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定期検診の受診率向上のために歯科医院ができる施策とは

23.07.04
業種別【歯科医業】
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厚生労働省と日本歯科医師会は「80歳になっても自分の歯を20本以上保とう」という『8020(ハチ・マル・ニイ・マル)運動』を推進しています。
そして、この80歳で自分の歯を20本保つことを実現するためには、患者自身のセルフケアはもちろん、歯科医院への定期検診が欠かせません。
定期検診の受診率を向上させるためには、患者に定期検診の大切さを訴えること以外に、歯科医院における環境の整備も重要です。
定期検診の受診率を上げるために、歯科医院が行うべき取り組みについて説明します。
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受診率は歯科医院側の要因も影響していた

歯科医院で行う定期的なクリーニングや歯石除去が、むし歯や歯周病の発生を抑え、将来的な歯の損失の予防につながることは明らかになっています。
しかし、日本で定期検診を受けている人の割合は、決して多くありません。
日本歯科医師会が2022年に、全国の15歳~79歳の男女1万人を対象に行った『歯科医療に関する一般生活者意識調査』によれば、歯や口腔内の健康に対する意識は高まっているものの、実際に歯科医院で定期検診を受けている人の割合は全体の47.4%と、半数以下であることがわかりました。
つまり、52.6%の人は定期検診を受けていないことになります。

患者に定期検診を受けないことによるリスクを伝えたり、メールやハガキなどで来院を促したりといったアプローチは、歯科医院へ足を運んでもらうためには効果的な施策です。
しかし、これらの周知活動だけではなく、歯科医院側の取り組みによっても受診率を上げられることがわかってきました。

2021年4月に東京医科歯科大学の研究グループは、定期検診の受診は患者側の個人的な要因だけではなく、歯科医院側の要因も影響することを明らかにしました。
この研究は、2014年に8020推進財団が実施した『歯科医療による健康増進効果に関する調査研究』のデータを元に行われ、具体的には「歯科衛生士の数」「歯科衛生士専用ユニットの有無」「歯科保健指導の時間の長さ」という歯科医院側の要因も定期検診の受診率に関連することが判明しました。
つまり、歯科衛生士の数が多く、歯科衛生士専用ユニットがあり、さらに歯科保健指導の時間が長い歯科医院であるほど、患者の定期検診の受診率は高くなるということです。

定期検診を増やすために歯科医院ができること

これらの研究では、常勤換算した歯科衛生士の数が0人の歯科医院で定期検診を受けている患者の割合は21.8%だったのに対し、1人以下では27.6%、2人以下では35.8%、3人より多い場合は47.7%になることがわかりました。
歯科衛生士が多ければ多いほど、定期検診の受診率は向上するということが見て取れます。

しかし、歯科衛生士の確保は簡単ではありません。
令和2年に行われた日本歯科衛生士会の調査によると、7割以上の歯科衛生士が「転職経験がある」と回答しています。
また、歯科衛生士の求人倍率も例年20倍近くの高水準で、圧倒的な売り手市場でもあります。
では、採用と定着が難しい歯科衛生士を確保するためには、どのような施策を講じるとよいのでしょうか。

まず、給与面や福利厚生などの待遇がほかの歯科医院と比べて低くないか確認し、勤務時間や職場環境などもふまえて、差別化を図る工夫が必要です。
求人を出す際もできるだけ詳細な情報を記載したうえで、医院の魅力を伝えられるようにしましょう。
そして、歯科衛生士を増やすのであれば、歯科衛生士専用ユニットの導入も必要です。
医院のレイアウトにもよりますが、歯科衛生士専用ユニットを新しく導入するためには、ある程度スペースの余裕が必要になります。
無理やり狭いスペースに設置して動線を塞ぐことのないように注意しましょう。

また、歯科定期検診の受診率は、歯科保健指導の時間にも関係しています。指導時間が長ければ丁寧で適切な指導を行っているというわけではありません。
研究結果では歯科保健指導時間が0分の場合は28.1%だった定期検診の受診率が、指導時間の長さに比例して、20分以上の場合は41.5%に上がっています。
歯科保健指導に関しては、指導の内容をマニュアル化しておくことで、歯科衛生士ごとの指導時間や指導の質の差を減らすことができ、効率的な指導を行えるようになります。
歯科衛生士の増員や歯科衛生士専用ユニットの導入はむずかしいとしても、診察のスケジューリング次第で歯科保健指導の時間は確保できます。
歯科定期検診の受診率向上のためにも、患者への定期検診の重要さについての啓蒙と併せて、歯科医院側ではじめられる施策に取り組んでいきましょう。


※本記事の記載内容は、2023年7月現在の法令・情報等に基づいています。