藤垣会計事務所

『男女雇用機会均等法』で定められた『間接差別の禁止』とは?

25.01.14
ビジネス【労働法】
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「男女雇用機会均等法」は、職場における男女の均等な機会や待遇の確保を目的とした法律です。
同法では、婚姻、妊娠、出産などを理由とする不利益な取り扱いの禁止や、職場における妊娠・出産に関するハラスメント防止対策措置を講じる義務が定められています。
また、募集、採用、昇進などで性別を理由とした「間接差別」なども禁止されています。
間接差別とは性別以外の事由を要件としながらも、実質的に性別を理由とする差別になってしまうおそれがあるもののことです。
事業者であれば理解しておきたい、間接差別の要件について解説します。

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直接差別と間接差別の違いとは

男女雇用機会均等法では、性別に関係なく、すべての労働者に均等な機会および待遇を与えなければならないとしています。
したがって、同法の第5条と第6条では、募集や採用はもちろん、配置、昇進、降格、教育訓練、福利厚生、職種の変更、雇用形態の変更、退職、定年、解雇、労働契約の更新など、すべてのステージにおいての「性別を理由とした差別の禁止」を定めています。
たとえば、採用の際に男性を多く採用したいからといって、女性であることを理由に募集や採用の対象から外すことは認められていませんし、男性もしくは女性であることを理由に優先して昇進させることも許されていません。

こうした明らかな性別に基づく取り扱いの違いは「直接差別」と呼ばれます。
一方、表面上は平等な仕組みでも、運用の結果として実質的にどちらかの性別に不利益になってしまう制度や取り扱いがあります。
それが「間接差別」です。
男女雇用機会均等法の第7条では、間接差別を禁止しており、直接差別と同様に合理的な理由のない間接差別を行なった事業者はペナルティの対象となります。

もし男女雇用機会均等法に違反すると、厚生労働大臣もしくは都道府県労働局長から助言や指導、勧告を受ける可能性があります。
勧告に従わない場合は企業名が公表されるほか、厚生労働大臣から求められた報告をしなかったり、虚偽の報告をしたりすると、20万円以下の過料が科せられる場合があるので注意してください。

間接差別に該当する具体的な事例

では、どのような行為が間接差別に該当するのでしょうか。
厚生労働省令では、間接差別となる例の一つとして「労働者の募集や採用にあたり、労働者の身長、体重または体力を要件とすること」をあげています。
もし募集の条件に「身長170cm以上」という要件を設けた場合、表面上は男女差別には見えないかもしれませんが、実際には身長170cm以上を満たすのは男性がほとんどで、女性の募集を排除してしまうことになります。
このように直接的ではないけれども、実質的に差別になってしまっているのが間接差別です。

たとえば、重い荷物を運搬する業務において、業務を行うための最低限の体力の有無を採用の要件とする場合は、合理的な理由があるため間接差別とはいえません。
しかし、重い荷物を運搬するための設備や機械がすでに導入されており、業務において体力がそこまで必要ないにもかかわらず、体力や筋力の有無を採用の要件としている場合は、間接差別に該当する可能性があります。

ただし、募集する際の「ガッツのある人」「体育会系の人」といった抽象的な表現は「体力の有無を採用の要件としている」とまではいえません。
逆に、体力を要件にする合理的な理由がある場合は「○kg以上の荷物が持てる人」のように、具体的な数字を示すことが大切です。

また、厚生労働省令では「労働者の募集や採用にあたり、転居を伴う転勤に応じることができることを要件とすること」も、一般的に女性が不利になるため、間接差別と定めています。
間接差別とならないためには、転居を伴う転勤に合理性がなければいけません。
たとえば、広域にわたって展開している支店や支社がないにもかかわらず、「転居を伴う転勤に応じることができることを要件」としていた場合は、間接差別にあたります。

こうした間接差別は、事業者側に差別の意図があったかどうかは関係ありません。
差別の意図がなくても、一方の性別に不利益が生じていた場合は、間接差別となります。

厚生労働省令であげられた2つの事例以外にも、個別に合理性が判断されるため、結果として間接差別に該当してしまうケースが存在します。
2024年5月には、一般職の女性が素材大手メーカーの子会社を相手取って起こした裁判で、ほぼ男性で占められた総合職にのみ家賃の8割を補助する社宅制度を認めているのは間接差別だという判決が出ました。
間接差別が認定されたのは、今回の裁判が初めてです。

社宅制度などは多くの企業が導入している制度でもあります。
事業者が認識していなくても、間接差別は起きているかもしれません。
法令違反や訴訟リスクを避けるためにも、事実上どちらかの性別だけに適用されている制度や取り組みがないか、現時点で確認しておくことをおすすめします。


※本記事の記載内容は、2025年1月現在の法令・情報等に基づいています。