『医師の偏在』解決に？ 地方で開業するメリットとデメリット

日本全体で見ると医師の数は増加傾向にありますが、その分布には依然として大きな偏りがあります。
都市部に多くの医師が集中する一方、地方では医師不足が深刻化しており、地域住民の医療アクセスに格差が生じている現状は、医療提供体制における重要な課題といえます。
こうした「医師の偏在」を是正する一つの手段となるのが、地方での医院の開業です。
地方での開業は、医師としてのキャリアに新たな可能性をもたらすだけでなく、地域医療の再生にも貢献できます。
地方での医院開業のメリットとデメリットを確認しておきましょう。

医師偏在は医療提供体制の確保に関わる問題

「医師の偏在」とは、医師が地域や診療科によって偏って分布している問題を指します。
ある地域には医師が多く集まっているのに対し、別の地域では医師が不足していたり、内科や整形外科の医師は多いものの、産科や救急科など特定の診療科では人手不足が深刻だったりするという状況は、長年にわたり続いていました。

医師の偏在が進行すると、地方や特定の診療科においては患者が適切な医療サービスを受けるまでに時間がかかったり、十分な医療を受けられなかったりする事態が生じかねません。
これは、地域住民の健康維持や生命に関わる重大な問題となり、早急な解決が求められています。

医師の偏在を是正するために国はさまざまな対策を講じていますが、その一つとして検討されているのが、外来医師過多地域における新規開業の制限です。
制限は、すでに医師が足りている地域での新たな開業を抑制し、医師不足地域への医師の誘導を促すことを目的としています。
ほかにも、厚生労働省を中心に総合的な医師の偏在対策が講じられており、医療法に基づく医療提供体制確保の基本方針に位置づけられています。

このような状況下において、地方での医院の開業は、医師の偏在を是正するための重要な一手となり得ます。
地方に新たな医院が誕生することは、地域住民の医療アクセスを向上させ、医療サービスの質を高めることにつながります。
また、地域医療の担い手となる医師の存在は、地域住民に安心感を与え、地域社会の活性化にも貢献するでしょう。

地方で医院を開業するリスクとメリット

医師の偏在問題の解決につながる地方での開業ですが、リスクについてもしっかりと把握しておく必要があります。

人口減少と高齢化は地方ほど進んでいます。
総務省の調査によると、2045年の65歳以上人口の割合は、首都圏で30％台であるのに対し、地方では40%を超えることが予測されています。
したがって、地方での開業は都市部に比べて、十分な患者数を確保するまでに時間がかかる場合があります。
特に、専門性の高い診療科の場合、患者の絶対数が限られるため、経営が不安定になる可能性も考慮しなければなりません。

また、地方では医療従事者の絶対数が少ないため、看護師や医療事務などのスタッフを確保することが都市部に比べて困難な場合があります。
地域の人材を活用したり、都市部からの移住者を積極的に採用したりするなど、多様な人材確保の手段を検討する必要があるでしょう。

もちろん、メリットもたくさんあります。
地方で医療機関を開業する最大のメリットの一つは、地域医療に直接的に貢献できることです。
医師不足に悩む地域では、新たな医療機関の開設が地域住民の希望になります。
患者一人ひとりとじっくり向き合い、地域に根ざした医療を提供することで、住民からの信頼を深く得ることができ、さらには医師としてのやりがいや充実感にもつながるでしょう。

また、地域のイベントへの参加や、学校医、産業医など、地域に密着した活動を通じて、住民との信頼関係を築き、地域社会と深く関わることも可能です。
こうした活動は、医師としての視野を広げ、新たなキャリアパスを切り開く可能性も秘めています。

そして、地方では都市部に比べて、競合となる医療機関が少ない傾向にあります。
そのため、適切な医療を提供して、地域住民のニーズに応えることができれば、比較的早期に経営を安定させることも不可能ではありません。
土地や物件の費用、人件費なども都市部に比べて安価になる場合が多く、初期投資や運営コストを低く抑えられる可能性もあります。
地域の特性を理解し、患者のニーズに合致した医療を提供することで、長期的な視点での安定経営を目指せるでしょう。

地方での医院開業は、地域医療の活性化に貢献するだけでなく、医師自身のキャリアに新たな可能性を開くチャンスにもなります。
新規開業を考える際は、メリット・デメリットを把握し、地方開業も現実的な選択肢として検討するとよいでしょう。


※本記事の記載内容は、2025年６月現在の法令・情報等に基づいています。