腹落ちした経営理念を作るためには?
・腹落ちした経営理念を作るためには?
このシンプルだけど本質的な質問に対して、ほとんどの人は答えられません。優秀な経営者、コンサルタント、理念策定専門家ですら答えられないというのが実情です。
ハッキリ言います。腹落ちする経営理念の策定の仕方は確実にあります!やり方を間違えるとどうなるか?答えは簡単です。納得できない綺麗で立派な経営理念が出来上がります。
よく中小企業の会社にいくと、経営理念が綺麗で立派な額縁に飾られているときがあります。そこで、社長になぜこの経営理念なのか聞いてみると、「いや~お恥ずかしい話ですが、これは先代が作ったもので、自分はしっかりと理解していないのです。でも、ちゃんと理念唱和は毎日しているんですよ!」とおっしゃったりします。背景のわからない理念を毎日唱和するほど、アホらしくて悲惨なものはないです。そんな社長に限って「なぜうちはあんだけ唱和しているのに、覚えられない社員がいるのだろうか?なぜうちは理念が浸透しないだろうか?」と悩んだりしています。ハッキリ言いますが、悩むことそのものを止めた方がいいと思います。そんな理念は浸透するわけがないのです。そもそも策定の仕方が間違っているのですから。最初から答えを言ってしまうと、理念を見て情熱がわかないものは、もう経営理念ではないのです。感情の伴わない理念は、理念じゃないのです。そんな理念、唱和するのはさっさとやめて、最初から作り直した方がましです。間違いなく浸透しないですから。その状態で唱和するなんて、時間の無駄以外なにものでもないですから。それに付き合わされる社員は、正直たまったものではないですよね。
では改めまして、腹落ちした経営理念を作るにはどうしたらいいでしょうか?
・経営理念と理念とビジョンの関係
そのためには、まず経営理念の定義を明確にしなければいけません。
ブリタニカ国際大百科事典によると、「企業の個々の活動方針の基本的な考え方」だそうです。一般抽象的で綺麗すぎる答えのため、かえって分かりにくいですよね。私は経営輝塾でよく中小企業の社長にお話しするのですが、この定義で「なるほど!」といった社長は1人もいません。別に私は百科事典を批判しているわけではありません。経営実務に使える経営理念を作るには、あまりにも平たい表現のため、ピンとこないのです。それこそ定義も腹落ちできるものでないと、腹落ちした経営理念なんて作れっこないのです。
経営理念の定義を考える上で重要な一つのポイントとして理念とビジョンとの関係性があります。経営理念とビジョンにはどのような違いがあるのでしょうか?よく理念とビジョンは並列的に捉える場合がありますがこの二つは明確に違います。基本的に言葉は並列羅列的に捉えるべきでないです。そうでないと、理念も大事、ビジョンも大事といってやみくもに経営要素を取り入れ何が第一義的に大事なのかがわからなくなるからです。
理念とビジョンは、どちらが先か?どちらが大事か?それは間違いなく理念です。理念がビジョンより優先します。理念策定が最初です。理念とビジョンの関係性は、簡単な表現でいうなら、理念は軸でビジョンはその軸を中心に描かれる放物線のことです。まるでそれはゴルフのようです。軸がしっかりしていると、そこから繰り出される放物線は、安定したきれいな弧を描きます。しかし、軸が決まらないと、いつも球があちらこちらにいって定まりません。それは、会社とて同じなのです。つまり、理念が変わると、ビジョンは変わります。というよりも、自分たちが本当に大事にしたい理念に気づくと、ビジョンが必然的に変わってしまうのです。今までは、「売上100億円の企業になる」というビジョンだったのが、腹落ちした理念が策定されると自分たちの使命に気づき、売上100億といった無機質でないビジョンが描かれるようになります。それは、例えば「日本中の人達がポジティブで笑顔になっている姿を叶えたい」といった、使命から繰り出される自分が本気で叶えたい風景が見えるようになります。まさしく理念という会社の軸が決まったことにより、ビジョン(放物線)が塗り替えられたことを意味するのです。ということは、ビジョンとの関係性でいうと、理念とは、「軸」のことであり、一度決めたら簡単に変わらないものであると言えるのです。
