『就業規則』を変更するタイミングと法的な要件
就業規則は従業員が安心して働くための大切な規則です。
しかし、就業規則を最初に作成してから、何年もそのままだという企業も少なくありません。
就業規則は社会情勢や法令の改正、そして会社の成長や変化に伴い、常に最新の状態に保つ必要があります。
就業規則の変更は、適切なタイミングと法的な手続きを守って行うことが重要です。
もし、変更の際の手続きに不備があった場合、従業員との間で思わぬトラブルに発展するかもしれません。
就業規則を変更すべきタイミングや、具体的な変更の手順などについて、理解を深めておきましょう。
法改正や労働条件見直し時に変更
就業規則とは、会社が定める労働条件や服務規律に関するルールであり、従業員が働くうえでの基本的な決まり事を明確にしたものです。
労働時間や休憩、休日、賃金、服務規律、退職に関する事項など、多岐にわたる内容が記載されており、労働基準法では常時10人以上の従業員を使用する事業場に対して、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が義務づけられています。
ただし、事業場ごとに作成するのが原則であるため、たとえば合計の従業員数が10人以上の会社でも、事業場で常時働く従業員が10人未満であれば、その事業場に関しては就業規則を作成する義務はありません。
この就業規則は、さまざまなタイミングで変更する必要があります。
その一つが、法令の改正が行われたタイミングです。
労働基準法をはじめとする労働関連の法令は、社会情勢の変化や働き方の多様化に対応するため、頻繁に改正されます。
たとえば、労働時間の上限規制や年次有給休暇の取得義務化、同一労働同一賃金に関する法改正など、企業の人事・労務管理に大きな影響を与える改正が行われることがあります。
このような法令の改正があった場合、既存の就業規則の内容が改正後の法令に適合しない可能性があります。
法令に反する内容の就業規則は無効となるため、速やかに就業規則を見直し、改正後の法令に合わせた内容に修正しなければいけません。
また、労働条件を見直したり、制度を新設したりする場合も、就業規則を変更しなければならないタイミングです。
勤務時間や休憩時間の変更、休日や休暇制度の見直しなどはもちろん、テレワーク制度や裁量労働制などの制度を導入する場合も、就業規則の変更が必要になることがあります。
なお、1年単位の変形労働時間制やフレックスタイム制などについては、制度の適用にあたって就業規則に定めることが法的な要件になっているものもあります。
さらに、会社の組織再編や事業の拡大・縮小、新たな事業の開始など、企業の内部環境が大きく変化するタイミングでも、就業規則の見直しを行いましょう。
内部環境の変化に対して就業規則が古いままだと、実態とルールにずれが生じて、労使トラブルが起きやすくなりますし、労働基準監督署からの指導対象になるといったリスクがあります。
ほかにも、就業規則の不備や不明確な点が見つかったタイミングや、従業員の意見や要望があったタイミングなども、就業規則の変更を検討する必要があります。
変更した就業規則を無効にしないために
就業規則を変更するには、従業員代表への意見聴取を行い、変更する内容を明確にしてから、実際に変更した就業規則と、従業員代表の意見書を添付して、所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。
労働基準法では、就業規則の作成または変更を行う場合、使用者は事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者(従業員代表)の意見を聴かなければならないと定められています。
従業員代表の意見聴取を行わないで変更した就業規則は無効になる可能性があるので、注意してください。
また、労働条件を変更する場合は、労働者の不利益にならない範囲で、かつ合理的なものでなければなりません。
賃金の引下げや手当の廃止など、労働者の不利益が大きい変更は無効と判断される可能性があります。
ただし、従業員にとって不利益となるかどうかは、変更の内容や必要性、変更後の労働条件の水準、従業員との交渉状況などを総合的に考慮して判断されます。
いずれにしても、就業規則の変更は従業員に寄り添った内容にしなければなりません。
変更した就業規則を労働基準監督署へ届け出た後は、従業員への周知を行いましょう。
周知の方法は、事業所内の見やすい場所に掲示する、書面を交付する、電子的な記録として保存し、従業員が容易にアクセスできるようにするなど、適切な方法で行う必要があります。
新しい就業規則が従業員に周知されていないと、その就業規則の効力が認められない場合があります。
就業規則を適切なタイミングで、法的な手続きに則って変更することは、労使間のトラブルを未然に防ぐことにもなります。
創業時に就業規則を作成したままであれば、あらためて見直し、必要に応じて変更を検討しましょう。
※本記事の記載内容は、2025年5月現在の法令・情報等に基づいています。