SS総合会計グループ

建設工事の下請契約を交わす際の禁止事項

19.12.03
業種別【建設業】
dummy
建設業界では、仕事を受注した会社が、さらにほかの会社に業務を発注するケースが少なくありません。
こうした場合、一般的には仕事が下りていくほど中間マージンが発生するため、最終的に業務を受注した下請負人が得られる報酬は少なくなりがちです。
また、下請負人は元請負人に比べて立場が弱いことも多く、下請負人の権利を保護することは、多くの業界の課題といえます。
そこで今回は、下請負人はもちろん、仕事を依頼する元請負人も知っておきたい下請取引に関する法制度について紹介します。
dummy
建設工事は下請法の適用外

一般的に下請事業を行う会社や事業主に対しては、下請法という法律が適用されます。
これは下請取引の公正化や下請事業者の利益保護を目的とした法律で、下請代金の支払い遅延の禁止や返品・買いたたきの禁止など、さまざまな義務について定められています。
建設業の仕事のなかでも、たとえば、建築物の設計や工事図面の作成、建設資材の製造をほかの事業者に委託する場合などは、下請法が適用されます。
しかし、土木建設に関する工事のうち一定の工事(以下、『建設工事』といいます)の請負においてはこの下請法の適用がなく、その代わり、『建設業法』のなかに下請契約に関する規定が定められています。


請負契約書に記載しなければならない事柄とは?

元請業者と下請業者は、建設工事の着工前に契約書を交わす必要があります。
建設業法では、契約書に記載しなければならない事項を定めています。
契約書を交わすときには、下記の項目が記載されているか確認が必要です(建設業法第19条)。

●工事内容
●請負代金額
●工事着手・完成の時期
●請負代金の前払い金、または出来形部分の支払いに関する時期と方法
●設計変更や工事着手の延期、工事の一部または全部の中止について当事者から申出があったときの、損害の負担や損害額の算定方法の定め
●天災などの不可抗力で工期の変更があったときの、損害の負担や損害額の算定方法の定め
●価格変動、変動に基づく請負代金額または工事内容の変更について
●工事の施工により第三者が損害を受けた場合の賠償金に関する定め
●注文者が工事に使用する資材や機械を提供・貸与するときは、その内容および方法に関する定め
●注文者が工事の全部または一部の完成を確認するための検査の時期や方法、引渡しの時期
●工事完成後の請負代金の支払時期、支払方法
●工事の目的物の欠陥を担保するべき責任、または当該責任の履行に関して講ずべき保証保険契約の締結、その他の措置に関する定めをするときは、その内容
●債務不履行や履行遅滞における遅延利息、違約金などの損害金
●契約に関する紛争の解決方法

これらについては契約書に記載したうえ、署名または記名押印後、相互に契約書を交付しなければなりません。
下請負人は、契約書の交付を元請負人に求めることができます。
工事の途中で契約内容に追加や変更が生じることがありますが、この場合にも、原則として、追加工事などの着工前に書面による契約変更を行わなければなりません。


曖昧な見積もりや報酬支払いの保留は禁止

下請負人は元請負人よりも立場が弱いことが多いため、無理な要求をされても断れないことがあります。
しかし、建設業法では、元請負人が地位を不当に悪用することを禁止しています。

たとえば、その工事を施行するために必要な原価以下の金額を請負代金として提示し、下請負人の経営を圧迫するような取引をすることです。
これは、元請負人と下請負人が価格を決定するときにしっかり協議できているといえるかどうかがポイントになってきます。
一方的に「この価格でお願いします」と提示した場合には、元請負人の地位を不当に利用したとして、違法になりかねません。
しかし、細かく見積もりを提示せずに「○万円で」などと曖昧な条件を提示することも禁止です。
下請負人が受注工事について見積もりを行う際も、適正な見積もり期間を設定し、下請負人が漏れなく見積もりを計上できるように配慮しなければなりません。

ほかに、工事を下請負人に発注し、工事が完成して元請負人が検査や引渡しを完了しているにもかかわらず、下請負人に対して報酬を支払わないケースがあります。
一般的に建設業の工事期間は数カ月から数年単位と長期間に渡ることが多く、こうした報酬の保留が慣例として行われれば、下請負人の経営を圧迫するのは明らかです。
そのため、元請負人は注文者から支払いを受けた後、できるだけ早い時期に下請負人に対して報酬代金を払わなければならないとされています。

元請負人と下請負人は対等な立場で、公正な下請契約を交わさなくてはなりません。
違法な下請契約を締結してしまわないよう、注意しましょう。


※本記事の記載内容は、2019年12月現在の法令・情報等に基づいています。