・理念は「独りよがりな自己実現欲求を形にしたもの」
さて、回りくどくなりましたが、そうした会社の使命・価値観そのものである理念の定義は何でしょうか?私は、理念は「独りよがりな自己実現欲求を形にしたもの」と定義しています。初めて聞いた人は「なんだそりゃ?」という感じかもしれません。しかし、実は、これにはかなり深い意味づけがあるんです。それを理解する上で、この文章を2分すると以上に分かりやすくなります。すなわち「独りよがり」と「自己実現欲求」と二つの要素に分けて考えるのです。
・「自己実現欲求」とは
まず、後者の「自己実現欲求」を説明いたします。簡単に言うと経営理念は、欲求を形にしたものでないといけないということを意味します。ここからわかるように欲求という感情がこもらないものは理念ではないということですね。では、欲求であればなんでもいいかというとそうではありません。
人には、大きく分けて二つの感情があります。それは、安楽欲求と自己実現欲求です。
まず、安楽欲求ですが、人は、誰でも楽したいし、怠けたいし、簡単に手に入れたいと思う感情のことです。この欲求は、人間であれば誰でも持っている感情であり、常にスイッチがオンの状態になっています。逆にいうとこの感情は、死なない限り消えない感情なのです。
それに対して、自己実現欲求とは、成長欲求のことです。充実の欲求とも言い、人は誰でも成長したいし、人の為に尽くしたいし、感動したいと思う感情の事です。ちょっとやっかいなのは、自己実現感情は、何かの壁やハードルを越える経験をした後に湧き出てくる感情のことで、困難と隣り合わせになっているのが特徴になります。
理念は、この自己実現欲求を形にしないといけないということです。あなたが困難を乗り越えてでも実現したいと思う欲求を探していくことになるということです。そこで大事になるのが、「独りよがりな」自己実現欲求であるということなのです。
・「独りよがりな」=独自性
「独りよがりな」なんていう一見理念と相反するような乱暴な言葉を使うのには理由があります。それは、経営者自身の、経営者独自の、つまり、独りよがりだっていいからその情熱を加えてほしいという私の願いがあるからです。もっというと、経営者独自の情熱から生まれる自己実現欲求でなければ、経営理念に魂がやどらないのです。正直なことを言えば、経営理念なんて、自己実現欲求を高次元まで高めていけば、かなり一般抽象化され、最終的には「自利利他」みたいなものになっていくのです。みんな同じになってしまうのです。しかし、一般抽象化されるとどうなるかというと、そこに独自性がなくなるという矛盾が生じることになります。すなわち、己の情熱が消え、無機質になり感情が消され人を巻き込みにくくなるのです。だからこそ、独自性をどうしても加えてほしいのです。そうです!経営理念とは独自性が必要だということなのです。経営理念は自利利他といった一般的なものであるのと同時に、あなた自身の、経営者自身の独自性から生まれるという矛盾を統合されたものなのです。そして、あなたという人は、もう二度と生まれてこない世界遺産なのです。その意味でもとても尊いものなのです。独自性をどう表現するかといえば、それは、ストーリーで表現するのです。だから、経営理念の背景は、経営者自身が奏でるストーリーがなければいけないのです。
・理念のヒントは過去にある
経営理念が本物かどうかは簡単に見抜けます。どうしてその理念なのかを語ることができれば、それは腑に落ちた理念であり、そうでなければ、形だけの理念なのです。本当に情熱の宿った理念の場合には、経営者は、熱くその理念となった背景とストーリーをとつとつと話しだします。これこそが、理念の宿る魂そのものなのです。つまり理念のヒントは過去にあるというわけです。
以上の事から、腑に落ちる理念策定は、自分の過去から自己実現欲求の種を探すという旅から始まるというわけなのです。では、その手順については、次の機会にお伝えしたいと思います。