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相続人が海外在住だったら? 不動産相続で困らないための手続き

25.06.03
業種別【不動産業(相続)】
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グローバル化が進む現代では、家族が海外に居住するケースが増えています。
相続が開始した際に相続人が海外に住んでいる場合、日本で必要とされている印鑑証明書や住民票などの代替として要求される証明書類の取得困難や、時差による連絡の課題など、予期しない問題に直面することがあります。
特に不動産相続では登記や納税などの複雑な手続きが必要となるため、事前知識がないと遅延やトラブルを引き起こす可能性があります。
今回は、相続人が海外在住の場合の不動産相続手続きについて、押さえておくべきポイントを解説します。

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海外在住でも相続権は平等、必要なのは?

相続人が海外に住んでいても、民法上の相続権は日本国内に住む相続人と同等です。
居住地による権利の違いはありません。
しかし実務上では、海外在住であることによるさまざまな障壁が存在します。

最も大きな問題は、日本の印鑑証明書が取得できないことです。
日本の相続手続きでは、遺産分割協議書や各種申請書類に「実印」の押印が必要で、それを証明するために「印鑑証明書」の添付が求められます。
しかし、海外在住者は日本の住民票がないため、印鑑登録をすることができません。
この問題を解決するには、「在留証明書」や「署名証明書」といった代替書類が必要です。
これらは、現地の日本大使館・総領事館で取得できますが、居住場所によっては長距離移動が必要な場合もあります。

また、相続手続きに必要な書類は原則として日本語で作成する必要があり、外国語の証明書類は日本語訳を添付しなければなりません。
不動産の相続登記では、定められた情報を管轄の法務局に提供して申請することとされています。
郵送での手続きも可能ですが、書類の不備があった場合の補正対応に時間がかかり、手続きが長期化する傾向があります。
オンラインでも申請可能ですが、必要なソフトなどを準備する必要があり、パソコンやインターネットに詳しくなければ、手続きは困難です。

これらの問題に対応するための現実的な方法としては、以下の2つがあげられます。
1.国内の親族などに手続きを委任する
委任状を提出し必要書類の準備や申請手続きを国内の親族などに代理してもらうことで、手続きの円滑化が図れます。
ただし、委任状自体にも署名証明書などの添付が必要となる点には注意が必要です。
2.相続専門の弁護士や司法書士に依頼する
専門家に依頼すれば、必要書類の準備から手続き全般をサポートしてもらえるため、手間やリスクが軽減されます。

不動産相続における特有の問題と税務手続き

相続人が海外在住の場合、不動産相続に関して特有の問題が生じます。
ここでは、不動産相続における注意点と税務手続きのポイントを解説します。

最大の課題は「相続登記」です。
海外在住者が相続人に含まれる場合、以下の書類が必要となります。

・遺産分割協議書(海外在住者は署名と、その署名証明書が必要)
・相続人全員の戸籍謄本
・在留証明書など住民票の代替書類
・固定資産評価証明書

特に、相続登記の際には「住所証明書」が必要ですが、海外在住者は日本の住民票が取得できないため、海外の在留証明書などで代用します。
また、先ほど説明したように外国語の書類には、日本語訳の添付が必要です。
なお、2024年4月から相続登記が義務化されており、正当な理由なく3年以内に申請しない場合には、10万円以下の過料が科される可能性があります。

さらに、相続した不動産の管理も大きな課題です。
建物を空き家として放置した場合、固定資産税の特例措置を受けられなくなる可能性があるため、不動産管理会社への委託や、信頼できる国内の親族への管理委任、売却の検討などが現実的な対応となります。

次に、税務手続きについて見ていきましょう。
日本の相続税法では、日本国籍を持つ海外在住者が取得した日本国内の財産(不動産を含む)は、相続税の課税対象となります。
相続税の申告期限は、被相続人の死亡を知った日から10カ月以内であり、海外在住者もこの期限を守る必要があります。
海外在住者の場合、必要書類の収集や郵送に時間がかかることが多いため、余裕を持った準備が求められます。
また、重要なポイントとして、「納税管理人」を選任する必要があります。
納税管理人とは、海外在住者に代わり日本での税務手続きを行う国内居住者のことで、親族や税理士が担当することが一般的です。
納税管理人を選任したら、所轄の税務署に「納税管理人の届出書」を提出しなければなりません。
相続税申告時には、海外在住の相続人の本人確認資料として、「パスポートの写し」や「在留証明書」が求められる場合があります。

相続人が海外在住でも相続手続きや納税義務は生じるため、日本国内にいる親族や専門家との連携が重要です。
特に不動産相続では、名義変更や評価額の算定などの作業も必要となるため、事前に準備を進めておくことがトラブル回避につながります。
海外に相続人がいる、もしくは海外在住を検討している家族がいる場合は早目の対策を心がけましょう。


※本記事の記載内容は、2025年6月現在の法令・情報等に基づいています。