税理士法人芦田合同会計事務所

気をつけたい登記トラブル! 所有者による二重譲渡

21.10.05
業種別【不動産業(登記)】
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不動産登記のトラブルの一つに、売り主が同じ不動産を複数の人に譲渡する『二重譲渡』があります。
二重譲渡が行われると、“不動産を購入して所有権移転登記をしようとしたら、すでに別の第三者が登記をしていて、登記ができなかった”という問題が生じることがあります。
不動産の所有権は、売買した順位に関係なく、先に登記を行った人が主張できるため、登記できなかった買い主は不動産を所有できなくなってしまいます。
今回は、そんな二重譲渡が起きた場合の対処法や予防策について、解説します。
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先に登記を済ませた人が所有権をもってしまう

一般的な不動産取引では、売買契約を締結した際に買い主は売り主に手付金を渡し、後日、物件の引き渡しを行うタイミングで残代金の決済と所有権の移転登記を行います。
この“契約の締結と登記までに時間差があること”が、二重譲渡が起きてしまう原因の一つにあげられます。

たとえば、買い主Aが売り主Bから不動産を購入したところ、同じ不動産が買い主Cにも売られており、すでに買い主Cが所有権移転登記を済ませていたとします。
この場合、先に売買契約を締結したのは買い主Aであっても、不動産はすでに所有権を登記していた買い主Cの所有物になってしまいます。

所有権の移転は通常、売買契約を締結した際に効力が発生するとされていますが、上記のケースでは買い主Aと買い主Cの二重に所有権が譲渡されたことになります。
しかし、両者の所有権が共存することはできないため、対抗要件(当事者間で効力のある権利関係を第三者に対して主張するための法律的要件)として、先に登記を済ませた買い主Cが所有者になるわけです。

もし、買い主Aが該当する不動産を占有していたとしても、買い主Cが所有権を持っているわけですから、明け渡しを求められたら応じなければいけません。

登記は、不動産の所有者が誰なのかを第三者にわかるようにするために行うものです。
しかし、登記を怠っていたものが保護されない場合もあり、そちらはやむを得ないといえるでしょう。


二重譲渡をした売り主には責任を追及できる

二重譲渡が判明した段階で、買い主Aは、二重譲渡を行った売り主Bに対して、支払い済みの売買代金の支払いを請求できます

また、損害を立証できれば、民法上の責任を追及することができます。

さらに、売り主Bに対しては、刑事責任が問われることもあります。
たとえば、買い主Aに不動産を売却したにもかかわらず、所有権を移転せずに、買い主Cに不動産を売った場合、横領罪や詐欺罪が成立する可能性があります。
また、売り主Bは、売買契約を締結した買い主Aの所有権移転登記に協力する義務があり、これを怠ったとして、背任罪が成立する場合もあります。

一方で、買い主Cに対しては、もしも買い主Aの存在を知りながら登記を行ったのだとしても、原則として、民法上や刑事上で責任を問うことは難しいでしょう。
なお、買い主Cが、例外的に、著しく正義に反する行為によって登記を得た者(背信的悪意者といいます)といえれば、登記がなくても対抗できます。
たとえば、(1)詐欺・強迫によって登記申請を妨げた者、(2)買い主Aのために登記申請する義務を負う者は、登記がないことを主張できないとされています。


二重譲渡を防ぐために有効な『仮登記』

このような、不動産トラブルの代表格ともいえる二重譲渡を防ぐには、仮登記が有効です。

仮登記とは、本登記を行うための順位を確保するためのもので、売買契約を締結させるタイミングで仮登記をしておけば、たとえ後から所有権移転登記をされたとしても、その順位を保全されているため、本登記をした段階で所有権を主張することができます

つまり、前述の例で、買い主Aが売買契約の段階で仮登記をしておけば、買い主Cは登記をしていたとしても、買い主Aが本登記をした段階で所有権を失うことになります。
仮登記自体に効力はありませんが、本登記を行ったときに、対抗力をもつことになるというわけです。

そもそも仮登記がされている不動産には、第三者は手を出しづらく、二重譲渡に至らないことがほとんどです。
もし登記をしたとしても、仮登記をしている人に本登記をされると所有権を失うことになるからです。

二重譲渡を防ぐためにも、不動産の売買契約の際には、仮登記を行っておくことが望ましいでしょう。


※本記事の記載内容は、2021年10月現在の法令・情報等に基づいています。