『メディカルツーリズム』で経営改善? 押さえておきたい注意点
『メディカルツーリズム』とは、患者がよりよい治療や検査を求めて国境を越えて渡航し、その国の医療サービスを受ける行動を指します。
日本では、インバウンド需要の拡大と共に再び注目を集めており、海外からの患者を受け入れることは個々の医療機関にとって、経営改善の糸口になる可能性があります。
人口減少が進むなか、多くのクリニックや病院などの医療機関が今後の経営戦略について模索を続けています。
日本におけるメディカルツーリズムの現状や、自院で外国人患者を受け入れるメリット、さらにリスクや注意点などを理解しておきましょう。
日本におけるメディカルツーリズムの現在地
これまで日本国内においては、日本人患者が治療のため海外へ渡航するという認識が強く、『メディカルツーリズム』という言葉もあまり一般的ではなかったかもしれません。
しかし現在、日本の医療技術や医療サービスは海外からも一定の評価を受けており、特にがん治療や精密検査、美容医療、再生医療など、それらの技術やサービスに関心を持つ外国人患者も増えてきました。
こうしたニーズの広がりに呼応するように、大手の総合病院だけでなく、独自の強みを持つクリニックなどにおいても、メディカルツーリズムの推進を経営課題に掲げるケースが増えています。
国をあげてインバウンドの受け入れが進むなかで、医療分野も新しい市場としてその波に乗りつつあるということです。
クリニックや病院にとって、メディカルツーリズムを取り入れる利点の一つは、経営基盤の強化です。
少子高齢化が進む日本国内では、長期的に見て患者数の減少が見込まれます。
限られた患者数を地域のクリニック同士で奪い合う状況が危惧されるなか、海外からの新たな需要を開拓できることは、自院の存続と発展において大きな助けとなるはずです。
何より、メディカルツーリズムで来日する外国人患者は、公的医療保険の対象外であり、全額自己負担の自由診療となるため、人間ドックなどの予防医療や、最新機器を用いた高額な治療を提供しやすく、結果として患者一人当たりの単価向上を見込むことができます。
収益の柱が複数になることで、経営の安定化にも寄与するでしょう。
課題を把握したうえでの事前準備が大切
一方で、メディカルツーリズムには課題も少なくありません。
特に懸念されるのは、既存の国内患者が不利益をこうむるリスクです。
訪日する外国人患者は言葉の壁があることも多いため、診察や検査の手順説明に時間がかかります。
通訳を介したやり取りによって、一人当たりの対応時間が延びれば、待合室の混雑を招き、これまで通ってくれていた地域の患者の待ち時間を増やしてしまいます。
地域医療への貢献を理念としているクリニックにとって、これは避けなければならない事態です。
外国人患者の帰国後のフォローアップについても、現地での提携医療機関をあらかじめ確保するなど、帰国後の対応まで含めた明確なルールづくりが求められます。
オンライン診療を活用する場合には、日本側の医療関係法令だけでなく、患者が所在する国の法令などについても確認が必要になります。
さらに、受け入れ体制の構築には、人員の確保や施設の拡充も不可欠です。
医療用語を正確に訳せる通訳者の配置、多言語対応の同意書や問診票の作成、文化や宗教への配慮など、事前の準備は多岐にわたります。
これらの問題を解決し、リスクを抑えるためには、段階的な導入と外部機関の活用がカギとなります。
既存の患者への影響を最小限にするため、訪日する外国人患者の受け入れを特定の曜日や時間帯に限定し、動線を分けるのも工夫の一つです。
言葉や人材の壁に対しては、メディカルツーリズムを専門とするコーディネート機関と提携したり、外国人患者の受け入れのための医療コーディネーターを配置したりするなどの対応が必要です。
ちなみに、2026年9月に公表された厚生労働省の調査では、外国人患者に対応する医療コーディネーターを配置しているのは、調査に回答した全5,745病院のうち159病院にとどまりました。
メディカルツーリズムによる外国人患者の受け入れには、未収金の発生を防ぐための事前決済システムの導入なども含め、起こり得るトラブルを想定した仕組みづくりを行うことが重要です。
メディカルツーリズムは、国内市場が縮小していくこれからの時代において、クリニックや病院の新たな収益機会となり得る選択肢の一つです。
ただし、外国人患者を受け入れるためには、地域の患者への配慮や、トラブルを未然に防ぐ入念な準備などが必要になります。
厚生労働省が取りまとめている「外国人患者の受入れのための医療機関向けマニュアル」なども参考にしながら、広い視野で新たな医療の提供体制を模索していきましょう。
※本記事の記載内容は、2026年11月現在の法令・情報等に基づいています。