『有給休暇の賃金算定ルール』が変更? 現行の方式と見直し案を比較
労働基準法に基づき、使用者は労働者に対して年次有給休暇を付与する必要があり、企業は年5日の年次有給休暇を労働者に取得させる義務があります。
従業員が有給休暇を取得した際、企業はその休暇日に対する賃金を支払う必要がありますが、将来的にこの算定ルールが一本化される案が検討されています。
現行の算定ルールは3種類あり、企業側は自社に合わせた方法を選ぶことができます。
今回は、現行の3つの算定方法と、一本化が検討されている背景や、今後想定される影響について解説します。
採用企業も多い「通常の賃金」での計算
有給休暇は、雇入れの日から起算して6カ月間継続して勤務し、その期間の全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、与える必要があります。
これは正社員に限らず、条件を満たせばパートタイムやアルバイトの従業員にも適用されます。
そして、従業員が有給休暇を取得した日の賃金について、労働基準法第39条第9項および労働基準法施行規則第25条において3つの計算方法が定められています。
企業は就業規則などで事前にルールを定めておくことで、「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」「平均賃金」「健康保険法に定める標準報酬日額」のいずれかの方法で賃金を支払うことになります。
従業員ごとに異なる計算方法をその都度選ぶことはできず、会社として統一したルールを就業規則などに明記しておかなければなりません。
1つ目は、通常通り勤務した場合と同じ「通常の賃金」を支払う方法です。
つまり、有給休暇を取得して休んだ日であっても、本来の定められた労働時間を働いたとみなして賃金を計算します。
月給制の従業員であれば、有給休暇を取得しても、その月の給与から減額などの調整をせず、通常通りの月給を支払うだけで処理が済みます。
時給制の従業員であれば、自身の時給にその日の所定労働時間を掛けて計算します。
従業員にとっては普段通りの給与がそのまま確保されるため安心感があり、企業にとっても特別な計算を行う手間が少ないという大きな利点があります。
実務上の扱いやすさから、多くの企業がこの方法を採用しています。
「通常の賃金」以外の方法で賃金を計算する
2つ目の計算方法は、「平均賃金」を支払うというものです。
平均賃金は、原則として、算定事由発生日以前3カ月間に支払われた賃金の総額を、その期間の暦日数で割って算出します。
ただし、賃金が日給制や時給制などの場合は、最低保障額と比較し、より高いほうを平均賃金とします。
A:算定事由発生日以前3カ月に支払われた賃金の総額÷該当期間の暦日数
B:算定事由発生日以前3カ月に支払われた賃金の総額÷該当期間の労働日数×0.6
Aの計算方法は、3カ月間に支払われた賃金の総額を、その期間の暦の日数(休日も含めた全日数)で割るというものです。
しかし、休日が多い場合や週の勤務日数が少ないパートタイム労働者の場合、この計算式では1日あたりの金額が低くなってしまうことがあります。
そのため、日給制や時給制などの労働者については、最低保障として、3カ月間の賃金の総額をその期間の労働日数で割り、そこに0.6を掛けた金額を算出します。
最低保障が適用される場合は、AとBの計算式で求めた2つの金額を比較し、高いほうを平均賃金として支給します。
過去3カ月に残業代などが多かった場合は金額が上がる反面、暦の日数で割る原則の計算では、通常の出勤日よりも少し金額が下がるケースが多いという特徴があります。
3つ目は、「健康保険法で定められた標準報酬月額」を基準にする方法です。
この方法を採用するには、会社と労働者の過半数代表者の間であらかじめ労使協定を結んでおく必要があります。
計算方法としては、各従業員の社会保険料を決定する際に使われる「標準報酬月額」を30で割った「標準報酬日額」を算出し、これを有給休暇取得日の賃金として支払います。
社会保険料の計算に使う既存の等級をベースにするため、計算自体は比較的単純です。
しかし、標準報酬月額には上限が設けられていることや、その月の暦日数にかかわらず一律に30で割るという計算の性質上、実際の1日あたりの賃金よりも支給額が低くなる傾向があります。
そのため、この方法を採用している企業はそれほど多くありません。
将来的には「通常の賃金」方式へ一本化?
このように現在は3つの選択肢がありますが、労働基準法改正の議論のなかで、有給休暇の賃金算定ルールを「通常の賃金」方式へ一本化する案が検討されています。
この背景には、従業員の不利益をなくし、企業の労務負担を減らすという目的があります。
「平均賃金」や「健康保険の標準報酬日額」を用いて計算した場合、有給休暇を取得した日の賃金が、通常出勤した日の賃金よりも低くなりやすいという課題がありました。
休むと実質的に給与が減ってしまうと感じれば、従業員は有給休暇の取得をためらってしまいます。
有給休暇の取得率を社会全体で引き上げていくという国の方針に照らしても、望ましい状態とはいえません。
また、企業側にとっても有給休暇のたびに3カ月の賃金を確認して平均賃金を計算したり、労使協定を管理したりするのは、労務管理上の手間となります。
そこで、休んでも賃金が減らず、計算方法も比較的わかりやすい「通常の賃金」に統一する動きが進んでいるということです。
現状では計算方法によって支給額に差が生じる可能性があるため、今のうちに従業員への影響と事務負担のバランスを考慮した方法を確認しておくことが大切です。
※本記事の記載内容は、2026年8月現在の法令・情報等に基づいています。