延滞金や差押えの可能性も! 社会保険料を滞納するリスクとは
すべての法人と、常時5人以上の従業員を雇用している個人事業主は、原則、社会保険への加入義務があります。
社会保険とは、厚生年金保険や健康保険などの総称で、この保険料を事業者と従業員(被保険者)の双方が負担することになります。
社会保険料は、所得税や法人税のように赤字であれば免除されるというものではなく、加入している限り必ず毎月納めなければいけません。
もし、社会保険料の納付を滞納してしまうと、延滞金の加算や財産の差押えなどが行われます。
経営者や会計担当者に向けて、社会保険料を滞納するリスクを説明します。
社会保険料の滞納が原因の倒産が増加
国や自治体に納める社会保険料や税金などのことを『公租公課』といいますが、2023年度はこの公租公課の滞納を原因とした企業の倒産が138件と、過去最多を記録しました。
公租公課のなかでも、特に毎月必ず納める必要のある社会保険料の滞納によって、倒産を余儀なくされた企業が相次いでいます。
コロナ禍で猶予されていた社会保険料の徴収が本格化したことに加え、円安や物価高などの影響もあり、猶予期間中に業績を立て直すことができず、そのまま倒産してしまうというケースが少なくありません。
日本年金機構によれば、厚生年金などの保険料の滞納によって財産を差し押さえた事業所の数は、2023年度の上半期(4月~9月)時点で約2万6,300社と、前年度の1年分に相当する数だったことがわかっています。
ただし、社会保険料を滞納したからといって、すぐに財産が差し押さえられるわけではありません。
差押えを受けるまでには、いくつかのステップがあるので確認しておきましょう。
まず、社会保険料が未納の場合は、納付期限を過ぎてから1週間ほどで年金事務所などから督促状と納付書が届きます。
もしくは、電話や訪問などによって、納付の催促を受けることもあります。
この時点で、督促状で指定されている期限(指定期限)までに保険料を納めれば、延滞金は発生しません。
しかし、指定期限を過ぎてから納付すると、延滞金が発生するので注意が必要です。
延滞金の額は、『納付期限の翌日』から実際に納付した日の前日までの日数に応じ、一定の割合を乗じて求められます。
指定期限の翌日ではないことに注意が必要です。
また、延滞金の額を求めるための割合は都度変更されるので、日本年金機構のホームページをチェックしておきましょう。
財務調査や強制捜査を経て差押えを実施
督促を受けても社会保険料を納付しないままだと、財務調査が行われます。
財務調査は、事業者の所有している現金や預貯金、不動産や売掛金などの財産を把握するためのもので、差押えの前段階のようなものです。
代表者への聞き取りなどを行う財務調査はあくまで任意ですが、応じない場合は、より強制力の強い強制捜査に切り替わります。
強制捜査は、代表者の自宅への立入りや、取引先への聞き取り、不動産や預金残高の調査などが行われます。
また、厚生年金の場合、捜査を拒否したり、妨害したりすると、厚生年金保険法に基づき、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられる可能性もあるので注意してください。
こうした調査や捜査によって財産が把握できると、ついに差押えが行われます。
差押えは不動産や売掛金なども対象になるため、自由に営業ができなくなったり、資金繰りが急速に悪化したりといった悪影響が考えられます。
取引先はもちろん、金融機関からの信用も失うことになり、融資を受けることもむずかしくなります。
また、経営状態への不安や不信から、従業員の離職なども相次ぎ、結果として倒産を招いてしまうというわけです。
このような社会保険料の滞納を原因とする『社保倒産』にならないためには、早い段階で各所に相談しておくことをおすすめします。
社会保険料が納付できなければ年金事務所へ、雇用保険や労災保険などの労働保険料に関しては、労働局へ連絡しましょう。
相談をしておけば、納付猶予や分納、滞納処分の停止などの緩和措置を受けられる可能性があります。
日本年金機構を管轄する厚生労働省は地方厚生局長宛に、社会保険料について滞納者からの納付方法の相談に丁寧に応じるように通知を出しています。
また、社保倒産を多く扱う専門の弁護士であれば、経営再建も含めた包括的な相談に乗ってくれるでしょう。
社会保険料の滞納に関する問題は後送りにすればするほど、悪化してしまいます。
滞納してしまうことがないよう、できるだけ早めに対策を講じておきましょう。
※本記事の記載内容は、2024年7月現在の法令・情報等に基づいています。