遺産相続時、兄弟が仲違い……共有持分権のある土地・建物の行方は② ~使用料は請求できる?~
前回、父親の遺産である不動産を占有している長男の太郎に対し、共有者の一人である弟の二郎が「土地と家を明け渡せ!」と要求することはできないと説明しました。
二郎は、 「兄貴を追い出せないことは、わかった。だけど俺にも権利があるのに、兄貴だけが使い続けるなんて不公平じゃないか。俺の権利分の家賃を払えよ!」 と言い出しました。
さて、相続した家に住む太郎に対し、二郎は使用料を請求することはできるのでしょうか?
二郎は、 「兄貴を追い出せないことは、わかった。だけど俺にも権利があるのに、兄貴だけが使い続けるなんて不公平じゃないか。俺の権利分の家賃を払えよ!」 と言い出しました。
さて、相続した家に住む太郎に対し、二郎は使用料を請求することはできるのでしょうか?
①問題の設定
問題を単純化すると、先に使用していた太郎だけが得する“早い者勝ちのルール”では、あまりに不公平です。
民法249条にも、『各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる』という限定文言があります。
つまり、太朗の持分(不動産の1/2)を超えた、二郎の持分部分については、何らかの補償がなされるべきなのです。
②原則
では一旦、今回の事案から離れ、原則的な説明をします。
本件のような相続問題ではなく、共有者同士がお金を出し合って不動産を購入した例を想定してください。
この場合、不動産を占有していない共有者は、民法703条の『不当利得の返還義務』により、不動産を占有している共有者に対して、自己の持分に応じた使用料の請求が認められます。
共有者全員が、“共有物の全部”を使用する権利があるにもかかわらず、特定の共有者だけが全てを使用しているのは、他の共有者の利益を侵害し、“使用権限を享受している部分がある”ということになります。
そのため、他の共有者の持分部分について得た利益は不当なものと考えられるので、他の共有者は全部使用している共有者に対して、不当利得の返還請求が認められます。
③本件の特殊性
①②ともに同様の結論となりました。しかし、本件には特殊な事情があります。
それは、太郎が被相続人である親父と長年同居し、親父が亡くなったときも一緒に暮らしていたという事情です。
現在の裁判実務では、この“事情”が最大限尊重されます。
『共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右同居の相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって……遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続することになるものというべきである』(最高裁判所 小法廷 平成8年12月17日判決参照)。
つまり本件事案に当てはめると、遺産の最終的な所有関係が確定するまでは、『“太朗は遺産である不動産に無償で住み続けてよい”という合意が父親と太郎との間にあった』と推認されるのです。
合意をした父親の地位を二郎も相続しているので、二郎が貸主、太郎が借主の『使用貸借契約』(=無償で使用してよいという契約)が存続します。
④その後の問題
今回の検討では、二郎は太朗に対し「出て行け」とも「使用料を払え」とも主張できない結果となりました。
そのため、太朗はこのまま遺産を使用し続けられますが、二郎は諦めるしかないのでしょうか?
この先はまさに弁護士の出番ですので、法律相談に行かれることをおすすめします。
お困りになっているあなたの代わりに、速やかに遺産分割協議を始めます。
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問題を単純化すると、先に使用していた太郎だけが得する“早い者勝ちのルール”では、あまりに不公平です。
民法249条にも、『各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる』という限定文言があります。
つまり、太朗の持分(不動産の1/2)を超えた、二郎の持分部分については、何らかの補償がなされるべきなのです。
②原則
では一旦、今回の事案から離れ、原則的な説明をします。
本件のような相続問題ではなく、共有者同士がお金を出し合って不動産を購入した例を想定してください。
この場合、不動産を占有していない共有者は、民法703条の『不当利得の返還義務』により、不動産を占有している共有者に対して、自己の持分に応じた使用料の請求が認められます。
共有者全員が、“共有物の全部”を使用する権利があるにもかかわらず、特定の共有者だけが全てを使用しているのは、他の共有者の利益を侵害し、“使用権限を享受している部分がある”ということになります。
そのため、他の共有者の持分部分について得た利益は不当なものと考えられるので、他の共有者は全部使用している共有者に対して、不当利得の返還請求が認められます。
③本件の特殊性
①②ともに同様の結論となりました。しかし、本件には特殊な事情があります。
それは、太郎が被相続人である親父と長年同居し、親父が亡くなったときも一緒に暮らしていたという事情です。
現在の裁判実務では、この“事情”が最大限尊重されます。
『共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右同居の相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により右建物の所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって……遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続することになるものというべきである』(最高裁判所 小法廷 平成8年12月17日判決参照)。
つまり本件事案に当てはめると、遺産の最終的な所有関係が確定するまでは、『“太朗は遺産である不動産に無償で住み続けてよい”という合意が父親と太郎との間にあった』と推認されるのです。
合意をした父親の地位を二郎も相続しているので、二郎が貸主、太郎が借主の『使用貸借契約』(=無償で使用してよいという契約)が存続します。
④その後の問題
今回の検討では、二郎は太朗に対し「出て行け」とも「使用料を払え」とも主張できない結果となりました。
そのため、太朗はこのまま遺産を使用し続けられますが、二郎は諦めるしかないのでしょうか?
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