ひかり税理士法人

中小企業の事業主でも労災保険に入れる『特別加入制度』とは?

20.04.07
ビジネス【労働法】
dummy
通常、労働者災害補償保険(以下、労災保険)は労働者やその家族の生活を守るためのもので、事業主や自営業者、その家族などは保護する対象になりません。
しかし、なかには労災保険への『特別加入』が認められている事業主や、その家族もいるのです。
そこで今回は、どのような場合に労災保険に特別加入できるのか、その該当範囲を紹介します。
dummy
『特別加入』の該当範囲4種とは?

労災保険とは、雇用している従業員が、通勤などを含む仕事に起因したケガや病気などをした場合に保険金を給付する制度です。
しかし、実情に照らし合わせてみると、中小企業の経営者などは労働者とほぼ同様の業務に従事していることが多くあります。
また、自営業者も一人で業務をこなしている場合が少なくありません。
このことから、労働者と変わらない立場の事業主や自営業者、そして家族従事者に対しては、労災保険に加入できる『特別加入』が認められています。

『特別加入』の対象は、『一人親方その他の自営業者』『特定作業従事者』『海外派遣者』『中小事業主等』の4種が該当します。
それぞれ見ていきましょう。

まず『一人親方その他の自営業者』は、原則として人を雇用せずに一人で業務にあたる者のことを指し、個人タクシーなどの運送事業や土木などの建設事業、医薬品の販売事業や廃棄物の収集・解体事業など、いくつかの事業の従事者に限られます。
また、人を雇用している場合でも、労働者の労働日数が1年間に100日に満たない場合は『特別加入』が認められています。

次に、特定農作業従事者や国または地方公共団体が実施する訓練従事者、労働組合等の常勤役員など、特定の作業に関わる『特定作業従事者』も『特別加入』が可能です。

さらに、国内の事業主から海外に労働者として派遣されている人や、国内の事業主から海外の事業所の事業主として派遣されている人も、『海外派遣者』として『特別加入』することができます。
通常、海外に派遣された労働者や事業主は、労災保険の対象にはならず、現地の労災補償制度を受けることになります。
しかし、海外には補償制度が確立していない国もあるため、派遣元の事業主が申請を行うことで、『海外派遣者』も日本の労災保険に『特別加入』できるのです。


加入できる中小事業主の条件とは?

該当者の多い『中小事業主等』も、一定の条件を満たせば、労災保険の『特別加入』が認められています。

『特別加入』では、中小事業主であるかどうかを、業種と雇用している従業員の数で判断しています。
金融業、保険業、不動産業、小売業であり、常時雇用している労働者の数が50人以下であれば、中小事業主とされます。
また、卸売業、サービス業では100人以下、それ以外の業種は300人以下であれば、中小事業主と認められます。

逆に、金融業、保険業、不動産業、小売業であっても、従業員の数が51人を超えていると、中小事業主とはならず、『特別加入』が認められません。
さらに、労働者を通年雇用していなくても、1年間で100日以上、雇用していた場合には、常時雇用とみなされるので注意してください。

そして、『特別加入』には、『雇用する労働者について、労災保険の保険関係が成立していること』『労働保険の事務処理を労働保険事務組合に委託していること』の2つの条件を満たす必要があります。

つまり、常時雇用している従業員を労災保険に入れており、その処理を労働保険事務組合に委託していれば、申請手続きを経て、事業主も『特別加入』が認められるというわけです。

ちなみに、労働保険事務組合とは、厚生労働省の認可を受けた中小事業主の団体で、地域の商工会議所や事業協同組合、社会保険労務士事務所などが併設しています。

手続きは、特別加入申請書に業務内容や業務歴などの必要事項を記入し、労働保険事務組合に提出します。
所轄の労働基準監督署長を経て、労働局長の承認を受けると、事業主でも晴れて労災保険に入ることができます。
また、特別加入の申請の前に、健康診断を受ける場合もあるので、確認しておくようにしましょう。

承認を受ければ、事業主と同じように、家族従事者なども労災保険に加入することが可能です。

事業主は労災保険に入れないので、これまで民間の保険に頼っていた方も少なくないと思います。
一度、『民間保険』の保険料と見比べるなどして、『特別加入』を検討してみてはいかがでしょうか。


※本記事の記載内容は、2020年4月現在の法令・情報等に基づいています。