税理士法人芦田合同会計事務所

『朝残業』は時間外労働? 残業代の基礎知識

19.12.10
ビジネス【労働法】
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『残業』というと、終業時間後に残って仕事を行うというイメージですが、始業時間前に会社へ来て仕事をする『朝残業』を率先して行う人が増えてきています。 
朝残業には、通勤ラッシュを回避できたり、夜に早く帰れたりといったメリットがあり、従業員のワークライフバランスや生産性向上にもつながります。
経営者としても歓迎したいところですが、残業代を支給するのかどうかなど、不透明な部分も多いと思います。 
今回は、『朝残業』についてご説明します。
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朝残業も時間外労働になってしまう?

始業時間前に会社に来て働く『朝残業』は、夜の残業と同じ時間外労働です。
よって、朝残業をした従業員にもきちんとその時間分の残業代を支払わなければなりません。
一方で、社員が自主的に朝残業を行っている場合には、残業代を支払わなくていいケースもあります。

具体的な例に沿って、ご説明します。

そもそも終業時間後の残業も、始業時間前の残業も、それが“労働時間にあたるかどうかが大きなポイントとなります。

実は、労働時間の定義というものは、法律で明言されておらず、過去の判例などによって統一の基準が示されています。
それによれば、労働時間とは『労働者が使用者の指揮命令下に置かれた時間』のことを指します。
つまり、事業主から働くように指揮命令があった場合に、労働時間とみなされるわけです。

判例では、労働時間は労働契約や就業規則、労働協約などで決まるものではなく、指揮命令下に置かれたかどうかといった客観的な事実で判断されるものとしています。
いくら契約や就業規則で、『始業時間前の労働は時間外労働にはあたらない』としていても、その仕事が指揮命令下に置かれていたものであった場合には、時間外労働に該当してしまいます。

一方で、指示していないにもかかわらず、従業員が通勤ラッシュを回避したいために早朝出勤を行っている場合や、早朝に出社しても、職場で新聞を読んだりコーヒーを飲んだり、始業までの時間をプライベートなことに使っていたりする場合は、労働時間とはみなされないので、残業代を支払う必要はありません。


慣例や暗黙の了解も『使用者の指示』になる

新入社員などに対し、上司が早く仕事を覚えさせるために、始業時間の1時間前に出社するように指示している場合があります。
新人に勉強させるという目的は理解できますが、この1時間に対しても『使用者の指揮命令下に置かれた』とされるので、残業代を支払わなければ、法律違反になってしまいます。

では、新入社員が始業時間の1時間前に来ることが慣例となっている場合にはどうなるのでしょうか。
上司が直接指示をしているわけではないので、『使用者の指揮命令下に置かれた』とはならないように思われますが、これも時間外労働になってしまう可能性があります。

使用者の指揮命令下に置かれたかどうかは、その時間の従業員の作業が業務に関連するものかどうかと、使用者の指示や暗黙の指示があったかどうかで判断されます。
つまり、使用者側が1時間前に来るように伝えていなくても、暗黙の了解として1時間前出勤が慣例となっていた場合には、“暗黙の指示”として『使用者の指揮命令下に置かれた』とされ、残業代を支払わなければならないケースに該当する可能性も出てきます。

さらに、もう一つの判断基準として、『人事査定上の不利益があるかどうか』もポイントになってきます。
上記の例でいうと、新人が始業時間の1時間前に出社しなかったことで人事査定上の不利益が発生する場合には、完全に使用者の指揮命令下に置かれたといえます。
逆に、ただの慣例なので、始業時間の1時間前に出社しない新人社員がいたとします。
その際に人事査定上の不利益がまったくないと判断されれば、ほかの新人社員が1時間前に出社しても、それは『使用者の指揮命令下に置かれた』とはいえないことになります。

しかし、そのようなケースはまれで、1時間前出勤が慣例になっている職場でたった一人がそれに従わないのであれば、なんらかの人事査定上の不利益が発生するケースがほとんどです。

ほかにも、始業時間前に制服や作業服に着替える時間や、始業時間前の朝礼や掃除の時間なども、『使用者の指揮命令下に置かれた』とされ、時間外労働とされる可能性があります。

時間外労働とされないのは、あくまで社員が自主的に早朝に出社し、使用者の指示はもちろん、“暗黙の指示”もないと認められる場合だけです。
それ以外のケースでは、朝残業といえども残業代が発生するので、注意しましょう。


※本記事の記載内容は、2019年12月現在の法令・情報等に基づいています。