ひかり税理士法人

自由に副業をしたい! 会社が副業を『許可制』にするのはOK?

21.01.12
ビジネス【法律豆知識】
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現在、厚生労働省では『働き方改革実行計画』(2017年3月28日、働き方改革実現会議決定)を踏まえ、副業・兼業の普及促進を図っています。
他方で、就業規則において『許可なくほかの会社の業務に従事しないこと』などと定め、副業を“許可制”とし、その違反を懲戒事由としている会社も多く見られます。
このように、副業を許可制とする規定をおくこと、ひいてはその違反を理由に解雇することは可能なのでしょうか。
裁判所の判断例なども交えながら紐解いてみましょう。
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会社が副業を『許可制』にする目的とは

会社が従業員の副業を許可制にする目的としては、以下のようなものがあるでしょう。

(1)十分な休息を取れないことにより、従業員の疲労が重なり、さらには健康を害して自社に対する労務の提供が不能または不完全になることを防止すること
(2)従業員が競業他社で勤務する、もしくは競業を自営すること等により、自社の企業秘密が漏洩することを防止すること

こうしたトラブルを未然に防ぐため、会社が従業員の副業の是非を判断する『副業許可制』には合理的な理由があり、許されると考えられています。

他方で、憲法22条では『何人』にも『職業選択の自由』を保障しています。
また、副業には、個人の能力をより一層開花させ、自己実現や収入の増加、社会や経済の活性化をもたらすというメリットがあります。
そうすると、副業許可制の違反については、あまり厳格に解釈すべきではないといえます。
会社の職場秩序に影響を与えず、かつ会社に対する労務の提供に格別の支障をきたさない程度・態様の副業をもって、ただちに“違反”とするべきではないでしょう。

逆に、そのような影響・支障のあるものは、副業許可制に違反し、懲戒処分の対象とされてもやむを得ないといえます。


副業をめぐる裁判所の判断は?

それでは、副業を理由に会社が従業員を処分した場合、当該処分の有効性について、裁判所はどのような判断をしているのでしょうか。

たとえば、トラック運転手が会社に対し、他社でアルバイトをすることの許可申請をしたところ、会社がこれを不許可としたケースがありました。
これについて裁判所は、1カ月の実労働時間がアルバイトを含めても230時間程度であり、働きすぎによる弊害が生じる恐れが少ないこと、また秘密漏洩の危険性もないことから、会社の不許可を違法としました。

一方、終業後、午後6時から午前0時までキャバレーで勤務していた事務職員を、会社が副業を理由に解雇したケースでは、裁判所は会社の処分を有効と判断しています。
キャバレーでの勤務時間が長いことや、本業の勤務時間中に居眠りが多く、残業を嫌がるなどの支障が出ていたことが、その理由です。

このように、裁判所は、『本業が休息をとることが重要な職種であるか』『遅刻、居眠り、ミスの多発などにより本業の業務に支障が出ているか』『営業秘密漏洩の危険性はどの程度あるか』など、各事案における個別具体的な事情を勘案して、会社の処分の正当性を判断しているといえます。

なお、会社側が『副業を理由に解雇』という従業員側に重大な不利益を及ぼす処分をする場合は、『解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする』という労働契約法16条に照らした慎重な検討が必要であり、安易な解雇は避けるべきです。
まずは、違反状態を是正するよう指導や注意をする、より軽い懲戒処分をするなどの段階を経て、それでもなお状況が改善されない場合に初めて解雇を検討すべきでしょう。

労働者にとっては、自身のキャリアアップ、収入アップのために副業を行うことは魅力的な選択肢の一つです。
ただし、会社の理解を得るためには、普段の仕事に誠意を持って取り組み、本業に支障をきたさないことなどを示すことが大切だといえます。


※本記事の記載内容は、2021年1月現在の法令・情報等に基づいています。