースだと考えられます。
ただし、私用連絡の頻度や回数が、社会通念上相当な範囲を逸脱している場合は話が別です。
過去には、専門学校の教師が職場のパソコンを使用し、出会い系サイトなどで5年間に約1,600通のメールを送受信していたことをきっかけに懲戒解雇された例があります。
この事例では、私用連絡の頻度・回数・時間に加えて、業務に与えた影響や利用目的、過去の注意・指導履歴なども踏まえて、総合的に懲戒解雇の処分が妥当であるとの判断が下されました。
業務端末で私用連絡をしたからといって、必ずしも懲戒処分が下されるわけではありませんが、行為が悪質であると判断された場合はその限りではありません。
就業時間中の私用連絡は常識の範囲内に留めましょう。
インターネットが普及し、パソコンやスマートフォンなどの業務端末の支給が当たり前になった現代社会では、業務端末の取り扱いについて会社と従業員の双方が理解することが重要になっています。
会社としては、就業規則やルールの周知を徹底することはもちろん、従業員への研修実施や不正行為の管理体制強化を通じて、不正行為が起こりにくい環境作りに取り組むことが大切です。
※本記事の記載内容は、2024年8月現在の法令・情報等に基づいています。